嗚呼、素晴らしき哉、人生!
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「土方さん、」
「あ?」
「外出の許可を頂きたいのですが。」
唐突に切り出した話題に、彼は眉間の縦皺を深めて
「理由を言え。」
「
「お前にそんなことできんのか。」
「…やってみなければわかりませんが…。」
そう言ってから、軽率だったと我に返る。彼の眉間のシワが、見たこともないほど深く深く刻まれた。
「すみません。もっと考えるべきでした」
なぜ私はいつも、こうも考えんなしに動くのか。少し考えればわかることだろうに、実際の反応を見るまで一歩先を軽んじてしまうきらいがある。
「大変軽率でした。出直します。」とパニクった私はなぜか
「は、はい。」
「お前多少心得があるっつってたな。斎藤に見てもらえ。話はそれからだ。」
「え。」
嫌ですとはとても言える雰囲気ではなかった。
「かしこまりました。」と頭を下げてはじめを探しに行く。最年少幹部、居合の達人として名高い斎藤一に、勝負を挑もうというバカな考えは持っていなかった。しかし、外出許可もあきらめきれない。
はてどうしたものかと頭をひねる。一応護身術程度の武道の嗜みはあるが、そんなものが通用する世界でないことくらいわかっている。
はてさてとさらに首をひねったころ、運が良いのか悪いのか、はじめがひょっこりと姿を現した。
「あ、はじめ。ちょうどよかった。実はね、」
「副長から話は聞いている。」
「あらそうなのね、」
「副長もあんたが勝てるなどとは思っていない。そんなに気負うな。」と戦う前から優しい言葉をかけられる。それがやけに悔しくて、だがそもそも正論過ぎて頷くしかない。
「ごめんねはじめ。面倒かけちゃうけど。」
「構わん。誰もあんたの戦力に期待なぞしていない。」
その言葉は冷たいようでいて、しかし彼なりの優しさが垣間見えた。
「小太刀はこれを使え」
「ありがとう」
実のところ、私は生まれて初めてここで真剣を手にした。実に重たい。
しかし重いのは物理的な意味ではなく、この鉄の塊が何人もの血を吸った刀であるという事実が重たい。
「何をぼうっとしている。誤って自分を斬らぬように。」
「えっと…」
刀を渡されたところで、振り方などわからないのに。むしろ両手がふさがり邪魔でしかないのだと、構えるふりをして力を抜いた。
「いつでも斬りかかってこい。」
彼が積み上げた死体の山と、それに裏打ちされた自信がそんな言葉を投げてよこす。間合いをとり“居合の構え”をとった彼から、なんだか威圧感を感じる。
パッと見たところ刀に手をかけているだけだが、これは下手に切り込んだらカウンターを食らう。どうしたものか。
「いきます」
片足を引いて、半身をとる。後ろ脚に重心を8割置いて地面を蹴った。
片手に下げた刀を彼に向かって投げた。それはいとも簡単に弾かれ、次の瞬間には剣先が迫りくる。
「っ…!!」
意を突かれ重心を崩された彼の体が傾く。
しかし咄嗟に逆持ちに持ちに直された刀の峰が、私の腹部を薙ぎ払った。
「い”っっ!!!」
鈍痛が左から右へかけていく。
私はそれでも離さない。
首に手を回し、気絶のポジションに腕を固定する。ぐっと彼の息が詰まった。
酸素を絶たれた彼の脳が、ぴくぴくと瞼を痙攣させる。顔を真っ赤にしたはじめは、私の腕を引き剥がそうと指先いっぱいに力を入れた。
ここまでくると、意地の張り合いだ。
「か…っ……」
もう落ちるーーそう思った瞬間。
「なにしてやがる!!!!!!!!!」
どごっと鈍い音ともに後頭部に激痛が走った。がつんと視界が揺れ、立っているのが困難なほど平衡感覚がなくなる。三半規管を直接刺激するようなその痛みに、思わずはじめから腕をといて頭を押さえた。砂利の上に転がり、おでこを擦る。皮が砂利で擦れたのがわかり、じわりと痛みに視界が滲む。最早声もでない。
「斎藤、お前、大丈夫か!」
「副長。俺としたことが」
「おい伊織、なんのつもりだ!!殺されてぇのか!」
なんのつもりだはこちらのセリフだった。
私が彼を殺そうとしているようにでも見えたのだろうか。峰打ちを先に食らったのは私の方だというのに。
腹部と頭部の痛みが広がり、どちらがどれだけ痛いのかもうわからない。
「私は自分ができる限りの反撃をしたまでです!」
「首取りに行ってたくせになんの言い訳だ!」
胸ぐらをつかまれる。
怒りに染まった紫の瞳に、最後の何かがプツッと切れた。
「自分で実力を見たいとおっしゃったのではありませんか!!!!相手の実力と根性を見誤った貴方に責められるいわれはありません!」
「てめっ!ごちゃごちゃと」
「まぁ待てトシ。」
俄かに滑り込んできた声に肩が跳ねる。それは紛れもなく近藤さんの声で、今の私にはまるで天の助けのような神々しささえ秘めている。
「近藤さん!」
「俺はずっと見ていたが、彼女の戦い方。勝利はないと理解しながらも肉を切らせて骨を断つが如くの戦いっぷりだった!実に見事だ!!」
大きな体を震わせて、はっはっはと笑う近藤さんは、私の頭を撫でた。力強い撫でかたに、結んでいた髪がぐしゃぐしゃになる。たが不思議と、嫌な感じはしなかった。
「おなごにしておくには実に勿体ないな。」
「女である方が敵の油断も誘えますよ。」
「なるほどそれも一理ある。」
やけに肩を持ってくれる近藤さんに免じて、土方さんも引かざるをえなかったらしい。
事情を話せと目で促す彼の手前、土方さんも仕方なく話し始めた。
「なに!君は医術の心得もあったのか!」
「いえ、民間療法と言いますか」
「構わん!先生だけでは手に負えんのだ!」
その場で近藤さんのお墨付きをもらえた私は、早速明日買い出しに行くことにした。
ことは急を要するのだ。
夜中、部屋で体を確認する。
あばらに入った峰打ちの青い痕と、晴れ上がったたんこぶのせいでいつまでも寝付けなかったのはまた別の話。
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