担当の推し
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次の日はオフだった。久しぶりの休日のくせに、ゲームもそこそこに俺は外出しようとしている。誰に見せる訳でもないのに無駄にオシャレをして、うざったいくるくるのくせっ毛をアイロンで伸ばす。丁寧に鏡で変なところがないか確認をすると、昨日のカフェへと軽い足取りで向かった。
“今日仕事!ライブの熱で頑張れる”
今朝のつぶやきを見て、またふっと口角が緩んだ。
外はもうすっかり真夏で、遠くのアスファルトがジクジクと波打っているのが見える。カフェに入ればスっと心地よい冷気が肌に触れた。
「いらっしゃいませ!」
そんな声にドキッと心臓が脈打つ。…彼女だ。
シンプルなシャツと制服のエプロンを身につけて、レジ前に立つ彼女を見つけると、なんだかソワソワしてしまった。
「こんにちは。ご注文はお決まりですか?」
昨日と同じ、ふわふわとした笑顔で俺を見る彼女に思考が停止する。
『こんにちは。…えっと…』
やっとの思いで挨拶はしたものの、カフェに来た目的は彼女に会いたかっただけで、何を注文したいのか考えていなかったことに気づいた。こんな時ばかり、帽子とサングラスをしていてよかったと思う。きっと今の俺は苺ぐらい顔が赤くなっているし、目は泳いでいるんだろう。
結局アイスコーヒーを1つ頼んでおしまい。もっとオススメとかなんやかんや彼女と話す手建てあっただろう、俺!持ち前の陰キャが発動して、そんな自分を戒めながら、昨日と同じ席に座った。遠くから、テキパキと働く彼女を見つめてはぁっとため息が出る。SNSを見て勝手に想像していた以上に彼女は可愛い。ふわふわの笑顔。時折見せる真面目な顔。カウンターから出てきた彼女はスラッとしたスタイルで、足のラインが見えるスキニーがよく似合っている。…正直タイプ。どタイプ。
ファンに対してこんな感情を抱くのは如何なものか。培ってきたプロ意識が俺のふやけた感情にナイフを向けている気がした。
「あの、おかわりどうですか?」
『え。』
気づけば彼女が俺の前に立っている。ドッドッと心拍が急激に上がるのがわかった。俺の手元のカップを覗けば、いつの間にか空になっていて、彼女はコーヒーの入ったピッチャーを持っていた。
『あ…じゃあ、お願いします』
柄にもなく震えた手でカップを差し出せば、それを持つ彼女の指先が少し触れた。
っ、あ。これ、好きなやつだ。
触れた指先がじんわりと熱を持って、それが顔にまで到達するスピードは早かった。
「どうぞ、ごゆっくり」
そう言って立ち去ろうとする彼女を、何とかして引き止めたくて俺は精一杯の『あの!』を言った。その次なんも考えてないくせに。
「どうされました?」
彼女は俺の方を再度見て、少し首を傾げる。そんな姿すら心がキュッとなってしまうのは重症かな。
まだ俺を山田涼介だと分かっていない素振りの彼女に、なんとか気づいて欲しくなった。
『…昨日の夜、ライブ行ってたんですよね』
なんて言ってみれば彼女はハッとした顔をして、みるみるうちに顔を赤くした。
「昨夜はその、ごめんなさい。うるさかった…ですよね」
赤い顔をして眉尻を下げる彼女。…え、まさかその反応、俺だってバレてない?…え、俺だよ?プライベートの写真はいくつかSNSで上げてきているし、きっと見た事あるよね、この帽子とか!?この近距離で話しているのに、彼女は俺に気づく気配を一向に見せない。そんな状況にむずむずとして、俺は周りにバレないようにそっと帽子とサングラスを外してみた。
『…楽しかったですか?』
渾身の笑顔を見せてみる。どうだ、目の前に推しがいるぞ。
彼女は少しだけ俺の顔を見たあと、「すごく、楽しかったですよ」そう言ってカウンターへと戻って行った。
…。あれ?え、…それだけ?
頭の中ハテナでいっぱいになる。
え、なんで?おれ…俺山田涼介だよね?あれ?こういう時って普通キャッとかなるもんじゃないの??
俺の予想に反して、彼女は顔色一つ変えず今も仕事を続けている。手元のカップに入った氷が虚しくカランと音を鳴らした。
…なんか、悔しいんですけど。
周りにバレるリスクを負ってまで、彼女の気を引きたかったのにスカ食らった俺は、残ったアイスコーヒーを一気にストローで吸い上げた。
「買い出し行ってきます!」
ボーとしていれば、そんな彼女の声が聞こえてハッとする。もしやこれはちゃんと話すいい機会なんじゃ。
我ながらストーカーじみてると思う。彼女がカフェを出る姿を見ると、俺も続くように席を立った。
『あの。』
エプロンを外して、片手にはエコバックを持った彼女に後ろから声をかけると、不思議そうな顔をして振り返った。
生ぬるい風が吹けば、彼女の柔らかい、いい匂いが俺の鼻をかすめる。
「…あ、さっきの…」
彼女は先程と同じように何事もない顔をして俺を見ている。改めて、え、俺山田涼介だよね。なんて自問自答。彼女の言うところの神であるはずなのに、昨夜見せていた大興奮の彼女はどこへやら。目の前の彼女は俺を不思議そうな顔で見つめていて、そんな姿にも胸が締め付けられる。
『え、と…俺のこと知ってます、よね?』
そういえば彼女は少し困った顔をして、「はい」と小さく頷いた。
「…ただ、あの…プライベートに触れてしまうのはおこがましいので、失礼します」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔、とはつまり今の俺のことで。
彼女は小さく頭を下げると急ぎ足で去っていった。
え、な、え?どういう…?これ、普通もっと喜ぶとか「いつも応援してます!」とかそういう流れなんじゃないの?
俺が思った以上に彼女はファンとしてのプロ意識(?)が高かったみたいで、こんな初めての出来事に戸惑わずにはいられなかった。
“今日仕事!ライブの熱で頑張れる”
今朝のつぶやきを見て、またふっと口角が緩んだ。
外はもうすっかり真夏で、遠くのアスファルトがジクジクと波打っているのが見える。カフェに入ればスっと心地よい冷気が肌に触れた。
「いらっしゃいませ!」
そんな声にドキッと心臓が脈打つ。…彼女だ。
シンプルなシャツと制服のエプロンを身につけて、レジ前に立つ彼女を見つけると、なんだかソワソワしてしまった。
「こんにちは。ご注文はお決まりですか?」
昨日と同じ、ふわふわとした笑顔で俺を見る彼女に思考が停止する。
『こんにちは。…えっと…』
やっとの思いで挨拶はしたものの、カフェに来た目的は彼女に会いたかっただけで、何を注文したいのか考えていなかったことに気づいた。こんな時ばかり、帽子とサングラスをしていてよかったと思う。きっと今の俺は苺ぐらい顔が赤くなっているし、目は泳いでいるんだろう。
結局アイスコーヒーを1つ頼んでおしまい。もっとオススメとかなんやかんや彼女と話す手建てあっただろう、俺!持ち前の陰キャが発動して、そんな自分を戒めながら、昨日と同じ席に座った。遠くから、テキパキと働く彼女を見つめてはぁっとため息が出る。SNSを見て勝手に想像していた以上に彼女は可愛い。ふわふわの笑顔。時折見せる真面目な顔。カウンターから出てきた彼女はスラッとしたスタイルで、足のラインが見えるスキニーがよく似合っている。…正直タイプ。どタイプ。
ファンに対してこんな感情を抱くのは如何なものか。培ってきたプロ意識が俺のふやけた感情にナイフを向けている気がした。
「あの、おかわりどうですか?」
『え。』
気づけば彼女が俺の前に立っている。ドッドッと心拍が急激に上がるのがわかった。俺の手元のカップを覗けば、いつの間にか空になっていて、彼女はコーヒーの入ったピッチャーを持っていた。
『あ…じゃあ、お願いします』
柄にもなく震えた手でカップを差し出せば、それを持つ彼女の指先が少し触れた。
っ、あ。これ、好きなやつだ。
触れた指先がじんわりと熱を持って、それが顔にまで到達するスピードは早かった。
「どうぞ、ごゆっくり」
そう言って立ち去ろうとする彼女を、何とかして引き止めたくて俺は精一杯の『あの!』を言った。その次なんも考えてないくせに。
「どうされました?」
彼女は俺の方を再度見て、少し首を傾げる。そんな姿すら心がキュッとなってしまうのは重症かな。
まだ俺を山田涼介だと分かっていない素振りの彼女に、なんとか気づいて欲しくなった。
『…昨日の夜、ライブ行ってたんですよね』
なんて言ってみれば彼女はハッとした顔をして、みるみるうちに顔を赤くした。
「昨夜はその、ごめんなさい。うるさかった…ですよね」
赤い顔をして眉尻を下げる彼女。…え、まさかその反応、俺だってバレてない?…え、俺だよ?プライベートの写真はいくつかSNSで上げてきているし、きっと見た事あるよね、この帽子とか!?この近距離で話しているのに、彼女は俺に気づく気配を一向に見せない。そんな状況にむずむずとして、俺は周りにバレないようにそっと帽子とサングラスを外してみた。
『…楽しかったですか?』
渾身の笑顔を見せてみる。どうだ、目の前に推しがいるぞ。
彼女は少しだけ俺の顔を見たあと、「すごく、楽しかったですよ」そう言ってカウンターへと戻って行った。
…。あれ?え、…それだけ?
頭の中ハテナでいっぱいになる。
え、なんで?おれ…俺山田涼介だよね?あれ?こういう時って普通キャッとかなるもんじゃないの??
俺の予想に反して、彼女は顔色一つ変えず今も仕事を続けている。手元のカップに入った氷が虚しくカランと音を鳴らした。
…なんか、悔しいんですけど。
周りにバレるリスクを負ってまで、彼女の気を引きたかったのにスカ食らった俺は、残ったアイスコーヒーを一気にストローで吸い上げた。
「買い出し行ってきます!」
ボーとしていれば、そんな彼女の声が聞こえてハッとする。もしやこれはちゃんと話すいい機会なんじゃ。
我ながらストーカーじみてると思う。彼女がカフェを出る姿を見ると、俺も続くように席を立った。
『あの。』
エプロンを外して、片手にはエコバックを持った彼女に後ろから声をかけると、不思議そうな顔をして振り返った。
生ぬるい風が吹けば、彼女の柔らかい、いい匂いが俺の鼻をかすめる。
「…あ、さっきの…」
彼女は先程と同じように何事もない顔をして俺を見ている。改めて、え、俺山田涼介だよね。なんて自問自答。彼女の言うところの神であるはずなのに、昨夜見せていた大興奮の彼女はどこへやら。目の前の彼女は俺を不思議そうな顔で見つめていて、そんな姿にも胸が締め付けられる。
『え、と…俺のこと知ってます、よね?』
そういえば彼女は少し困った顔をして、「はい」と小さく頷いた。
「…ただ、あの…プライベートに触れてしまうのはおこがましいので、失礼します」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔、とはつまり今の俺のことで。
彼女は小さく頭を下げると急ぎ足で去っていった。
え、な、え?どういう…?これ、普通もっと喜ぶとか「いつも応援してます!」とかそういう流れなんじゃないの?
俺が思った以上に彼女はファンとしてのプロ意識(?)が高かったみたいで、こんな初めての出来事に戸惑わずにはいられなかった。