嗚呼、素晴らしき哉、人生!
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「なぁ、今日の夕餉ってなんだ?」
腰に手を回し、肩口に顎をおいてそう尋ねてくる彼は、新選組の幹部の一人。人懐こい性格と、大人のお姉さま受けするその可愛さから、島原でも一部の年齢層から支持を集めているらしい。
肝心の本人はというと、あまりそういったことには関心がないようで。
「うーんと。今日は鶏肉だよ。頂き物があるから、幹部の人たちに特別にね。」
「やった。」
新八さんたちと話している時と、私と話すときとでは随分と様子が違う。男同士でじゃれる彼はさも末っ子のような立ち振る舞いなのに、私といるときはなんだか
「俺、伊織の作る飯大好き。毎日食いてぇ。」
落ち着きのある年下君なのである。
「にしてもお前、いっつも勝手場にいるよな」
毎日の料理は最早習慣の一部と化している。立派な仕事だが、だからと言ってお給料をもらえることでもない。ただ適材適所という便利な言葉のおかげで、保護されてからはこうしてせっせと準備に追われる毎日なのだ。
「献立考えんの、だるくね?」
「そうだね、でも皆さんよく食べるし、作り甲斐あるよ」
「ありがとな。お前のおかげで俺も元気だわ」
「ふふ」
イケメンたちにご飯を作るというのは嫌な気分には決してならないが、だからと言って疲れないというわけではない。善意というわけでもないし、ただの責任感なわけで。
だからこそ、こうしてお礼を言ってくれる平助のような人の一言がこれほどに嬉しい。
「いつもありがとう、平助。」
「なんだよ突然。」
甘えん坊の犬のように、私にくっついてまどろんでいる彼。動きにくいが、それ以上に彼が毎日隙間時間で手伝いに来てくれることが嬉しい。
しかも今日は、巡察があったにも関わらずこうして足を運んでくれる。そんな彼の、なんて気配り上手なことか。
「突然じゃないよ。いつも思ってることだもん。」
彼は私から離れ、隣の煮物の蓋を開ける。
ふわりと湯気が自由になり、ぐつぐつとおいしそうな匂いが漂った。彼は器用にアクをすくい、醤油を垂らし、味の調節をする。少し味見をして「うん、やっぱうめぇ」って笑った。
彼の手際の良さは、さすが江戸ネイティブといったところか。
「こうやって手伝ってくれるの、平助くらいだし。」
「一君がいるじゃん。」
「彼は、私が作るようになってからは稽古に行くようになったから。」
「そっか。」
煮物を焦げないようにかき混ぜながら、彼は少し考えるように鍋に視線を落とす。じっと表情を映さないその横顔はやけに大人びていて。
そういえばこの子はこんな年でも命を張った仕事をしているんだと思い出す。同時に、胸が締め付けられた。
十代の子どもが人の命を奪いその責任を負うなど、心中の負担は計り知れない。なにか自分にできないものかと思案する。
「いや…ないな…」
言葉の通りだ。
ただ平和を生きた私では、彼にしてあげられることなど料理くらいで。
なんて頼りないんだとため息が漏れた。
「なんだよ、飯作ってるときにそんなため息吐くなよな。」
平助が目線を動かさずに言う。
「ごめんごめん。気をつけるよ」と応えて手元の和え物を皿に盛りつけていく。ふと視界の端で彼が動いた。
「あのさ、そういう意味で言ったんじゃなくて、飯作ってるときっていうのは、俺と一緒にいるときにってこと。」
「え?」
意味も分からず顔を上げると、存外近くにその真剣な瞳がある。思いつめたような面持ちがこちらを捉え、そして離さない。
「俺と一緒にいるときくらい、もっと楽しんで欲しい。俺が不甲斐ないのはわかるけど、伊織ってなんかいっつもしんどそうじゃん?」
「そ、そんなことないよ。ここの人たちにはよくしてもらってるし。」
「それでもさ、」
ふっと目線が下がる。彼の瞳は私の唇を捉えている。その視線はさらに下に落ちて、ついには足元まで下った。
「俺お前には、幸せでいてほしいんだ。せめて俺といるときくらい」
「意外だね。そういうこと言わなさそうなのに」
「…俺みたいな奪う側の人間にだって、人を幸せにしたい欲くらいあるよ。」
揺れた瞳と目が合った。
ぎゅっと胸が締め付けられて、苦しい。あぁこの子は、こんなにも優しく、こんなにも脆い。
伸ばした手が、そっと彼の頭を撫でる。芯のある硬い髪の毛が、手のひらの下でゆっくりと滑る。
「あのね平助。」
彼は何も答えない。代わりに首を傾げた。
「私はこうやって、夕餉の準備に来てくれる貴方に毎日毎日支えてもらってるよ。」
「こんなことじゃ、お前は」
「うんん。本当。こんなこと、って言うけど、平助だからできることだよ。私はずっと貴方に助けられて、だから毎日こうやって続けられる。平助がいなかったら、今頃部屋にこもってダラダラ過ごして、ここを追い出されてその辺で死んでるよ。それにね、」
何か力になりたいと思っているのは、貴方だけではないんだよ。
そう続けた私に、平助はくしゃりと目を細めた。泣きそうなその面持ちに、私まで鼻がつんとする。
「ありがとな、」と一言、彼は言った。
後で聞いた話では、その日彼は巡察で出くわした浪士を斬ったらしい。今月類を見ない成果だったが、彼が巡察で人を斬るのは初めてだったのだと言っていた。
動乱の世を生きる、彼の人生こそがまた動乱である。
腰に手を回し、肩口に顎をおいてそう尋ねてくる彼は、新選組の幹部の一人。人懐こい性格と、大人のお姉さま受けするその可愛さから、島原でも一部の年齢層から支持を集めているらしい。
肝心の本人はというと、あまりそういったことには関心がないようで。
「うーんと。今日は鶏肉だよ。頂き物があるから、幹部の人たちに特別にね。」
「やった。」
新八さんたちと話している時と、私と話すときとでは随分と様子が違う。男同士でじゃれる彼はさも末っ子のような立ち振る舞いなのに、私といるときはなんだか
「俺、伊織の作る飯大好き。毎日食いてぇ。」
落ち着きのある年下君なのである。
「にしてもお前、いっつも勝手場にいるよな」
毎日の料理は最早習慣の一部と化している。立派な仕事だが、だからと言ってお給料をもらえることでもない。ただ適材適所という便利な言葉のおかげで、保護されてからはこうしてせっせと準備に追われる毎日なのだ。
「献立考えんの、だるくね?」
「そうだね、でも皆さんよく食べるし、作り甲斐あるよ」
「ありがとな。お前のおかげで俺も元気だわ」
「ふふ」
イケメンたちにご飯を作るというのは嫌な気分には決してならないが、だからと言って疲れないというわけではない。善意というわけでもないし、ただの責任感なわけで。
だからこそ、こうしてお礼を言ってくれる平助のような人の一言がこれほどに嬉しい。
「いつもありがとう、平助。」
「なんだよ突然。」
甘えん坊の犬のように、私にくっついてまどろんでいる彼。動きにくいが、それ以上に彼が毎日隙間時間で手伝いに来てくれることが嬉しい。
しかも今日は、巡察があったにも関わらずこうして足を運んでくれる。そんな彼の、なんて気配り上手なことか。
「突然じゃないよ。いつも思ってることだもん。」
彼は私から離れ、隣の煮物の蓋を開ける。
ふわりと湯気が自由になり、ぐつぐつとおいしそうな匂いが漂った。彼は器用にアクをすくい、醤油を垂らし、味の調節をする。少し味見をして「うん、やっぱうめぇ」って笑った。
彼の手際の良さは、さすが江戸ネイティブといったところか。
「こうやって手伝ってくれるの、平助くらいだし。」
「一君がいるじゃん。」
「彼は、私が作るようになってからは稽古に行くようになったから。」
「そっか。」
煮物を焦げないようにかき混ぜながら、彼は少し考えるように鍋に視線を落とす。じっと表情を映さないその横顔はやけに大人びていて。
そういえばこの子はこんな年でも命を張った仕事をしているんだと思い出す。同時に、胸が締め付けられた。
十代の子どもが人の命を奪いその責任を負うなど、心中の負担は計り知れない。なにか自分にできないものかと思案する。
「いや…ないな…」
言葉の通りだ。
ただ平和を生きた私では、彼にしてあげられることなど料理くらいで。
なんて頼りないんだとため息が漏れた。
「なんだよ、飯作ってるときにそんなため息吐くなよな。」
平助が目線を動かさずに言う。
「ごめんごめん。気をつけるよ」と応えて手元の和え物を皿に盛りつけていく。ふと視界の端で彼が動いた。
「あのさ、そういう意味で言ったんじゃなくて、飯作ってるときっていうのは、俺と一緒にいるときにってこと。」
「え?」
意味も分からず顔を上げると、存外近くにその真剣な瞳がある。思いつめたような面持ちがこちらを捉え、そして離さない。
「俺と一緒にいるときくらい、もっと楽しんで欲しい。俺が不甲斐ないのはわかるけど、伊織ってなんかいっつもしんどそうじゃん?」
「そ、そんなことないよ。ここの人たちにはよくしてもらってるし。」
「それでもさ、」
ふっと目線が下がる。彼の瞳は私の唇を捉えている。その視線はさらに下に落ちて、ついには足元まで下った。
「俺お前には、幸せでいてほしいんだ。せめて俺といるときくらい」
「意外だね。そういうこと言わなさそうなのに」
「…俺みたいな奪う側の人間にだって、人を幸せにしたい欲くらいあるよ。」
揺れた瞳と目が合った。
ぎゅっと胸が締め付けられて、苦しい。あぁこの子は、こんなにも優しく、こんなにも脆い。
伸ばした手が、そっと彼の頭を撫でる。芯のある硬い髪の毛が、手のひらの下でゆっくりと滑る。
「あのね平助。」
彼は何も答えない。代わりに首を傾げた。
「私はこうやって、夕餉の準備に来てくれる貴方に毎日毎日支えてもらってるよ。」
「こんなことじゃ、お前は」
「うんん。本当。こんなこと、って言うけど、平助だからできることだよ。私はずっと貴方に助けられて、だから毎日こうやって続けられる。平助がいなかったら、今頃部屋にこもってダラダラ過ごして、ここを追い出されてその辺で死んでるよ。それにね、」
何か力になりたいと思っているのは、貴方だけではないんだよ。
そう続けた私に、平助はくしゃりと目を細めた。泣きそうなその面持ちに、私まで鼻がつんとする。
「ありがとな、」と一言、彼は言った。
後で聞いた話では、その日彼は巡察で出くわした浪士を斬ったらしい。今月類を見ない成果だったが、彼が巡察で人を斬るのは初めてだったのだと言っていた。
動乱の世を生きる、彼の人生こそがまた動乱である。
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