嗚呼、素晴らしき哉、人生!
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土方歳三 懇願
それはついぼうっと微睡んでしまうような、そんな暖かな晩春の午後だった。
伊織が新選組に来てから数年が経とうとしていた。ひとりで京の街に出しても心配のないくらいには護身のできる彼女は、それでも心配性な土方に捕まっていた。
「何度言えば気が済みやがる!刀くらいさして歩きやがれ!」
「だって邪魔なんですもん!こんなのさしてたらうまく動けない!ひっかかるし!」
「男として置いてんだ!男子たるもの刀もささずどうすんだ!」
ぎゃあぎゃあと言い合うその様子を、苦笑いで見守る隊士達。当の本人たちは全くそれに気が付かない。どう説得してやろうと互いに一歩も引く気はなさそうだ。
「刀さげてたって私に負ける人だっている!」
「そういう問題じゃねぇ!!」
「まぁまぁ二人とも…」
仲裁に入ろうとする原田の声など耳に入らない。噛みつかんばかりの伊織に、殴りかからんばかりの土方はそのもどかしさに歯噛みする。
断っておくが、彼らは恋仲であった。
「おい伊織、そう突っかかるな。土方さんだってお前が心配でそう言ってるだけで」
「心配するなら最善を尽くせる格好で居させてくれと言っているんです。それにひとりではなるべく外に出ないようしているではありませんか!」
聞く耳持たぬとはこのことかと原田もお手上げ状態だ。「わかったよ。」とひらひらと両の手を顔の横で振り、「じゃあ俺は巡察行ってくるわ」と立ち上がって部屋を出ていってしまった。
「なぁ伊織、頼む。せめて小太刀が何かくらい携帯してくれ…」
いよいよ勝機は無いと悟ったのか、土方は泣き落としにかかる。
牙を向いていた伊織も、切実な眼差しに流石にぐっと言葉に詰まる。惚れた弱みというのは凡そ誰にでも当てはまり、それは彼女も例外ではなかった。
黙ってしまったその隣に歩み寄り、彼はそっとその肩を抱き寄せる。伊織の身体が傾いて、その細い体は抵抗なく胸に収まった。
「…頼む。本当なら俺が全部連れて行ってやりてぇが、そうもいかねぇんだ。」
表情など伺わずとも、その声は何よりも正直な心の現れで。すっかり戦意を削がれた彼女は、ゆっくりとその広い背中に手を回した。触れるようなその力加減は、何も言わない彼女の意識ゆえだった。
「お前のことを信用してねぇわけじゃねぇ。それでもいくら強くたって、俺はお前が心配でならねぇ。」
抱き寄せる手は震えていた。幾度となく目前で、仲間の死を見届けた彼の言葉はあまりにも重すぎた。
「お前にいない人生なんて、想像すらしたかねぇ」
頼む。と耳元に声が落ちる。一つため息を吐いて、伊織は震える背中を柔らかく撫でた。
「わかりました。そこまで貴方に言われて聞かないほどではありません。小太刀だけでいいのなら、持ち歩くようにします。」
「悪いな。」
力なく笑ったそこに、最早鬼の副長はいなかった。ただ一途に己が命を案ずる、そんな漢の心があった。
諸行無常に生きる、武士の安寧はまだ来ない。
それはついぼうっと微睡んでしまうような、そんな暖かな晩春の午後だった。
伊織が新選組に来てから数年が経とうとしていた。ひとりで京の街に出しても心配のないくらいには護身のできる彼女は、それでも心配性な土方に捕まっていた。
「何度言えば気が済みやがる!刀くらいさして歩きやがれ!」
「だって邪魔なんですもん!こんなのさしてたらうまく動けない!ひっかかるし!」
「男として置いてんだ!男子たるもの刀もささずどうすんだ!」
ぎゃあぎゃあと言い合うその様子を、苦笑いで見守る隊士達。当の本人たちは全くそれに気が付かない。どう説得してやろうと互いに一歩も引く気はなさそうだ。
「刀さげてたって私に負ける人だっている!」
「そういう問題じゃねぇ!!」
「まぁまぁ二人とも…」
仲裁に入ろうとする原田の声など耳に入らない。噛みつかんばかりの伊織に、殴りかからんばかりの土方はそのもどかしさに歯噛みする。
断っておくが、彼らは恋仲であった。
「おい伊織、そう突っかかるな。土方さんだってお前が心配でそう言ってるだけで」
「心配するなら最善を尽くせる格好で居させてくれと言っているんです。それにひとりではなるべく外に出ないようしているではありませんか!」
聞く耳持たぬとはこのことかと原田もお手上げ状態だ。「わかったよ。」とひらひらと両の手を顔の横で振り、「じゃあ俺は巡察行ってくるわ」と立ち上がって部屋を出ていってしまった。
「なぁ伊織、頼む。せめて小太刀が何かくらい携帯してくれ…」
いよいよ勝機は無いと悟ったのか、土方は泣き落としにかかる。
牙を向いていた伊織も、切実な眼差しに流石にぐっと言葉に詰まる。惚れた弱みというのは凡そ誰にでも当てはまり、それは彼女も例外ではなかった。
黙ってしまったその隣に歩み寄り、彼はそっとその肩を抱き寄せる。伊織の身体が傾いて、その細い体は抵抗なく胸に収まった。
「…頼む。本当なら俺が全部連れて行ってやりてぇが、そうもいかねぇんだ。」
表情など伺わずとも、その声は何よりも正直な心の現れで。すっかり戦意を削がれた彼女は、ゆっくりとその広い背中に手を回した。触れるようなその力加減は、何も言わない彼女の意識ゆえだった。
「お前のことを信用してねぇわけじゃねぇ。それでもいくら強くたって、俺はお前が心配でならねぇ。」
抱き寄せる手は震えていた。幾度となく目前で、仲間の死を見届けた彼の言葉はあまりにも重すぎた。
「お前にいない人生なんて、想像すらしたかねぇ」
頼む。と耳元に声が落ちる。一つため息を吐いて、伊織は震える背中を柔らかく撫でた。
「わかりました。そこまで貴方に言われて聞かないほどではありません。小太刀だけでいいのなら、持ち歩くようにします。」
「悪いな。」
力なく笑ったそこに、最早鬼の副長はいなかった。ただ一途に己が命を案ずる、そんな漢の心があった。
諸行無常に生きる、武士の安寧はまだ来ない。
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