YOUTH
3年目12月中旬 シアワセの中心に
琉夏side
雪は降ってないけど、ゲレンデみたいに空気が冷たくて澄んでいて。吐く息が白くなって、なんだかそれすら綺麗に思えた。
駅前のイルミネーションが、どこかのドラマみたいに光ってる。ブルーとゴールドが交互に点滅して、木々の間を柔らかく照らしていた。
その光の中に、カエデが立っていた。
マフラーに顔をうずめて、鼻先を少しだけ赤くして。
ポケットから出した手に俺がそっと手を重ねると、びくっとしたあと、すぐに静かに笑ってくれた。
「きれいだね」
カエデがそう言って、イルミネーションを見上げる。
俺はカエデの名前を呼んだ。カエデは「ん?」って俺を見て、次の言葉を待っている。
何を言われても驚かないみたいなその顔が、憎らしくて好きだ。
「そばにいてくれてありがとう」
「僕こそ。連れてきてくれて、ありがとう」
笑うカエデの白い息が、ふわっと広がる。
俺はそれを目で追いながら、少し声を落として言った。
「クリスマスになると、どうしても小さいころのこと思い出すから。ずっとそばにいてほしかった。」
「そっか」
「うん…カエデ、俺と出会ってくれて、ありがとう」
カエデは「うん」と浅く頷いて、俺の手を引く。
あったかい両手が、俺の冷えた手を包んでくれて。少しだけ俺より高い目線で、俺に笑いかける。
「琉夏が好きだよ」
きゅう、と心臓が締まる。
どういう意味で?なんて心の中で唱えるまでがセットだ。
お前がなんでもないみたいに言うその言葉に、俺が緊張と嬉しさの間でどれだけ舞い上がってるかなんて、お前は知らなくていい。
務めてなんでもないことみたいに、俺は頷いた。
「うん。 知ってるよ」
「…うん。そう。そうだね」
カエデは少し寂しそうに頷き返して、はは、と乾いた笑いを漏らした。
「……」
俺はそれに気づきながら、そっと目線をイルミネーションへ逸らす。
歩み寄りきれないこのもどかしさも、そのうち笑って話せる過去になるんだろうか。
きゅっとカエデが俺の手を握った。
「琉夏」
じっとその瞳が、俺を見つめている。
俺はそれを見つめ返して、次の言葉を待った。
カエデの瞳の中に、イルミネーションの光が反射してて。綺麗だな、と思った瞬間、キスしたくなって腰が震えた。
思わずぎゅっと手を握り返すと、カエデはまだ黙ったまま俺を見ている。その唇が、薄く開いた。
「君の瞳の中に、光の粒が浮かんでる。とっても綺麗だ」
カエデのあったかい手が、俺の頬をつたって髪を耳にかける。
心臓が鳴った。心配になるくらいどきどきしてる。
「…ん」
思わずその手のひらに、すり寄るように顔を傾ける。
カエデはふわっと笑った。
「カエデ」
「うん?」
「好きだよ」
「うん。 知ってるよ」
「…うん」
ねぇカエデ。
お前の隣にいると、たまに呼吸ができなくなる。
むず痒くて、お前が俺に触れても触れなくても、ずっと苦しい。
それでもお前が笑う理由が、いつでもいつまでも、俺であればいいと思う。
お前のシアワセの中心にいたい。
これってすごいことだ。
手に入れたら失うだけだからって。
ガマンしなきゃいけないって。
幸せになっちゃいけないって。
ずっとそう、思ってきたのに。
でもいつの間にか、そんなことも飛び越えてしまった。
幸せで良いって。笑ってればいいって、お前が俺に教えてくれたから。
俺たちはそれぞれが、そうして生きていけるから。
握ったカエデの手が、俺の手を握り返してくる。
暖かくて、もったいなくて、俺は指を絡めた。カエデは拒むこともせずに、そのままきゅっと力を込めてくる。
思わず目を閉じた。
いつも悲しくて、俯いていたクリスマスが。
高校からはすごく暖かくて。なんだか俺は無性に、泣きそうになった。
ちらちらと、雪が降りだした。
カエデはそれを見上げてから、「メリークリスマス、琉夏」って笑う。
「メリークリスマス、カエデ」
あぁ神様。
できることなら、俺の手を引いて。
シアワセの彼方に、連れてって。
