YOUTH

1年目7月下旬 期末テスト期間
主人公side


 教室の隅、静まり返った放課後。
 ぱら、ぱらとノートのページをめくる音だけが響いていた。

 ため息が漏れる。
 勉強は嫌いではないけど、好きでもなかった。
 小テストの点数が悪いわけではない。でもじっと座っていると、どんどん悪い想像ばかり浮かんできて、気持ちがふわふわと落ち着かなくなる。



 「いた、いやがった」

 教室のドアが開くと同時に、ガシッと手首を掴まれた。
 見上げた先には琥一君。いつもより少しだけ、眉を寄せている気がした。

 「え、ちょっと……ど、どうしたの?」

 「行くぞ」

 「え、えっ……どこに?」

 有無を言わさず校舎を引っ張られ、気づけば校門の外。
 琥一君の愛車、黒塗りのヤマハSR400がエンジンを唸らせていた。

 手際よくメットをかぶせられ、強引に後ろへ乗せられる。
 不安と戸惑いを抱えたまま、バイクは勢いよく走り出した。

 風が、顔にびゅうと吹きつける。
 思わず琥一君の腰にぎゅっとしがみついた。
 その瞬間、肩が小さく揺れる。笑ってる。──くすぐったい。

 バイクは海沿いの道へ出て、そのまま錆びた看板の前で止まった。《DINER》と書かれた文字が、海風で少し傾いている。
 目につく金具は全部錆が出ていて、外壁も剥がれ落ちてその辺に転がっている。

 「……ここ、なに?」

 「うちだ」

 「え……?」

 半信半疑のまま、琥一君のあとについて中へ入る。
 ふわりと漂ってきたのは、甘い、焼きたての匂い。

 「お、来たなカッちゃん」

 店内の右側、カウンターの向こうで琉夏君がホットケーキを焼いていた。

 「……え、あの……?」

 混乱する僕を横目に、琥一君が革張りのソファに腰を下ろす。

 「日頃の礼だ。食ってけ」

 「俺の好物。ご馳走してあげる」

 「……ありがとう」

 視線を泳がせながら、僕もそっとソファに腰掛ける。
 60年代のアメリカ映画に出てくるような、赤と黒のレトロな装飾。カウンター席とテーブル席に分かれていて、白黒のタイルの床がまさにそんな感じだ。

 「不動産やってる親父の持ち物だ」

 ちらりと見ただけで、琥一君がぶっきらぼうにそう説明してくれた。

 「へぇ……なんか、かっこいい」

 「そーだろ」

 思わず口にしてしまった言葉に、琥一君が少しだけ口元を緩めた。その隙に、カウンターから琉夏君が顔を覗かせる。

 「カッちゃん、何枚食べる?」

 「え、一枚じゃないの?」

 「え?」

 「え」

 見つめ合ったあと、僕たちは同時に口を開いた。
 そのやりとりを聞いていた琥一君が、喉の奥で「ククッ」と笑う。

 「コーラ飲むか?」

 「あ、うん。ありがとう」

 そう言って手渡された缶はキンと冷えていて、手のひらに心地よい。
 琉夏君がフライパンを軽快に操りながら、どんどんホットケーキを焼いていく。気づけば、テーブルには小さな山ができていた。

 僕たちは三人で囲んで、それを頬張った。
 シロップとバターの香りが重なって、幸せな味がする。

 「いつも美味い飯、ありがとよ」

 ふと、琥一君が優しい顔でそう言った。
 その声が、妙に胸に響く。

 「僕こそ、いつもありがとう」

 あたたかい海辺の空気のなか、僕はそっと息を吐いた。
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