here and now
体育館での練習日はいつも流川が一番乗りだった。その次に三井がやってくる。しばらく2人で練習をしていると、一年部員が顔を出し始め、そうすると流川が抜けて一年が揃って掃除を始める。さほど時間を置かずに二年生達がやって来て集合がかかる。
今日は三井の姿が見えなかった。他の一年生達が先に来ると、流川は最後に3Pラインに下がってシュートを放った。手を離れる瞬間に三井の顔がなぜか頭に浮かび、最後の爪のひっかかりが気になって目で追ったボールは予想通りリングにぶつかってコートの外に転がっていった。
早々にシュート練習の手を止めモップを取りに足を走らせながら体育館の入り口に目を走らせたが、ただ一人部に居残った3年生が姿を見せることはなかった。最後に宮城が顔を見せて部員が全員揃っても。
「集合ー!」
いつもは集合前に一年はコート周りを走らされる。少しの違和感に他の一年達が戸惑っている後ろに流川も歩み寄った。今日の練習メニューと少々の発破をかけて、「あーあと、」と、宮城は思い出したかのように声を上げた。
「三井サンは引退しましたー。もう練習に来ませんー。以上」
少ない部員がその言葉を聞いてざわついた。
「え、なんで? 急に?」
目の前の慌てた様子の同学年以外にも二年生達も顔を見合わせている。
「え、来週の練習試合は?」
「来ませーん」
慌てた角田の質問に宮城は背を向けつつ答えた。流川はその後を追いながら声を投げた。
「アイサツとかは?」
前のキャプテンと副キャプテンが引退する時はあった。それぞれが一言づつ挨拶をして、アヤコが花束を渡して、その当の三井が複雑な顔をしつつ冷やかしていたのを流川は覚えている。
「やだって。あの人ああいう人だからまー…」
宮城も諦めたように、流川へと振り返った肩を竦める。
「来週は締めてかかんねーとな」
来週末には近隣公立高校との練習試合があった。
逃げた。逃げやがった。
流川の頭の中に浮かんだのは、その一言だった。
部活が終わると、三井と1on1をすることが習慣化して、流れで2人で帰ることが増えた。
それが冬が近づくにつれて、寒いから缶コーヒー飲んで行こうだの、腹が減ったから肉まん食っていこうだの、今度出たバッシュがヤバいからちょっと寄り道して見に行こうだの、三井が言い出すようになった。
それまでの流川の生活といえば、部活が終われば家へ直行、速攻風呂に入って夕飯を食べて歯磨きを終えたらベッドに横になり一日が終わる。たまにバスケの雑誌を眺めたりビデオを見たりする時間が入る。そのリズムを乱されるのは好きではなかったし、他の何かをしたいとも思っていなかった。
が、この頃では三井の言い出す提案に乗って、寄り道をして帰ることが増えている。少なくとも嫌ではない。いや、声をかけられなければ何か物足らなく感じられて、流川から「腹減った」、の一言が三井に向かって放たれる。すると三井は、「仕方ねえなぁ」と先輩面しながら、すっかり馴染みになったラーメン屋か、駅前のファストフードへと足を向けるのだった。
流川の家では帰りがめっきり遅くなった息子に、親は部活が長引いているのだろうぐらいに思っていたらしい。とうとう流川から、「NBAのビデオ観に来る?」と言い出して、三井が流川の家に来た日まで。
「いつも楓さんを遅く帰らせてすみません」
と頭を下げた三井に母親は驚いて却って、
「息子に友達ができるなんて」
と喜び、流川は呼ばれたことのない自身の名が先輩の口から出たことにまず心臓が一つ跳ねあがり、それから後ろに続いた母親の言葉に少しの当惑を覚えた。
友達。
友達ではない。部の先輩ではあるけれども。
でも他の先輩が、例えば宮城がいくら寒がっていようが、自分は家に招こうとは言わないだろう。宮城も首を縦に振るとは思えない。そう考えると三井との関係は流川にとっては、今までの人生の中で分類のできない不可解な範疇に入るものだった。
缶コーヒーを飲んだ後も肉まん食べた後も、店内に並んだバッシュを前に散々悩んだ挙句に結局何も買わずに店を出た後も。
なんとなく離れがたくてそれをまた三井からもなんとなく感じられて、一段と冷え込んだその日も内容のない話しをポツポツと喋る三井の声を聞きつつガードレールに並んで座っていた。時折三井が喋るのを止めるとやってくる沈黙さえも、なにか重要な意味を持ってでもいるように流川の中に居残る。
肩を震わせてくしゃみをした三井を見て、 流川は顔を上げた。自分の家の中で三井の興味を少しでも引きそうなものを懸命に頭から探し出し、父親の買い込んだビデオを思い出した。
「俺ん家来ます? NBAのビデオがあるんすけど」
「おまえん家?」
面倒がられるか、揶揄われるのか、どんな言葉が飛び出すのか。
息を詰めて三井の口を見つめていると、しばらく驚いたように開いていたその唇は言葉を探すように忙しなく動き、なぜか尖り、それから顔が伏せられて、流川の目から見えなくなった。それを残念に思いながら尚も見つめていると、ボソリと三井が口を開いた。
「…いーけどよ」
「じゃあ今度の日曜」
さっくり時間を決めると、「あ、今日じゃなくてね」と三井が顔を上げた。まだ尖ったままだった唇に目がいく。
そうか、今寒いのだから今すぐでもよかったんだ、と思った時には、三井は「駅まで迎えに来いよ?」と言い置いて、さっさと立ち上がっていた。
「いーけど」
流川の家は、いつも三井が使う自校の最寄り駅からそう遠くはない。でも少しだけ入り組んだ道筋が複雑で、自分はうまく三井に説明できるのか頭を悩ませていたところだったので流川は否やなく頷き、三井に続いて冷え切った体を立ち上げさせた。
その日、流川は朝からそわそわと落ち着かなかった。
母親に驚かれながら日曜にしてはいつもとはあり得ない時間に起き、支度をしながら何度も時計を睨んだ。
待ち合わせの時間より少し早めに駅へ向かうと、三井の姿はまだなかった。改札からさほど広くない駅のホームを伸びあがって見渡し、もしやと思って反対ホームを眺め、それでも見つけられずに、流川はいつも三井と別れる改札口まで戻った。
晴れ渡った空は青く澄んでいるが少しばかり冷える。いつも三井と並んで座るガードレールが目に入った。明るい中で見るそれはいつもとは違って埃っぽく小さく見えた。そこに流川は歩いて行き、一人腰を下ろした。
「ワリーワリー」
三井がやって来たのはそれから40分後だった。文句を言いたくても凍えた口元はすぐに言葉を発することができなかった。冬の冷たい空気にすっかり赤くなった鼻の頭を無言で向けると、三井は眉を寄せた。
「おまえ…ずっとここで待ってたのか?」
「ここで待ち合わせたから」
「…伝言板見なかったのかよ」
「デンゴンバン?」
聞き慣れない単語に流川は首を傾げた。
「あれ」
三井が指さした方向を見ると駅舎の奥、改札手前の左手の壁に小さめの黒板があった。そういえばそんなものがあるな、というのは子供の頃にたまに親に連れられて通った駅舎の中でなんとなく記憶の片隅にあった。だが自分は電車通学ではないし、誰かと待ち合わせをしたり、なんてことも部活の試合や合宿くらいでしかなかったので意識の範囲外だった。
「急に腹イタくなってこの駅のトイレ使えなくて隣駅まで行って」
早口で喋っていた三井はそこで言葉を切って、流川の顔の前に手を伸ばしてきた。何をするのかわからず、その手を行き先を見ていると、さらに近づいて自分の鼻を摘ままれた。
「冷てー鼻してんじゃねぇよ。…待ち合わせの場所に相手いなかったら伝言板すぐ見とけよ」
摘まんだまま三井はぶっきらぼうにそれだけ言って、すぐに手は離れていった。
鼻がじんじんするのは摘ままれていたからだけではない、ような気がした。自分の腹に湧きたつ何かが気になって、三井に指し示された伝言板のせいのような気がして、流川はその方向に歩いていった。並んだチョークで書かれた字の中に、見覚えのあるクセのある字が確かにあった。
『14から11へ おれ、やっぱりー』
そこまで読んだ時に後ろから走ってきた三井が慌てて手でその字を擦った。三井はゲッと喚きながら白くなった手を払い、紐で繋がれてぶら下がっていた黒板消しを見つけて、さっさと全文を消してしまった。
「『おれ、やっぱり』?」
「いんだよもう! おら行くぞ。案内しろよ」
流川は方向がわからないクセに肩を怒らせて先に立って歩き始めた先輩の背を、妙に騒ぎ立てるものが自分の腹から胸に移動したのを不思議に思いながら追いかけた。
自分の部屋の中に家族ではない人間がいるのは小学校を卒業して以来のことだった。小さい頃は友達と呼べるような人間がこの部屋にいたこともあったが、その時には感じたことがない、どこか居心地のいいような悪いような落ち着かなさに、また流川は戸惑った。呼んだのは自分なのだから、確かに自分は三井をここに呼びたかった筈なのだ。
でもなんで。
三井が寒そうに震えてくしゃみをしたから?
物珍しそうに部屋の中を見回している先輩の丸い形のいい小さな頭を見ながら流川は考えた。あまり物を考えるのは得意ではない。考えるというより、自分の心の内を探すのは慣れていない。
「で、ビデオはー?」
「そこ」
父親の部屋から選んで持ち出したビデオは空に近い本棚の中に積んであった。三井は「おー」とうれしそうな声を上げて近づいていく。
「レイカーズマジックピストンズ…ブルズは?」
「ジョーダン目当てか」
「んだよ、いーじゃん」
三井のことだからシューターを観たいのかと思っていた。父親の部屋に残してきた中にブルズあったかな、と考えつつ座っていたベッドから腰をあげると、「飛んでるとこ、ちょっとおまえみてーだよな」と、聞き落しそうなほどに小さい呟くような声が耳に届いた。
「は?」
「なんでもねー!」
乱暴に言って背を向ける三井の耳が赤い。
本当は聞こえていた。聞こえなくて聞き返したのではない。
飛んでるとこ。
その言葉に心が浮き立つことを自分でも意外に思う。赤く染まった三井の耳を見てまた浮き立った心がさらに沸き立つ。
その気持ちをどうにか伝えたいこともやっぱり自分には意外で、少々混乱した流川は「ビデオ探してくる」と言い置いて部屋を出た。
暖かい缶コーヒーも肉まんもバッシュも、NBAのビデオも関係ない。
自分は三井と一緒にいたいんだ。
迎えに行った時から、いや、この頃ずっとざわつきっぱなしの己の胸の内を、流川はようやく理解した。
駅まで送るという流川の申し出に、三井は素直に頷いた。
すっかり日が落ちた暗い夜道に、興奮したように流川の部屋で観たゲームの内容を話しつづける三井の声と白い息が上がる。
流川は適当に頷きながら、その実どう切り出したものか、ずっと頭を悩ませていた。
部屋ではビデオに夢中な三井に話しかけるきっかけを見つけることができず、自分でも気が付いたばかりの想いで、でもどうしてかすぐにでも伝えなければ、というじれじれした焦燥感があった。この先輩はどこか落ち着きのないところがある。今、掴まえておかなければならない。その焦りは自分の中の正解だと直感で流川は悟っている。
電車の音が聞こえてきたところでもう猶予がないことに気づき、「センパイ」と呼びかけると、三井の声がピタリと止んだ。電車の音の他には、人の姿も見えない。言うなら今だ、と流川は三井に向き直った。
見上げてくる三井の緊張したような困ったような赤い顔に、あ、この人は今から自分が言うことがわかってるんだな、と気づいた。人の様子などを推察することも自分にとっては初めてのことで、流川は拳を握った。
練習後に一人体育館に居残っていると、ギッと重たい音を立てて引き戸が動いた。思わず流川が手を止めて見つめていると、学ランに着替えた宮城が顔を出した。流川は息を吐き、また手にしたボールをゴールに向けて構える。宮城は「さみっ」と肩を竦めながらコートに入ってきた。
「まだやんの?」
「っす」
「…今まで三井サンとやってたんだよなぁ。…あー、なんか手伝う? 毎度はキツいけど、ちょっとなら」
「や、大丈夫っす」
「そ? 戸締り忘れんなよー」
「っす」
今更来るわけない。
あの先輩は小狡いところがある。わかってはいるがどうしてもその姿が現れることを期待してしまう。
そんなことを考えつつ放ったボールは、またしてもリングに嫌われて弾かれて外に転がった。脇に置いたケージの中にボールはもうない。今日はもう切り上げるか、とケージを押しつつ足元に転がっていたボールを片手で拾っては入れた。
『俺、好きみたいっす。センパイのことが』
あの日。帰り道に三井を引きとめて告げた。
三井は大きな目をさらに見開いて、赤い顔をさらに耳まで赤くして、唇を尖らせてそっぽを向いた。
こういうのって、それからどうすればいいんだろう。
この今の空気の冷たさを、先輩の吐く息の白さを、表情を、全て記憶しておきたい。そんなことを思いながら、それでも押し黙ったままの三井を前に流川は途方に暮れた。
告白をされたことはこれまでに何度もあったけれども、一度も話したこともない相手の場合は「ごめん」の一言で済んだ。本気で謝罪するつもりはなかったけれども、その一言で大体の相手は引き下がって面倒がなかった。
目の前の先輩がその謝罪の言葉を口にしたら。
やっぱり自分は大人しく引き下がるんだろうか。
「ったくおまえはよ…」
やっと口を開いた三井は怒ったような困ったような口ぶりで、今自分が言ったことに対しての回答ではないように感じられた。
「もうちょっと…待ってくれよ」
三井はそう言った。
待つ。
だから翌日も部活で先輩を待っていたのに、三井は体育館に姿を現さないばかりか、部を勝手に引退していた。
先輩が引退したことで駅に寄る理由が流川にはなくなった。が、その日はなんとなく思いついて、駅まで自転車を走らせた。
手前のスーパーの駐輪場に自転車を止めて、歩いて改札口近くの黒板の前に立つ。
三井が流川の家に来た日に書いた字はもう跡形もなかった。見れば上部の枠外に、『6時間を経過した伝言は消します』と注意書きがあった。
流川は黒板の端から一つ一つに目を走らせた。待ったが相手が来ないことに怒っている人、諦めて帰る人、待つ場所を変える人。XYZとだけ書いてあるのは自分も読んだことのある漫画の真似か。
そこにあのクセのある字がないことを確認して、流川はチョークを手に取り、『11から14へ うそつき』と書いて、その文字を睨みつけつつ少し考えて、紐から垂れ下がって揺れていた黒板消しを拾って消した。
あっという間に年は暮れ、新年を迎えて親戚への年賀帰りに家族と最寄り駅に行くことがあった。目の端に黒板を捉えて、家族に「すぐ行く」と伝えて歩み寄った。マフラーで覆った顔から目だけを出して、端から一つ一つ追っていく。中ほどに見覚えのある字を見つけて鼓動が一つ跳ねた。
『14から11へ 誕生日おめでとう』
それだけ。流川はチョークを手に取った。
『11から14へ 待ってる』
流川は一歩下がって三井と自分の書いた文が並んだ黒板を眺め、少し心が温まるのを感じた。
それから一日に2回、駅に寄るのが流川の新しい習慣になった。消されるのは6時間毎。もしかしたら朝にも書いているかもしれない。
学校が始まると、遠回りにはなるが、朝に一度駅に寄って伝言板を眺め、それから登校し、部活終了後にまた駅に立ち寄って黒板の前に立った。
3年生は自由登校になって、いつ三井が登校するのか読めなかった。待て、というからにはなにがしかの返事があるのだろう。自分の誕生日を覚えているぐらいなのだから。
それでも何回か伝言板に通い続けた流川は、ある朝とうとうチョークを自分の手に取った。
『11から14へ 今日夜7時いつものとこ』
繰り返すが三井は小狡いところがある。強気なクセに、おかしなところで弱腰だったりもする。
前日に3年生の卒業式についての話しが、担任から朝のHRであった。3年生は、三井は、もうじきに卒業していなくなるのだ、とようやく自分の中のじれじれした気持ちが焦燥感なのだと気づいた。のんびり待っていたら三井は卒業する。きっと何もかもなかったことにする気だ。逃がすか、と思った。
部活後の一人での練習はその日は止めて少し早めに駅に着くと、伝言板に三井からの返事がないことを確認してから、流川はガードレールに居座った。もしかしたら今日は登校していなかったかもしれない。長くかかるかもしれないと考えて、自販機の前に行き、ホットの缶コーヒーを2本買った。
「おまえ…、バカ…か」
ポケットの中の缶コーヒーは冷え始め、そろそろ冷たい鉄に乗せた尻が痛くなってきたな、と身じろぎした時、背後から聞き覚えのある声がかかった。
「用事…あるなら…電話しろ…電話ー」
振り向くと、走ってきたのか膝に手をついて息を整えている三井がいた。
「あんたの家の電話番号知らねえ」
「部の…緊急連絡網!」
「あぁ!」
「あぁじゃ…ねぇ…よ」
久しぶりに見た三井は髪の毛が少し伸びているようだった。前髪が長く、真っすぐに伸びていた眉が隠れて、いつもの強気が目減りして見えた。
「用事っていうか。会いたかったから」
口に出すと、三井は顔を瞬間に赤く染めた。
「だから待てって…言ったろ?」
「もう待った」
「今日…推薦、やっと確定したんだよ。午後ガッコ行く前に伝言板見たけど一度ガッコ行かなきゃいけなかったし、」
「スイセン?」
「大学。…進路決まってから、大学遊び来いよって…言いたいじゃん…。ちゃんと仕切っておまえに言おうと思ってたのに、」
また。三井の尖らせた唇が目の前にある。
「気にしない」
「おまえはな! 俺は将来かかってんの!」
「おめでとうございます」
さらに大声を出そうとして開かれた三井の口の動きが止まり、それからゆっくり流川の目の前で笑いの形に持ち上がった。それを見た流川の胸の内がじんわりと暖かくなる。
「…ん、サンキュ」
「遊び、行っていいの」
「…おう。引越しも手伝いに来いよ」
「っす。…引っ越し?」
「都内なんだよ。…さみーな。ラーメン食いに行くか」
「うん、腹減った」
いつもだと怒られるタメ口はスルーされ、目の前に三井の手が差し出された。遠慮なく掴んでガードレールから立ち上がると、「つめてぇ!」と叫んだ三井が笑う。
それでも離されなかった手と、久しぶりに見た心を温め続ける三井の笑顔にうれしくなって、流川も口元を緩ませた。少し驚いたような顔になった三井が、またすぐに弾けたように笑い出し、立ち上がった流川に肩をぶつけてきた。
気づけば腹にたまった違和感も焦燥感も、流川の中から消え失せていた。心だけでなく繋いだ手もじわじわと温まってくる。立ち上る白い息と三井の笑顔はきっといつまでも忘れない。
end