ride on time




 今日は家を空ける、と海から戻ってきた牧が朝食の席につくなり口を開いた。茶碗についだ白飯をそれぞれの前に置いて仙道が顔を上げると、牧は食卓に寄ってきた犬の顔の前に人差し指を立てていて、少し厳しく作った横顔だけが見えていた。犬がしょんぼりと尾を下げてリビングへと戻ると、ようやく仙道は声を出すことができた。
「用事?」
 続けて味噌汁を盆の上からテーブルに移しながら他に言いようがないのか、と己に内心舌打ちしたが、牧は気にした様子もなく、「ああ、まあな」と流して箸を取った。
「おまえも今日は自由に過ごせ。夕飯前には戻ってくる」
「…うん」
 聞きたいことは沢山あるのにどれも言葉にはならなかった。俺は明日帰るんだよ?とか。それもわかっていての予定なのだろう。
 いきなり何の前触れもなく来たのは自分だった。連絡すれば牧にまた姿を隠す理由と時間を与えてしまうと考えた自分がいた。それでも己の尻に蹴りを入れるつもりで押しかけてきた仙道は、登りかけていた梯子を外されたような気がした。牧がスーツを着て2階から降りてきた時には再就職の件か、と見当がつけることができて、逆にそれがわけのわからない焦燥になった。
 通告通りに牧が車に乗って出て行くと、仙道は残された犬二匹とともにまた途方に暮れた。自分が三匹目の犬にでもなったようだった。
「…よし、今日は障子を張り替えよう」
 誰も聞く者がない部屋で一人声をあげると、クロがちらりと目をくれて大きな欠伸をした。
 日参しているホームセンターのパートらしきおばさんには顔を覚えられてしまったようで、「今日は一人?」と聞かれて仙道は顔を曖昧に笑わせた。それでも障子を貼り替える際に必要な道具などのアドバイスを受けることができて礼を言って、また大量の荷物を車に積み込んだ。
 一人では食事を作る気にもならずに昼は適当にあるもので済ませようと考えていたが、夕飯の準備はしておこう、と思い直して食材を買い込むためにスーパーの駐車場に車を入れた。今日はカレー。それは思いついていて、並んだ夏野菜と地元の海産物を見てシーフードにしようと決める。
 仙道が持ち込んだワインは既に飲み尽くしていた。牧の家にワインの買い置きはあったかなと冷蔵庫の中を思い出そうとしてわからず、牧に連絡を取ろう、と考えて今何をしているかわからないところにこんなことで邪魔をするのもおかしいか、と諦めた。そんなことがどうにも侘しく感じられて、いや、本当に寂しいのは今牧が隣にいないことだ、と仙道は一人で押すカートの中身を見た。野菜、海産物、と並んで、肝心のカレールーがない。市販でいいだろうと売り場を探して引き返した。
「何しに行くんだ」くらい、友人だって聞けるだろう。むしろその方が気兼ねない。牧だっていつまでも働かずにいられるわけはないだろう。
 カレールーをカゴに投げ入れて、そうだったワイン。とまたウロウロとカートを戻す。適当に白は辛口、赤はボディが強いとボトル裏のラベルに書かれたものを選んでカートに追加し、カレーにワイン?と今更ながら考えたが戻すのも面倒でそのまま進んだ。レジに向かおうとしたところでウィスキーの瓶が並んだ棚の前で足が止まった。
 今日で4日めになる。明日にはもう出発しなければならない。明後日には自分はまた空の上で帰国できるのは1週間後。この忙しい時期に無理を押し通して休みをもぎ取った分、次回にここに来ることができるのはいつのことになるのか自分でも読めなかった。
 毎夜、寝る前の牧と波の音を聞きながらあのグラスでウィスキーを嗜む時間は仙道にとって特別だった。既に一瓶空きかけて、また新しく封を切ることになる牧の顔を考えてどれか適当に選んで行くか、と考えたが、その手が落ちた。決して焦らず、牧の信頼を得るまで何度でも来ると心に決めて来たけれど。
 5日は早い。まだ足りない。全然足りない。



 開け放したままのカーテンの向こうは海しかなかった。波のない凪いだ海面に映った月の上を、のんびりと小舟が漕いでその姿を消していく。
 夢みたいな光景だ、と思った。見えている異国の夜の海も、腕の中で眠る人も。
 目を閉じて寝てしまえば自分はまた1人、どこかの街の中のホテルの部屋で目を覚ますのかもしれない。パイロットになってから常に付きまとう自分の所在さえも定かでない心許なさで。憧れ続けた世界に後悔することはなかったけれども、自分を現に結ぶよすがを求める心はあって、それがこの人なのだと強く思った。
 ずっと熱と重みを感じながら夜通し海を見て過ごしていたっていい。
 思っていたより自分は臆病だったのだ、と仙道は感じた。
 腕の中の身体が身じろいで、仙道はその人が動きやすいように少し体を離した。それで意識が浮上したのか、目を開いた牧が吐息を漏らした。
「寝ないのか?」
「…寝られないよ。勿体なくて」
 正直に白状すると、牧はまた一つ息を吐いて起き上がり、ヘッドレストに背中を預けた。体を横たえて肘をついていた仙道がその顔を今度は見上げる。
「明日、もう今日か。戻らなければならないだろう。寝ておけ」
「うん…」
 牧が枕元に置いたペットボトルに手を伸ばし、呷った。動く喉元を見つめてひどく喉に乾きを感じて、「俺も」と強請ると、動きを止めた牧が仙道を横目で見下ろして覆い被さってきた。その背中に仙道は腕を回し引き寄せた。指は肌を押すように背中を這い、先刻重ねた熱を呼び起こそうとする。合わされた唇から、温い水が口の中に注ぎ込まれて、仙道は喉を鳴らして飲み干した。
「ねえ牧さん…」
 応えはなかったが、嗜める言葉もなく牧の体が仙道の上に重なってきた。凪いだ波のない海の、静かな潮の音が仙道の耳に響いた。



 夕方近くに戻ってきた牧は、リビングに入って今度はどこが新しくなったのかすぐに気が付いたようで、「器用だな!」と声を上げた。
 黄ばんでところどころ穴も開いていた障子はきれいに貼り直されていて、仙道はまたしても自慢げに顔を上げた。
「やったことあるのか?」
「ないけど。割と簡単だったよ」
 今はなんでもネットを覗けば載っている。動画を見ながらの障子貼りは言った通りに順調だったが、作業に入るまでが大変だった。障子を倒して、紙を湿らせ古い障子紙を剥がす前に、「一度やってみたかったんだよね」と一人プスプスと指で紙に穴を開けていると犬達が寄ってきた。「おまえ達もやりたい?」などと調子に乗って散々破いて散らかした後に、新しく紙を貼る段になってまたしても犬達が寄ってきた。今更ダメだと言ってもいうことを聞いてはくれない。仕方なくリビングから追い立てて廊下に出ると、2階に上がる階段が目に入った。
 スケルトンに作られたそこからは階上からの眩しい陽が射して玄関ホールまで明るく照らしている。この家に来てから一度も上がったことのない階段は、きっと一度も入ったことのない牧の寝室へと続いているのだろう。
 仙道は1階から階段をしばし見上げて、「いやいや」と首を振った。その仙道を尻目に犬たちは足取りも軽く2階へ上がっていく。振られる犬の尻尾を見て、この家を庭から見上げたときに気付いた2階の、海に向いた大きな一枚ガラスを思い出した。牧の居室とは違う興味を覚えて、特に禁じられたわけでもなし寝室に入らなければいいだろう、と考えて仙道は犬の後を追った。
 2階に上がると広くとられたホールの突き当りの窓がそれで、一面に広がる海が臨めた。脇には天井まで届く本棚と小さな円テーブル、肘掛け椅子が一台置かれていて、その奥に個室へ繫がるのだろうドアがあった。仙道が1階よりも余程本の並んだ棚に気を取られていると、2匹は鼻でドアを開けその奥の部屋へと当然のように入っていった。仙道は羨望の眼差しでそれを見送り、息をついてソファへと腰を下ろした。
 今日も変わることのない紺碧を見て、そういやここに来て海に入ってもいないな、と考えた。海は仙道にとっては牧に付随するもので、主体として考えることがなかった。学生の頃にハマっていた釣りも、パイロットを目指してからはすっかり忘れ去って、道具類はクローゼットの中に入ったままだった。その事を思い出し、釣竿を握る自分を想像してみたりもしたが、ここには見渡す限りの海岸はあっても釣りをするような環境は見当たらなかった。いや、右手に遠く海に突き出た岩が見えて、そこまで行けば或いは釣り場となるような磯もあるのかもしれない。
 クロが何かを咥えて牧の寝室から出てきて仙道の前を横切って思考を遮り、それをもう一匹がしきりに匂いを嗅ぎながら後を追った。
「おい、何持ってきてんの」
 慌てて2匹の後を追い、階段へ降りる前になんとか捕まえて咥えていた立方体に近い箱を取り上げた。
「あ…これ」
 クロの歯形がついてしまった箱に見覚えがあった。
『時計が欲しいなー』
 そう言って牧の反応を伺ったのは、副操縦士としてまだ牧につくこともあった欧州を飛び回っていた頃だった。
「おまえ、十分持ってるだろう」
 案の定呆れたような声が返ってきたが、仙道は「うん、そうなんだけど」と予想はしていた否定的な反応に飛びついた。
「ここ腕時計で有名なとこじゃないですか。記念に。牧さんもどうですか?」
 夕食がてら、と半ば強引に街に連れ出して、ドアマンににっこりと笑いながら見当をつけたおいた老舗の路面店に牧を誘い込むことに成功した。揃いの何かを持つことに憧れる柄でも年齢でもなかったが、表立って公表できない関係に何かしら形を見つけたいと思った。指輪では重いし、牧につけてもらえないかもしれない。そう考えて、この国がステイ先になる機会を狙って牧を引っ張り込んだ。
 大体の目途はつけておいたものの、実物を前にすると悩んだ。牧の視線からより牧の好みのものを選びたかったが、仙道の意図を察しているのかいないのか、なかなか腰を入れて時計を選ぶ素振りもみせない。
「創業者がパイロット志望だったんだよね」
 対応しているスタッフに声をかけると、「よくご存じで」とかけ直した眼鏡が光った。その事からこちらは航空業界に関連する品も多いと聞いた。彼はパイロットなのだがサーファーでもある。ダイバーウオッチと悩んでいるのだが、と伝えると、それならばと幾つか選んだ商品とともにソファへと案内された。
「うーん、やっぱりこっちかなー」
 購入を検討している人間は牧であるのだとミスリーディングを受けたスタッフから説明を受けて、牧は眉を寄せて仙道に視線をくれたものの、素直に腕に当てて品定めをしているようでもあった。最終的に二つまでに絞り、それに横から仙道が悩んでいると、
「まだ滞在なさるのでしたら、一晩考慮なさってみては。メンテナンスすれば一生使えるものですから」
とその初老のスタッフが気を回した言葉をかけてくれた。牧から「サイズだけ確認して、そうしたらどうだ」と前向きな声を添えられたこともあって、仙道はそれにおとなしく頷き、夕食を取るというこじつけの目的を果たしに店を出た。
 明け方に仙道は喉の渇きにふと目が覚めて、隣に眠る人を起こさないようにそっとベッドを抜け出た。冷蔵庫で冷えていたミネラルウォーターの瓶を飲み干して、ベッドに戻るときにサイドテーブルの上に夜に寝る前にはなかった箱を見つけた。
「なんだ?」と手に取ると、夕方に行った老舗の商標が薄明るい中にぼんやり見てとれた。
「うっそだろ…」
 箱から現れたのは最後の最後まで悩んだ腕時計だった。思わず口を片手で覆う。
「な…んで…」
 横でベッドが軋む音がして、仙道が目をやると、上半身を起こした牧がヘッドレストに寄りかかったところだった。伸びをするようにのばした左腕には仙道のものと同じ腕時計があった。牧のわざと澄ましたような顔があくびをすると、堪えきれない企んだ笑顔になった。
「もう一つの方がよかったか?」
「…いつ…?」
「おまえが熊に見惚れてた時。後でホテルに届けてもらった」
「あんた…」
 滞在した街のシンボルの熊が飼育されている公園が、夕食を取る予定の店への途中にあった。初めてこの街に来て見た時は、窮屈そうな堀の中で観光客に囲まれる熊のその境遇に同情したものだったが、今では広々とした公園でのんびり過ごしている熊を見てどこか安心した。すると後ろから来ていた牧が「社に連絡を入れる」と言って仙道の傍を離れた。
「もうあんた…男前過ぎ」
 それに比べて自分はなんとわかり易い幼稚な誘い方をしたのかと顔から火が出そうだった。
「気に入らないか?」
「そんなわけない。…ありがとう」
 箱から取り出して腕に巻き付けた。仙道の腕にしっくり馴染むようで、店でサイズを確認しろと言った牧の声が思い出された。
「俺からプレゼントしようと思ったのに」
 仙道は膝からベッドに乗り上げて、牧の元へ這い寄った。
「あんたが俺と同じものつけてくれると思わなかったから」
 腕時計を嵌めた手で顔を撫でてキスをすると牧の手が仙道の背中に回り、その背後で腕時計を外すような音と仕草を感じた。仙道は「あ?!」とキスを解き、背中に回った腕を取ってヘッドレストの上の壁に縫い付けた。
「ダメ!」
「何が」
「腕時計はつけたままでいてよ」
 強請ると牧の目が一瞬大きく開かれ、それから苦笑が漏れた。
「マニアックだな。時計しかつけてないんだが」
「それがいいんだよ」
 そう言って口づけると、笑みを浮かべた唇が仙道を迎え入れた。牧の腕時計を嵌めた手が顔を滑り、顎を指で辿った。
 牧に付きまとう同業他社の人間に舐められないよう顎に薄く伸ばし始めた髭を、予想外に牧は気に入ってくれたようだった。指で辿ったあとを牧の唇が追いかけていき、仙道はくすぐったさに首を上げて笑った。

 

「それ」
 仙道が視線を牧の左腕の手元に落とすと、牧は「ああ」と気づいて腕を上げた。
「腕時計をするのは久しぶりだな」
 仙道は己の左手首に手をやった。ここに来たとき巻いてきたそれは、今は仙道にあてがわれている和室の文机の引き出しにあった。
 牧がそう言って目を落とした腕時計はあの日牧からもらったものと同じ型だった。今朝出がけに巻いて、箱はそのまま部屋にあったものを犬が見つけてもってきたのだろう。居間のテーブルにあった犬の牙の跡がついた箱を手に取り牧に渡した。牧は礼を言って受け取り、すぐにそれに気が付いたようだった。
「その、クロが咥えて持ってきて、」
「ああ。出しっぱなしにして行ってしまったんだな」
「…まだしてくれてるの?」
「…ああ。そうだな」
 グラス。腕時計。もう十分じゃないのか?仙道は自分に問うた。
 物が二人の間の全てではないにしろ、それらに籠った時と想いは単なる日常品への愛着を越えていてもいい筈だった。初めて二人、大空以外で朝を迎えた島を思い起こさせたこの家にしても。これまで執着というものを一切見せて来なかった牧が、空を降りた今、それを抱いているのだとしたら?
 仙道は俄かにこみ上げた感情を吐き出そうと一歩近づいた。が、口を開いたのは牧が先で、「宮崎に行ってきた」とネクタイのノットに手をかけ緩めながら言った。行き先を明かしてくれた牧に驚いて言いかけた言葉が引っ込むと同時に、その地に赴いたことの理由が推察されて仙道の驚きは二重になった。
「え…宮崎って、あ…!高頭のヤロー?!うそっ!牧さん先生になるの?!」
「ヤローとはなんだ。おまえも恩があるだろうに」
 高頭は仙道の入社した航空会社のパイロットだったが大分前に教官に転向して、仙道もその教えを受けた一人だった。社を辞めて今は宮崎にある省庁大学校の教官になっていると聞いた。否定されないということは、仙道の言葉通りなのだろう。牧を引っ張ったのはその高頭だったということか。
「怒鳴られた思い出しかありませんよ。何かにつけ牧はどーだった牧はこーだったうるさかったし」
「それでおまえ俺に初めて会った時に態度悪かったんだな?」
「え?!そんなわけないでしょ!憧れの人を前に緊張してたんですよ」
「そうだったかぁ?えらい不遜な新人だったぞ?」
 懐かしそうに笑う牧の左腕を取った。笑いが止み、牧の視線が自分の手を取った仙道の手元に落ちる。が、牧が自身の去就を示唆してくれたことがまた仙道の背を押した。
「これ…ずっと傍にいて欲しいって、俺からプレゼントしようとしてたんです。バレてたとは思うけど」
 牧の顔が上がった。目が合って、逸らせないよう視線に力が籠った。
「でも牧さんからもらえて、もしかしたら同じ気持ちでいてくれてるのかもしれないって都合よく思ったり…、俺から出る言葉の機先を制されちゃったのかな、とか思ったり」
「…俺が辞めたのは」
 牧が右手に持っていた箱をソファーに放った。はぐらかすつもりがないのだ、と悟って牧の左手首を強く握っていた仙道の力が少し抜けた。
「おまえから逃げるためじゃない。言った通り40で機から降りるというのは前々から決めていたことだ。高頭さんはそうと知ってから声をかけてきてくれただけだ。だが俺は…狡かったな」
「…牧さん」
「いや、弱かった」
「牧さん?」
 俯いていた顔が真っすぐに自分に向けられていた。仙道が手に握ったままの左手首が上がって仙道の頬に添えられた。
「牧さん、俺っ」
 勢い込んで開いた唇は牧のそれに塞がれた。不意をつかれた仙道が応じる前に、唇はすぐに離れていった。牧は仙道の頬に添えていた手を放し、自分の口を覆って視線を逸らした。
「すまない、考えていたことが言えなくなるから」
 赤くなった頬は初めて見るものかもしれない。仙道は吃驚して目の前の人を見つめた。
 照れているのか、この人が。
 仙道は大人しく牧の言葉を待った。驚いた後に感動がやってきて待つことしか出来なかった。
「…考えすぎて逆におまえを蔑ろにしていた。おまえがここに来てくれたことで間違いに気づいた」
 少し見上げてくる瞳が待ち続けていた以上の言葉を語っていた。
「おまえは…許してくれるのか…?」
「許すなんて…」
 仙道は腕を伸ばして牧を抱きしめた。そうするより他に自分の感情を表すことが出来なかった。腕の中の人だけが自分らしさを取り戻せる。 肩に顔を埋めていると、懐かしい牧の香りとともに「すまなかった」とまた謝る牧の声が聞こえた。
「謝らないで。俺は…牧さんといられればそれでいいんだ」
 牧の腕が上がって背中が暖かくなった。心に溜めていた、言いたかったことは全て霧散して消えた。
 仙道はただ縋るように目の前の体を抱きしめた。


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