YOUTH

3年目5月中旬 数学教授
琉夏side


 カエデと肩を並べて下校しながら俺はどう説明しようか考えていた。

 若王子先生の「進路相談」のことを隠すつもりはなかった。
 でも、カエデにもコウにもそれまでなんとなく黙っていた。

 「いいよ。言いたくないことなら、無理に言わなくたって」

 さもなんでもないという風に彼が言う。
 普段ならそのままごまかしていたと思う。

 だけど、若王子先生と会った後はどうしても調子が狂う。調子が狂って素直になってしまう。
 だから、俺は慎重に話してみることにした。上手く伝えられないかもしれないけど、大切なことだから。

 子供の頃からずっと抱えていて気持ち。
 そして、短い時間だけど、若王寺先生と過ごすうちに、前より自分を好きになれたこと……。

 「そうだよ。きっと、できるよ。」

 最後まで話すとそう言って楓は笑った。
 頭の中で何かがカチッと音を立てた。

 なんだ。
 こんなことだったんだ。

 放課後、最後の「進路相談」のためにいつもの教室に行くと、黒板に「解」が書かれていた。

 『いつか採点してください』

 そう言って笑うと、若王子先生はいつものように用意してきた数学の問題を黒板に書き出した。
 それからいつものように、その問題を時間一杯解いて、いつものように別れた。

 「進路相談」はどうなった?

 そう言えば、たった一度、「進路、どうする?」と、聞かれたことがあった。数学の問題を解きながら。

 進路相談をしに来ているくせに、まるで何かのついでみたいで、俺は噴出した。
 あんまりおかしかったから、きっと俺は、打ち明けてしまったんだと思う。
 自分にも秘密にしていた気持ちを。

「早く大人になって、誰の邪魔にもならないようにしたい」

 先生はしばらく考え込んで、それから、「宿題にさせてください」と言った。

 『解』っていうのは、その宿題の解だった。
 そして、きっとこれが先生の「進路相談」だったんだ。

 俺はできるだけ正確に、黒板に書かれていた、その『解』を思い出してみる。

解:
 「邪魔にならないこと」は「愛する人の幸せ」の
 十分条件ではない。多分必要条件でもない。
 「愛する人の幸せ」は、君が顔を上げて、いつでも
 胸を張っていること。君が心から笑えば、それでいい。

 先生。
 先生の言っていることは、難しすぎて半分もわからないけど、最後のところだけは分かったような気がする。

 心から笑えばそれでいい。

 カエデの笑顔を見ながら、俺はその部分にアンダーラインを引いてみた

 本当だ。俺もこれが一番いい。
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