YOUTH

3年目3月上旬 卒業式
主人公side


 「つけてくれない?」

 ポケットからそっと取り出した小さな箱を開くと、陽を浴びてきらりと光った。
 銀色の小さな花モチーフ。卒業の印を何か形に残したくて、選んだピアスだった。

 「俺とコウにってこと?」

 琉夏が片眉を上げて笑う。

 「うん。つけてるピアスの上に、もうひとつ開けてつけて」

 「ったく…唐突だな、オイ」

 琥一が頭をかいて唸った。

 「嫌ならいいんだけど……」

 僕が眉をひそめると、琥一はぐっと拳を握って顔を背ける。

 「嫌なわけねぇだろ…」

 琉夏はにやにやしながら琥一を覗き込んだ。

 「無理すんなよ、お兄ちゃん。針が苦手なのはもうわれてんだぞ」

 「別に…っ……苦手じゃねぇ」

 「嘘だね。カエデのピアス開けるときいっつもすごい顔してた」

 そのやりとりを聞いていて、思わず笑ってしまう。
 琉夏は早くも僕のポケットをまさぐりながら、「あ、やっぱりあった」ってピアッサーを二つ取り出した。

 「いいよ。俺からやる。ほら、前回も俺が先だったじゃん」

 そう言って顔をかたむけた琉夏の左耳には、琥一とお揃いのピアスが光る。
 昔、安全ピンで開けたって聞いたときは、正直ぞっとした。僕だったらトラウマだし、琥一もたぶんトラウマになっている。
 目があった瞬間、色素の薄い瞳がふっと視線を逸らした。ため息を吐いて、僕はピアッサーを構える。
 琉夏は目だけで僕を見上げて、ウインクした。

 「優しくして?」

 沈黙の中に、ピアッサーの乾いた音が響いた。

 「はい、開いたよ」

 琉夏は「余裕」と言って肩をすくめた。
 すぐにピアスを取り外して、何のためらいもなくプレゼントのピアスを通し始める。
 ぎょっとして僕は思わず声をあげた。

 「ちょ、ちょっと待って琉夏、それファーストピアスなんだからすぐ変えちゃダメ──」

 「え、だってカエデがくれたやつだし。つけたいじゃん」

 「だめだってば、普通一ヶ月はそのままでいないと、雑菌が入って膿」

 「大丈夫だよ。前も大丈夫だったし」

 おおらかすぎる性格に、こちらの胃が痛くなりそうだった。
 それでも――嬉しそうに、鏡に映してピアスを眺めてる姿は可愛い。

 「じゃあ、次。琥一」

 「……おう」

 目を閉じて小さく息を飲む琥一の耳に、そっとピアッサーを当てる。息を合わせるみたいに、一拍。
 カシャン、と音がして、彼の肩がほんの少しだけ跳ねた。

 「はい終わり。一か月はつけててね。」

 「お、おう……」

 「いや、コウも大丈夫だから、今変えよう」

 息を呑んだ琥一の耳を掴んで、琉夏は一瞬でファーストピアスを外してプレゼントのモノに付け替えた。

 「ってぇなオイ…」

 深いため息を吐いて琥一は、いっそう眉を顰めた。
 琉夏がちょっとわざとらしく拍手して、「がんばったねお兄ちゃん」と笑った。

 「チッ……お前らタッグ組みやがって」

 耳元をさすりながらぼやく琥一の表情は、けれどどこか照れたようだった。

 「卒業祝いにしては、ずいぶんスパルタだな……」

 「そう?」

 僕は肩をすくめる。

 「でも、これでいつでも思い出せるでしょ」

 風が吹いた。
 三人の耳に光る、小さな銀の花びらが揺れた。
 卒業のそのちいさな痛みが、胸の中にそっと灯る。

 「可愛い。カエデ、クチナシの花好きだよね」

 「そうだね。初めて人にあげた花だし、思い入れはあるよ」

 「んん…俺もその花好きになっちゃった。カエデと一緒に一生大事にしちゃう」

 琉夏は僕の肩に頭を乗せて、腕に絡んでくる。語尾を囁き声に変えて、にこにこしながら言った。
 琥一はまた深いため息を吐く。

 「俺のいねぇとこでやれ」

 僕は「はいはい」とどっちに向けてもいいながら、空を見上げてそのまま寝っ転がった。
 二人も両サイドに横になる。肩が当たった。

 「僕、はば学に来てよかった。生きててよかったよ」

 唐突に言った僕に、二人は一瞬こっちを見てから、すぐ空に目線を戻した。

 本当に良かった。
 無駄じゃなかった。
 間違ってなかったんだ。

 どこにいるかわからない両親も、幸せをあきらめなかった僕も。
 重たい石を抱え、いつでも消える準備をしながら、生き続けた琉夏も。
 依存と自己犠牲の中で生きながら、やっと誰のための人生か、気づき歩み始めた琥一も。

 絶対に、間違ってなかったんだ。 誰も。
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