嗚呼、素晴らしき哉、人生!
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これはどういうことだろう。
起き上がろうとして、身体が動かないことに気づく。無理くり起き上がると、骨が軋んだ音がする。骨同士がこすれて、ぶぶぶぶぶ、と微妙な振動がくる。鐘を打つような鈍い、しかし確かな強い痛みが全身を支配した。
「…えっ、動けない。」
嫌な予感がして、恐る恐る寝着をめくる。
「…うわ。」
あばら骨の上を一直線に、太い太い青黒い広がりが浮いている。それは毛穴をより黒く目立たせて、ひたすらに皮膚の下の出血を物語る。
「どーりで動けんわけだわ」
激しい頭痛に、逆上せたような頭をゆっくりと枕に戻す。一秒ごとに間を開けて殴られているような痛みに歯を食いしばる。
「………」
人を呼ぶこともままならない。
からからに乾いた喉と唇。今は何時なんだろう。それすらも確認できない。
「おーい。伊織ー。いるかー?」
「開けちゃえばいいじゃん。」
「馬鹿。一応女の部屋だぞ。」
「やだなぁ平助そんなこと考えてるの?やらしい。」
「ばっ、ちげーよ!!!!」
襖の外で、平助と総司の声が聞こえる。起き上がろうとした瞬間に、胸元からがりっと音がした。途端に息がし辛くなり、寝返りで身体を横にして縮こませる。襖が開いた音がした。
「おい!!!」
目を開けた先に、焦った顔でこちらをのぞき込む平助と、遠ざかっていく足音。
「かっ…は…っ」
「落ち着け、何があった。息ができねぇのか!?」
「…っ…ふ…」
視界がかすんでいく。視界がちかちかと光って見え、彼の声が遠くなる。彼はおどおどと宙で手を彷徨わせ、咄嗟に私の半身を起こし上げた。ふっと呼吸が軽くなる。
「…ふっ…」
「落ち着け。落ち着いて、俺がいるから。」
背中をさする平助の手が優しい。彼はぎゅっと手を握って、私と同じくらい辛い顔をしている。複数の足音が近づいてくる。空いていた廊下から、切羽詰まった面持ちで総司と山崎さんが駆け込んでくる。
「伊織!!!!」
総司が駆け寄ってくる。平助の横に並んで、胸を押さえる私の手を上から包んだ。
「すみません、開きますよ」
山崎さんは乱れた私の寝着をひらく。三人が息を呑んだ。その尋常ではない青さが、ただ事ではないと告げている。
山崎さんがゆっくりと診察する。平助と総司はそっと離れて、こちらを心配そうに見た。
「…肋骨が折れている。下手に動くと神経痛といって激しい痛みを伴う呼吸困難になることもある。」
「折れていましたか参ったなぁ。」
へへ、と二人の方を見ると、思いのほか張り詰めた表情に驚いた。眉尻を下げる平助とは逆に、総司は眉間にしわを作る。
「それ、例の一君とのやつ?」
例の、とは、私の外出許可のために土方さんの命ではじめと手合わせしたときのことだ。絞め落とそうとした私に、はじめは峰打ちをお見舞いした。ただ横に薙ぎ払われただけで肋骨折とは、流石本物の殺傷術だ。真剣の方だったら真っ二つにされていたんだろう。
つい昨日の出来事である。
総司にぎゅっと手を握られる。指先が白くなるほどのその強さに、彼の憤りがこもっている気がした。
「総司。怒らないで。」
「僕は君には怒ってないよ、」
「…じゃあ誰に怒ってるの?」
「…内緒」
彼の袖を握る。汗が額から頬をつたい、顎を伝ってももにぽたぽたと落ちた。
「申し訳ありませんが、このことは秘密にしてもらえませんか?」
私の言葉に、山崎さんは目を見開いた。平助は「なんでだよ!」と声を荒げ、総司は私の手をもう一度握り直した。
「恥ずかしいから。お願いします。」
三人に頭を下げる。渋面のまま、首をなかなか縦に振らない。山崎さんは、「わかりました。貴方がそう望むなら。」と頷いて、早々にその場を後にする。
あとは幹部の二人に任せるとのことなんだろう。
「総司、言わないで。」
「なんで僕なの?平助は?」
「平助も。」
「…………。」
再び汗が垂れる。はだけた寝着の前を閉じて、平助は頷いた。
「許可は出たんだよな?外出の。もし外行きたくなったら、俺にいつでも言え?お前が望むなら、毎日でも付き合うぜ。」
「ありがとう、平助。」
総司に向き直る。未だに眉間のシワを刻んだまま、彼はふうっと肩を落とした。
「怪我が治るまでは、安静にして。」
「できる限り善処するけど、今日は買い出しに行きたい。」
「本当に我儘だね。」
「うん、ごめんなさい。」
そっと総司の指が、汗で張り付いた髪を耳にかける。彼の指は、存外冷たかった。
「なら僕の言う事聞いて。僕が稽古を君につけてあげるから。」
「いいの?」
「伊織は特別。でも今日だけは、とりあえず買い出しには行かずに休んで。薬飲んで、せめて熱を下げて。」
こつん、と彼の額が私の額にくっつけられた。汗をかいているから申し訳ないと思う反面、彼の低い体温が心地よい。目を細めると、くすりと笑って総司は私を寝かせた。
ぼうっと鮮明でない意識に拍車がかかる。すぐに眠気は訪れて、瞼はとろとろと落ちていく。
「おやすみ、伊織。」
総司の声が聞こえた気がした。
起き上がろうとして、身体が動かないことに気づく。無理くり起き上がると、骨が軋んだ音がする。骨同士がこすれて、ぶぶぶぶぶ、と微妙な振動がくる。鐘を打つような鈍い、しかし確かな強い痛みが全身を支配した。
「…えっ、動けない。」
嫌な予感がして、恐る恐る寝着をめくる。
「…うわ。」
あばら骨の上を一直線に、太い太い青黒い広がりが浮いている。それは毛穴をより黒く目立たせて、ひたすらに皮膚の下の出血を物語る。
「どーりで動けんわけだわ」
激しい頭痛に、逆上せたような頭をゆっくりと枕に戻す。一秒ごとに間を開けて殴られているような痛みに歯を食いしばる。
「………」
人を呼ぶこともままならない。
からからに乾いた喉と唇。今は何時なんだろう。それすらも確認できない。
「おーい。伊織ー。いるかー?」
「開けちゃえばいいじゃん。」
「馬鹿。一応女の部屋だぞ。」
「やだなぁ平助そんなこと考えてるの?やらしい。」
「ばっ、ちげーよ!!!!」
襖の外で、平助と総司の声が聞こえる。起き上がろうとした瞬間に、胸元からがりっと音がした。途端に息がし辛くなり、寝返りで身体を横にして縮こませる。襖が開いた音がした。
「おい!!!」
目を開けた先に、焦った顔でこちらをのぞき込む平助と、遠ざかっていく足音。
「かっ…は…っ」
「落ち着け、何があった。息ができねぇのか!?」
「…っ…ふ…」
視界がかすんでいく。視界がちかちかと光って見え、彼の声が遠くなる。彼はおどおどと宙で手を彷徨わせ、咄嗟に私の半身を起こし上げた。ふっと呼吸が軽くなる。
「…ふっ…」
「落ち着け。落ち着いて、俺がいるから。」
背中をさする平助の手が優しい。彼はぎゅっと手を握って、私と同じくらい辛い顔をしている。複数の足音が近づいてくる。空いていた廊下から、切羽詰まった面持ちで総司と山崎さんが駆け込んでくる。
「伊織!!!!」
総司が駆け寄ってくる。平助の横に並んで、胸を押さえる私の手を上から包んだ。
「すみません、開きますよ」
山崎さんは乱れた私の寝着をひらく。三人が息を呑んだ。その尋常ではない青さが、ただ事ではないと告げている。
山崎さんがゆっくりと診察する。平助と総司はそっと離れて、こちらを心配そうに見た。
「…肋骨が折れている。下手に動くと神経痛といって激しい痛みを伴う呼吸困難になることもある。」
「折れていましたか参ったなぁ。」
へへ、と二人の方を見ると、思いのほか張り詰めた表情に驚いた。眉尻を下げる平助とは逆に、総司は眉間にしわを作る。
「それ、例の一君とのやつ?」
例の、とは、私の外出許可のために土方さんの命ではじめと手合わせしたときのことだ。絞め落とそうとした私に、はじめは峰打ちをお見舞いした。ただ横に薙ぎ払われただけで肋骨折とは、流石本物の殺傷術だ。真剣の方だったら真っ二つにされていたんだろう。
つい昨日の出来事である。
総司にぎゅっと手を握られる。指先が白くなるほどのその強さに、彼の憤りがこもっている気がした。
「総司。怒らないで。」
「僕は君には怒ってないよ、」
「…じゃあ誰に怒ってるの?」
「…内緒」
彼の袖を握る。汗が額から頬をつたい、顎を伝ってももにぽたぽたと落ちた。
「申し訳ありませんが、このことは秘密にしてもらえませんか?」
私の言葉に、山崎さんは目を見開いた。平助は「なんでだよ!」と声を荒げ、総司は私の手をもう一度握り直した。
「恥ずかしいから。お願いします。」
三人に頭を下げる。渋面のまま、首をなかなか縦に振らない。山崎さんは、「わかりました。貴方がそう望むなら。」と頷いて、早々にその場を後にする。
あとは幹部の二人に任せるとのことなんだろう。
「総司、言わないで。」
「なんで僕なの?平助は?」
「平助も。」
「…………。」
再び汗が垂れる。はだけた寝着の前を閉じて、平助は頷いた。
「許可は出たんだよな?外出の。もし外行きたくなったら、俺にいつでも言え?お前が望むなら、毎日でも付き合うぜ。」
「ありがとう、平助。」
総司に向き直る。未だに眉間のシワを刻んだまま、彼はふうっと肩を落とした。
「怪我が治るまでは、安静にして。」
「できる限り善処するけど、今日は買い出しに行きたい。」
「本当に我儘だね。」
「うん、ごめんなさい。」
そっと総司の指が、汗で張り付いた髪を耳にかける。彼の指は、存外冷たかった。
「なら僕の言う事聞いて。僕が稽古を君につけてあげるから。」
「いいの?」
「伊織は特別。でも今日だけは、とりあえず買い出しには行かずに休んで。薬飲んで、せめて熱を下げて。」
こつん、と彼の額が私の額にくっつけられた。汗をかいているから申し訳ないと思う反面、彼の低い体温が心地よい。目を細めると、くすりと笑って総司は私を寝かせた。
ぼうっと鮮明でない意識に拍車がかかる。すぐに眠気は訪れて、瞼はとろとろと落ちていく。
「おやすみ、伊織。」
総司の声が聞こえた気がした。
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