YOUTH

1年目8月上旬 花火大会
主人公side


 屋台の赤い提灯がゆらゆらと風に揺れて、その下を浴衣姿の人々が楽しそうに歩いている。焼きそばの鉄板から立ちのぼる油のにおいが、空気を濃密なものにしていた。

 「いらっしゃいませー!」

 呼び込みの声を張り上げながら、僕は射的の出店の手伝いをしていた。
 額に浮かぶ汗をぬぐおうとしたとき、視界の端に見慣れたシルエットが三つ、ゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。

 「おー、カッちゃん発見!」

 琉夏君がひょいと手を挙げて僕を指さす。その横には、琥一君と、二人の幼馴染のボブの女の子。

 「お!射的か!よっしゃルカいくぞ」

 「おう!」

 メラメラ闘志を燃やしながら射的に勤しむ二人と、同じくらい盛り上がってる女の子。彼女に関しては勝手におとなしいイメージを持ってたけど、そうでもなかったらしい。

 百発百中なんじゃないかってくらい景品に当てて、店主を言いくるめている二人はやけに手慣れてる。店主もあわあわしながら、なんだかんだ二人に景品を渡した。

 「美奈子、これやるよ。」

 琉夏君が彼女にクマの人形をあげてる。琥一君も、とったお菓子は結局ほとんど彼女にあげてしまって。ただ射的を楽しんでるだけになってる。
 うーん二人とも本当に楽しそうだ。
 ふと思いついて、僕は隣のお面屋さんからお面を買う。
 花火が始まるからって手を振る三人を呼び止める。

 「これ、二人に」

 お面を二人に手渡してから、彼女に向き合う。

 「ごあいさつ遅れたけど、僕B組で琥一君と同じクラスの霧島きりしまかえでです。よろしくね」

 差し出したうさぎのお面を、彼女は嬉しそうに受け取って「A組の小波美奈子です」って笑った。

 やけに静かな琉夏君と琥一君は、お面をじっと見てる。
 ブラックとレッドのお面を渡したのに、二人は何も言ってくれない。

 「ごめん、好きじゃなかったかな」

 ヒーローのレッドって言ってたくらいだし、琥一君はともかく琉夏君なら喜んでくれると思ったのに。
 「似合うと思ったんだけど」って余計なことを言って、僕は二人の顔色を伺う。

 黙ったままお面を眺めてた二人は、突然吹き出した。大きな声で笑って、意気揚々とお面を頭につける。

 「分かってんじゃねぇか!」

 「さすがカッちゃん、ナイスだ!」

 琥一君も琉夏君も僕をもみくちゃに撫で回す。前から思ってたんだけど本当に二人のこの距離感、なんだろう。
 弟だとでも思われているんだろうか。

 「俺らヒーローだから。お前が困ったら助けてやるよ」

 琉夏君が僕の頭を引き寄せて言う。

 「そーだな。強ぇぞ俺らは」

 琥一君もまた僕の頭をぐしゃぐしゃにする。
 キリがなくて「花火始まるよ!早く行ってきなよ」って言いながら小波さんをちらっと見る。ハッとして頷いた小波さんは、僕の意図を理解して二人の手を掴んだ。

 「早く、始まるから!」

 二人を僕から引き剥がして歩き出す。

 僕は口パクでありがとうって小波さんに言う。彼女はにこって可愛く笑った。

 長身の間に挟まれた小波さんは、肉食獣に挟まれた本当のウサギみたいで。その後ろ姿を見ながら、僕は吹き出した。

 やがて、空に一発目の花火が上がる。

 ドン、というお腹の底に響くような音。直後に、夜空に大きな白い光の花が咲いて。人々の歓声が一斉に上がった。
 花火は次々と打ちあがり、色とりどりの破裂音が夜の布を破っては、静かに散っていく。
 一発ごとに、人のざわめきが波のように押し寄せ、そしてまた静まり返る。その繰り返しが、不思議と心地よかった。

 「綺麗だな…」

 風が吹いて、花火の煙がこちらに流れてくる。甘く焦げた火薬のにおいが、鼻の奥を満たす。
 そしてまた、夜空に大輪の音が開いた。世界はそれに合わせてまた、一瞬だけ静かになった。
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