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M0on Beams




 最後の踊り場を回って薄く光の射しこんでくる階段を見上げると、その先の細く開いたドアからボソボソと低い話し声が聞こえた。流川は階段を2段飛ばしに駆け上がり、ドアノブを掴んで勢いよく開いた。
「お、あぶね」
 言葉の割には大して驚いてもいないようなのんびりした声が返り、流川は入れ替わりに屋上から入ってきた男を睨んだ。
「水戸」
「よぉ。お昼寝?」
 自分より大分下の目線と軽口ながら、受ける圧に流川は僅かに眉を寄せた。
「センセーいるよ」
 どちらも無視してすれ違いざまにまた睨み下ろすと、笑いを含んだ余裕のある顔で見返されてますます寄せた眉に力が入った。屋上に踵を踏み潰した上履きの足を踏み出すと、探すまでもなく三井はすぐ脇の床に座りこんで流川を見上げていた。胡坐を組んだ膝の上には弁当が広げられている。
「こらー。まーた違反ヤローがやってきやがった。戻れー。ここは生徒立ち入り禁止だぞー」
 間延びした声はスルーしてその隣に流川は腰を下ろした。
「水戸とナニ話してたの」
「おまえ人の話し聞けって。ここは立ち入り禁止だっての」
「センセーは弁当食ってる」
「おめーらみたいのがいるから下っ端の先生は屋上の張り番命じられてんの。あ、おい」
 流川は三井の手を取り、その持っていた箸の先の玉子焼きを口の中に頬張った。
「甘ぇ」
「おまえ人の弁当食っといて文句とか、」
「水戸とナニ話してた?」
「おまえ…」
 三井は諦めたように首を振り、弁当箱の中の惣菜をまた一つ摘まみ上げた。
「みんなおまえみたいなのばっかりだって思うなよ」
 喋りながら甘い玉子焼きを放り込む大きく開けた口元を見て、今ならキスをしても中まで甘いんだろうなと流川は思う。
「あんたは隙ばっかりだから」
「人の話し聞いてー?」
「渡米先決まった」
 小さい咀嚼音が一瞬止まって、すぐにまた再開される。その一瞬に踏み込むつもりで流川は続けた。
「2年待った。センセーはオレが卒業したら考えるって言った」
「まだ卒業してねーだろ」
「来学期はもう自由登校だし。進路も決まったし卒業したのと同じ」
 三井は流川が一年の初夏に赴任してきた。突然バスケ部に現れて目を奪うほどの綺麗なフォームでシュートを決めて、とても年上にはみえない悪戯な顔で得意そうに笑って、流川はそれにどうしようもなく苛ついた。
 安西先生の元教え子。大学までバスケをやっていたとかで、確かにそれまでワンオンをやった中でもトップレベルの技量を持っていた。
 だから苛つく。そう考えていたのに、いつの間にか心の中から追い出せなくなっていた。無視もできない。ようやく己の感情の自覚に至ったのは一年を経過してからで、その日の内に三井のところに行って心情を吐露して返ってきた答えが「卒業したら考えてやる」だった。
 わかっている。子供と思っている相手をあしらう便利な言葉であることぐらいは。
 それでも諦めるという言葉は流川の中にはなかった。体調のことで休みが多くなっていた安西監督に代わって毎日バスケ部に顔を出すのはコーチを務める三井で、顔を合わせる度に言葉でも態度でも示してきたつもりだった。
「同じじゃねーよ」
 ポコンと裏拳で頭を叩かれて、その叩かれた頭に自分の手をやってから流川は三井との間の床に手をついて、三井の唇にキスをした。
 甘い。やっぱり甘い。
 三井はキスを嫌がらない。返しもしてこない。唇を離すと目で咎めて、また箸を動かして、何でもないように弁当を食べ始める。ズルい。ズルい大人。
「俺の恋人になって」
「おまえはアメリカ行くんだろ?」
「行く」
「バスケで一番になるんだろ?」
「なる」
「頑張れ」
 埒が明かない。流川は三井の手から弁当を取り上げて脇に置き、唇を尖らせて喚いてくる体を抱きしめた。
「センセー。俺は必ず戻ってくるから。だからそれまで誰のものにもならないで」
 フッと小さく吐かれた息を耳元に感じて、流川はさらに強くその体を抱いた。
「…そーいうとこが子供だってんだよ」
 抱きしめ返してこなかったけれども。その言葉の調子に微妙にいつもと違うトーンを感じ取って、流川は三井の体から腕を解いた。三井は自由にされても顔を俯けたままだった。
「センセー?」
「いつ出発?」
「来年? の春…?」
「なんでそこ疑問形なんだよ」
 そこでようやくいつもの声を取り戻した三井は笑い声を上げ、流川に取り上げられた弁当箱をまた自分の膝の上に置き、勢いをつけて食べ始めた。
「しゃーねぇな。見送りに行ってやるよ」
「その前に会いたいんスけど。二人で」
 三井は口に運びかけた箸を止めた。
「いつ」
「えーと冬休み? とか?」
「部活があるな」
「そのあと」
「うん」
 三井はいつの間にか食べ終わっていた弁当箱の蓋を閉め、敷いていた布で包み直し手に持って立ち上がった。流川もそれに続いて慌てて立ち上がる。ここで逃がしたらまたこの関係は変わらない。もう時間がない自分にはそれは許されない。
「いつ?」
 先に階段室に入りかかっていた三井はそこで流川に振り向いた。思った以上に近い距離に流川が目を瞬く。
「今日もあるだろ?」
 一瞬、三井の目に至近距離から覗かれて、その大きな瞳の中にいる自分を見つけて流川は動きが遅れた。もう背を向けて屋内に入って鍵束をポケットから出していた三井が大きな声を出す。
「ほらーもう閉めるぞー!」
 今日。これもいつものけむに巻く手段なのかもしれないけど。部活が終わった後もまたのらりくらり逃げるのかもしれないけど。
 三井の目の中に自分の存在が見えたような気がした。それならもう迷うことはない。
 流川は三井について階段を降りつつ、もしかしてもう来ることがないかもしれない屋上に背を向けた。




っていうような話しをね、書いてみたいデス。
残念ながら今回は時間がなかったので。急いでて会話文多くて申し訳ないデス🙇
ホラ、視聴覚室とかサ、準備室とかサ。合宿とかサ。
一話づつでもね、書いていけたらナ、と。
思っておりマス((´∀`*))

書き込みボードでシチュエーションのリクエストありがとうございました🙇
次回独尊等にちょっとづつでも上げていきます。
引き続きシチュエーションリクありましたらツイの方にお願いします💓
次回独尊で上げられたらよいなーと思います。
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