薫とヴェネリオが喫茶店で喋るだけ

「呼びかけに応じてくれてありがとう。ボーイ」
「その呼び方なんとかならないのか?」
 
喫茶店の一室
仕事が終わり、目が覚めた頃に一本の電話
 
電話の相手はヴェネリオだった。
神宮寺 蒼汰の作家仲間らしい。
彼は植物園で出会った男の1人だ。
彼に呼び出される理由は特に無いとは思う。
 
けれど、蒼汰関連なのかもしれない。
 
「座ると良い。何、ただの確認だよ」
「…」
向かいの椅子に座る。
既に俺の分の水は用意されていた様で
コップの外側には水滴がいくつかついている。
 
食事がまだだった為、軽く注文をし
少しの間沈黙
口を開いたのはヴェネリオだった。
 
「神宮寺が泣きついてきたんだけど心当たりはあるかい?」
 
神宮寺が泣きついて来たというか意味不明な単語が耳に入りヴェネリオの目を見た。
以前と変わらず優しい微笑みをしている。
 
「蒼汰が泣きつく訳ないだろ」
「おや?ようやく名前を呼ぶ決心がついたんだ。いいねいいね、呼ぶ様になったキッカケは?こないだの植物園での久遠兄弟を下の名前で呼んだことがキッカケだろう?君は本命は名前で呼ぶのが苦手なタイプだね?うんうん、わかるよ君はこないだ初めて会ったけど恋する乙女の様な青年だ。神宮寺と遭遇した時の笑顔は俺は見逃さなかったよ?お姫様抱っこの時も神宮寺のことを必死に心配しつつも本音ではお姫様抱っこされてみたいと言う感情g」
「お前五月蝿いな?!?!?!」
 
とんでもないマシンガントークが響き渡った
以前会った時こんなに語る奴じゃなかっただろどうなってんだこいつ
 
「すまないね、人の恋愛を観察するのが趣味なんだ。多めにみて欲しい」
「はぁ………………………なんでわかったんだお前」
 
このマシンガントークは的確に図星を付いていた
机に顔を突っ伏しぷるぷると震える
拳を握り締め感情を落ち着かせようとする
そうしている間にサンドウィッチが届き、俺は食事を口にした。
 
「その話は後にしよう」
「お前が始めたんだろ」
「心配してるよ?神宮寺」
「…心当たりってやつの話をしてるのか」
 
無言の笑顔
肯定の意味を示すのだろう
 
ここ数日
いやあの事件以降、蒼汰のこちらを見る目に違和感は感じていた。
怒っていると言うか心配していると言うそんな感情に近しい表情。
 
「蒼汰……俺が風邪ひいてないか心配してる…ってわけでは…無いよな」
「……」
「変な蒼汰。あの時俺よりアイツの方がヤバかったのにさー…」
 

一瞬の静寂
水の中の氷は少し解け、カランと音を鳴らす。


「……おかしいのは、俺の方か?」
 
「うん、そうだね」
「いや否定する流れじゃ無いの今の」
「薫、キミがおかしいのに嘘吐く事もないかなと」
「……多分前はこんな事無かったんだけどさ……し……」
「死体、好きなんだ」
「そう!!!!!………………何でそんな普通に笑えるんだお前。蒼汰、俺を見て困惑して……」
「俺は別に君が何を好きでいようと関係無いからね。でも…その感情は一時的なものだとは思うよ」
「何でそんな断言」
「俺の目の前でおかしくなってるのを見たからね。あぁ、当てられたんだって」
「……」
 
死体の事となると顔が火照る
興奮する
持ち歩きたいとまで考えてしまう
死体の話となると皆の当たり前を理解できなくなる
モヤがかかる
 
「あの時探偵もおかしくなっていたね。多分彼も君と同じ様に何かに執着してるんだ。何かはわからないけど」
(執着相手はおそらくあの男だけど)
「少なくとも、君達2人は"あの場に居たもの"に魅入られてるだけだよ」
「…意味わかんない」
 
「あの場に神宮寺がいたら君は間違いなく神宮寺に執着していただろうね!」
「え」
「神宮寺が欲しくて欲しくてたまらない。神宮寺を誰の物にもしたくない。何故だかわからないけれど無性に神宮寺が欲しい。見て欲しい。手元に置きたい。離したくない。俺のものだ って」
「…い……や……」
「今君が死体に抱いてる感情を神宮寺に置き換えただけだよ。君の感情はコレだと思うよ。あの時見張りを頼まずに無理矢理にでも神宮寺を連れていけばよかったかな。そうすれば君はこんなに狂わなかったかもしれな」
 
「それはダメだ!!!!!!」
 
突然叫ぶ俺にヴェネリオは目をパチクリとさせている
 
「俺の……そんな感情を蒼汰に向けるのは駄目だ!!そんなの身勝手で、アイツとは親友で!!アイツは親友だから……隠してるのに」
(おっと。既に持ってた)
 
「……あー……あの場に居た青年にその感情抱かなくて良かったね。修羅場かも」
「え、」
「俺は純愛が好きだからNTRはちょっと」
「NTRって何だよ?!?!アイツには抱いてない!……いや、あの場にはヴェネリオと俺しか居なかった.そうだよな?」
「……勿論だとも。俺と君しか、居なかったね?」
 
あの時の事は忘れる…と考えるとあの怪しい男のことは忘れておくに越したことはない。
 
 
「あーもう。余計なことを」
「面白い事実確認ができたからよしとしよう。」
「俺は何も良くないけど??」
「神宮寺を心配させたくない、でも死体は持ち歩きたい。それならば両方叶える良い方法があるんだけど知りたいかい?」
「! 知りたい!!」
「剥製」
「はくせい」
「最近ではお土産などで虫の死骸が売られてる」
「言い方が物騒だな」
「でも理解はできるだろう?アレも死体だ。しかもその為に綺麗な見た目をしている」
「…………確かに」
「探してみると良い。死体好きではない人間でも持つ事がある剥製のキーホルダーとかさ」
「……欲しくなって来たな……」
 
チラリとカメラを見る
カメラにはいくつものコレクションがあるが
実際手元に置けているものは今の所無い。
そもそも今自分の家にはほとんど帰らない。
たまに寝に帰るだけの部屋だ。
死体の処理方法なんて知らないので気づけば腐り興味が無くなる。
 
写真に収めるのが1番良かったのだが
剥製ならきっと『普通』だ
 
(剥製なら普通、とか考えてるんだろうなぁ)
 
ヴェネリオはゆっくりと立ち上がる。
「そろそろ行くよ。君の今の状態を再認識できただけマシとしよう。次に会う時までに治ってるといいね」
モヤがかかる
治ると言うのに違和感を感じる
 
が、これが「変」なのだろう。頭を軽く振る。
 
「神宮寺によろしくね。あ、勘違いしないで欲しいけれど俺は君も神宮寺も恋愛対象じゃないから。
 
と言うか、神宮寺の何処が好きなんだい?」(ドSだけどアレ)
「は?!………………顔?」
「…」
「あ!いや!あの…………言葉に出来ないかな。好きなの。楽しいんだよ。しん…じゃなかった蒼汰と居るの。口は悪いし部屋は汚いけど、何だかんだ…一緒にいてくれてるし、いざという時傍にいてくれると安心するんだよなぁ…」
「素敵な資料をご馳走様」
「エッ」
「ここのご飯は奢るよ。恋愛情報提供料だ」
「お前!!この事!!!!!」
「言わないよ。野暮じゃないか。それじゃあね、元気で。君は食べ終わるまでゆっくりしてな」
 
ヴェネリオは飲み終えたコーヒーを置き換え
立ち上がる。
そして伝票をそのままレジで会計を済ませて出ていく。
 
俺は食べかけのサンドウィッチを食べ進める。
新鮮なレタスとトマトが頭をスッキリさせてくれる。
何も考えないで食べ進めていればじわじわとモヤが落ち着いてくる。
 
水を飲み干し、喫茶店を後にする。
陽はまだ低いが、とても眩しい
今日は仕事が無い。この後はどうしようか。
 
「………映画館行くかー」
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