YOUTH
3年目1月上旬 初詣
琥一side
年明け直後の神社は、相変わらず人で溢れてた。
笑い声と、焚き火の匂いと、冷たい夜気と、背中に触れる誰かの肩や腕──
とにかく混んでる。
人混みの中、はぐれねぇように、自然と手が伸びた。
俺が楓の手首を掴んで、楓が琉夏を掴む。ガキみてぇな隊列だ。
けど、不思議と悪い気はしねぇ。
「めっちゃ混んでるじゃん」
後ろで琉夏がぼやく。
「去年より人多くねえか?」
「たぶんね」
楓が笑ってる。声は小さいけど、耳に残る。
寒さの中でも、あいつの手はいつもみたいにあったかかった。
「……ねぇ、琥一」
「ん?」
「1年の…二人で初詣に来た時……僕、実は何も願わなかったんだ」
「だろうな」
握る手に力を入れながら、俺は自然と返してた。
楓は、目を見開いて俺を見る。
「……わかってたの?」
「わかるだろ。『真剣に祈ってたな?』って言った俺に、オマエ愛想笑いしてたし」
「……そうだったっけ」
楓は、ふっと笑った。口元が柔らかく緩む。
「あれが初めてだったんだろ。初詣」
「……うん」
少し間を置いて、楓が頷いた。
「…あの日が、人生で初めての初詣だった」
その言葉に、何かを言いかけてやめる。
「……何願えばいいか分かんなくてさ。何か失礼なこと言っちゃったらどうしようって」
「真面目かよ」
「真面目だよ、僕は」
そう言って、また笑った。今の楓の笑い方は、あの頃とは全然違う。
ちゃんと、ここに馴染んだ顔をしている。
「でも今は、違うよ」
「ん?」
「願いたいこと、いっぱいある。……どれからお願いしようか迷うくらい」
そう言った楓の声は、喧騒よりも静かだったけど、不思議と耳に残った。
「たった2年で欲張りになったな?」
「うん、そうだね」
「じゃ、おみくじも二枚引け」
「それはズルいでしょ」
はは、と笑って肩を揺らす楓の横顔が、やけに大人びて見えた。
階段を登りきって、ようやく本殿が見えてくる。
列はまだまだ先だ。けど急ぐ必要もない。
この時間が、なんかいい。
「お前ら、手、離すなよ」
「はーい」
「コウもな」
ごちゃごちゃした境内に、三人の声が小さく混ざる。
それだけで、年の初めとしては十分だって思える。
「お誕生日おめでとう、カエデ」
「おめでとーだ。プレゼントはもう少し待てよ」
「ふふ。二人ともありがとう。今年も丸ごと、よろしくね」
「「おう」」
俺にとっての初詣は、もう願い事をするためのもんじゃない。
こいつらと、年をまたぐ。その確認みたいなもんだ。
そしてまた、同じ春が来るって信じるための。
