嗚呼、素晴らしき哉、人生!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇ、これ伊織にあげるよ。」
そういって差し出された包みを開ける。
「あ、すっごいいい匂い。桜餅?」
「うん。今日巡察に行ったらね、新作だっていうから買っちゃった。」
私の手元からひょいとつまんで食べてから「うん、おいしい、」とほほ笑む彼は新選組幹部のひとりである。
天才剣豪とまで言われ、新八さんに続く二番手だと謳われる一番隊隊長、沖田総司だ。
たいていは子ども達と遊びに境内に行っているけど今日は、巡察から帰ってからずっと私を探していたらしい。
「甘いものが好きなこと、覚えててくれたの?」
期待交じりにそう尋ねると、「あれ、そうだっけ?」と首を傾げられる。なんだか少し残念な気がして肩を落とすと、「嘘。覚えてたよ。」と頭を撫でられなんとも言えない気分になった。
「ありがとう、総司。」
「いいよ、このくらい。お茶淹れてくれる?」
「ふふ、了解。」
同い年というだけだが不思議と、私は彼と話すとき驚くほど気を抜いている。なんというか完全に友達と話している感覚だ。
「はい、どうぞ。」と出したお茶をすすって、総司は深くため息を吐いた。それが妙におじさんくさくて笑いが漏れる。そんな私をみて彼もふわりとほほ笑んだ。
「ほら、早く食べなよ。君のために買ってきたんだから。」
さりげなく嬉しいことを言って、総司は桜餅を私の口元へ運ぶ。それにかぶりつくと、じわりとした控えめな甘さが口内を満たす。舌の上で溶けるような柔らかさと、豆の風味をのこした独特なあんこの味。噛めば噛むほど旨味が増して、呑み込むのが惜しい。
「本当においしそうに食べるよね。」
はは、と笑ってじっと眺めるように見つめられる。こくりと呑み込んで「本当においしい。ありがとう総司。」と言うと、彼は「どういたしまして。」と目を細めた。
「それだけおいしそうに食べられると、なんだか買った甲斐があったと思うよ。」
「そう?また買ってきてくれてもいいんだよ。」
「伊織って時々図々しいよね。」
「んふふ。総司にだけね。」
差し出されている残りを一口で食べる。塩漬けにされた桜の葉が、ほどよい塩味を足して倍美味しい。
箱に視線を落とす。まだ二つしか食べていない中身は、食べられるのを待つ桜餅がひしめき合っている。そこに違和感を覚え、はっとして言った。
「ていうかこっちの桜餅は、なんだか変わった形してるね。丸いんだ。」
「あ、それ僕も思った。江戸はもっとこう、筒状みたいな形だったから。一応名前もあって、関東の方を長命寺って言って、こっちの丸いのは道明寺って呼んでわけてるんだって。」
「へぇ物知りだね総司。全然知らなかった。」
のんびりと杜鵑の声を聴く。初春のころはひどかったその鳴き声も、今ではかなり様になり、春の経過を報せる立派な役割を果たしている。お茶をすすって、総司はふっと息を吐いた。
「なんかいいね、こういうの。」
「ん?」
独り言のような小さな声を、聞き逃しそうになり聞き返す。彼は空を見上げて眩しそうにしながら、縁側にごろりと横になった。
だらりと気を抜いていた私のももに頭をのせて、大きな欠伸をひとつする。
「眠いの?」
「うん、なんだか急に、眠くなった。」
彼の体に当たってひっくり返さないよう、湯呑を移動させる。早くも腕を組んでまどろむその様子に、お腹がいっぱいで眠くなる実家の猫を思い出した。
「僕さ、こういうの好きだよ。」
眠そうな声で彼はそう言った。最早目を開ける気もないのだろうその様子に、私まで少しうとうとする。
「こういうのって?」
「こうしてのんびり、何も考えずに。ただ単に、おいしいねって笑ってる時間が」
「そうだね。私も好きだよ」
「こんなに屯所でのんびりしてるの、僕らだけなんだろうなぁ。」
掠れていく語尾にさらに眠気を誘われる。春の陽気に包まれて、彼の寝息が聞こえ始めた。
なんて穏やかな時間だろうか。
私が彼に気を抜くのと同様に、彼もこんなに気を抜いている。
もしかしたらもう、それほど気の置けない仲なのかもしれないと、心の中で喜んだ。
そういって差し出された包みを開ける。
「あ、すっごいいい匂い。桜餅?」
「うん。今日巡察に行ったらね、新作だっていうから買っちゃった。」
私の手元からひょいとつまんで食べてから「うん、おいしい、」とほほ笑む彼は新選組幹部のひとりである。
天才剣豪とまで言われ、新八さんに続く二番手だと謳われる一番隊隊長、沖田総司だ。
たいていは子ども達と遊びに境内に行っているけど今日は、巡察から帰ってからずっと私を探していたらしい。
「甘いものが好きなこと、覚えててくれたの?」
期待交じりにそう尋ねると、「あれ、そうだっけ?」と首を傾げられる。なんだか少し残念な気がして肩を落とすと、「嘘。覚えてたよ。」と頭を撫でられなんとも言えない気分になった。
「ありがとう、総司。」
「いいよ、このくらい。お茶淹れてくれる?」
「ふふ、了解。」
同い年というだけだが不思議と、私は彼と話すとき驚くほど気を抜いている。なんというか完全に友達と話している感覚だ。
「はい、どうぞ。」と出したお茶をすすって、総司は深くため息を吐いた。それが妙におじさんくさくて笑いが漏れる。そんな私をみて彼もふわりとほほ笑んだ。
「ほら、早く食べなよ。君のために買ってきたんだから。」
さりげなく嬉しいことを言って、総司は桜餅を私の口元へ運ぶ。それにかぶりつくと、じわりとした控えめな甘さが口内を満たす。舌の上で溶けるような柔らかさと、豆の風味をのこした独特なあんこの味。噛めば噛むほど旨味が増して、呑み込むのが惜しい。
「本当においしそうに食べるよね。」
はは、と笑ってじっと眺めるように見つめられる。こくりと呑み込んで「本当においしい。ありがとう総司。」と言うと、彼は「どういたしまして。」と目を細めた。
「それだけおいしそうに食べられると、なんだか買った甲斐があったと思うよ。」
「そう?また買ってきてくれてもいいんだよ。」
「伊織って時々図々しいよね。」
「んふふ。総司にだけね。」
差し出されている残りを一口で食べる。塩漬けにされた桜の葉が、ほどよい塩味を足して倍美味しい。
箱に視線を落とす。まだ二つしか食べていない中身は、食べられるのを待つ桜餅がひしめき合っている。そこに違和感を覚え、はっとして言った。
「ていうかこっちの桜餅は、なんだか変わった形してるね。丸いんだ。」
「あ、それ僕も思った。江戸はもっとこう、筒状みたいな形だったから。一応名前もあって、関東の方を長命寺って言って、こっちの丸いのは道明寺って呼んでわけてるんだって。」
「へぇ物知りだね総司。全然知らなかった。」
のんびりと杜鵑の声を聴く。初春のころはひどかったその鳴き声も、今ではかなり様になり、春の経過を報せる立派な役割を果たしている。お茶をすすって、総司はふっと息を吐いた。
「なんかいいね、こういうの。」
「ん?」
独り言のような小さな声を、聞き逃しそうになり聞き返す。彼は空を見上げて眩しそうにしながら、縁側にごろりと横になった。
だらりと気を抜いていた私のももに頭をのせて、大きな欠伸をひとつする。
「眠いの?」
「うん、なんだか急に、眠くなった。」
彼の体に当たってひっくり返さないよう、湯呑を移動させる。早くも腕を組んでまどろむその様子に、お腹がいっぱいで眠くなる実家の猫を思い出した。
「僕さ、こういうの好きだよ。」
眠そうな声で彼はそう言った。最早目を開ける気もないのだろうその様子に、私まで少しうとうとする。
「こういうのって?」
「こうしてのんびり、何も考えずに。ただ単に、おいしいねって笑ってる時間が」
「そうだね。私も好きだよ」
「こんなに屯所でのんびりしてるの、僕らだけなんだろうなぁ。」
掠れていく語尾にさらに眠気を誘われる。春の陽気に包まれて、彼の寝息が聞こえ始めた。
なんて穏やかな時間だろうか。
私が彼に気を抜くのと同様に、彼もこんなに気を抜いている。
もしかしたらもう、それほど気の置けない仲なのかもしれないと、心の中で喜んだ。
2/9ページ