YOUTH
3年目11月中旬 文化祭
主人公side
空気がすこしひんやりしていて、でも、日差しはやさしかった。
文化祭の二日目。僕は、歩くだけでいろんな人から「これあげる」「差し入れ」と、やたらと手がふさがっていく昼下がりの校舎内を、一人でのんびり歩いていた。
手には、焼き菓子、からあげ、タピオカ。どれも包装は可愛くて、気持ちが詰まっていて、ありがたいやら申し訳ないやら、複雑な気分になる。やっぱり目立つのかな、とふと考えていたその時だった。
「なにジロジロ見てんだよ」
すぐ隣で低く響く声。琥一が、どこかのクラスの女子に睨みを利かせていた。その前には、僕に話しかけようとしていたらしい数人の女の子たち。気まずそうに目をそらして散っていった。
「……ありがとう」
そう言うと、琥一はむすっとした顔で「あーもう面倒くせぇ」とだけ言って、そのまま歩き去った。どうやら、校門のほうに「文化祭荒らしが来てる」との情報が入ったらしい。
そういえばさっき、女の子たちに囲まれて悲鳴をあげながら逃げていく琉夏の姿も見た。
ふたりとも、まるで嵐みたいにどこかへ去っていった。
気づけば、僕はまた一人になっていた。
それでも、廊下を歩く足取りは、どこか軽い。
ふと、裏庭へ出ると、赤いガウンを羽織った小波さんが、お菓子の入ったかごを抱えて立っていた。
彼女は今日、ローズクイーンに選ばれていた。頭にティアラを乗せた彼女は、きらきらとした光を纏って、まるで絵本の中のヒロインみたいだ。
「ローズクイーン、おめでとう。小波さん」
「ありがとう。ローズキングがあったら、絶対霧島くんだったのにね?」
「クイーンにそんなこと言ってもらえるなんて、光栄だな」
僕らはどちらからともなく笑った。
「その腕の中のは?」
「あぁ。差し入れ。よかったらどれかどう?」
「…青春だね」
ふいにそう言って、小波さんがにこりと笑う。
そして、彼女の抱えていた焼き菓子の山のいちばん上に、リボンで包まれたクッキーをそっと乗せた。
首を傾げた僕に、彼女は「私からも、差し入れ」と上目遣いに見上げる。
「ありがとう」
その瞬間だった。背後から、ばさりと風のように誰かが僕に抱きついてきた。
「わっ……!」
振り返る前に、腕の感触でわかる。
琉夏だ。
「びっくりした……」
「ごめん、つかまってた」
はにかむような声でそう言う琉夏に、僕は腕を緩めながら言った。
「おかえり。これ、よかったら一緒に、食べる?」
「うん、食べる」と即答した琉夏は、僕の隣に立っていた小波さんにちらりと目をやり、少しだけ口元を引き結んだ。
僕は小波さんに向き直って、少しだけ屈んで目線を合わせる。
「小波さんも、一緒に食べるよね?」
僕が首をかしげると、彼女は一瞬驚いたように目を丸くして──それから、嬉しそうに微笑んで、こくりと頷いた。
校舎の裏庭で、焼き菓子を分け合う。当たり前みたいに僕の上に座った琉夏は「あ。」と口を開けて待っている。
「はい」
口の中に、貰ったお菓子をいれてあげると。琉夏は目を細めて「んん」と満足そうな声を上げた。
午後の光が、まるで映画のワンシーンのように差し込んでいた。
これはきっと、彼女が言う通り。
"青春"って呼ばれるものの、ほんのひとしずく。
差し出された甘いもののなかに、確かなときめきがあった。
