YOUTH

3年目10月中旬 食欲の秋
琉夏side


 秋が来た。
 空は乾いて澄んでいて、風は少しだけ北から吹いていた。俺はその風の匂いのなかに、ほんの少しだけ、昔誰かが着ていたセーターの匂いを感じた。

 カエデのばあちゃんちの庭先で、カエデと小さな七輪に炭を起こしていた。
 俺は無言で火をいじりながら、まるでそこに意味があるかのように慎重に炭を並べていく。火は音を立てずにゆっくりと赤くなり始めていた。

 「サンマだよ」

 カエデのばあちゃんが持ってきて、横のテーブルに置く。

 「ありがとう、おばあちゃん」とカエデが言った。

 サンマは、銀色に光っている。脂がのっていて、まだ生温かく、少し前まで海の中で泳いでいたことを思わせた。
 カエデはそのサンマを四尾、丁寧に網の上に置く。ジュッという音がした。

 煙が立ちのぼり、風に流れていく。
 炭火の熱でサンマの皮が少しずつはじけ、脂が滴り落ちる。その脂が炭に触れ、炭が怒ったようにパチパチと音を立てた。
 煙はそのたびに香りを変える。

 「小波さんにプレゼントもらった」

 唐突に、カエデが言う。
 「そっか」って答えたけど、本当は知ってる。
 カエデに何あげたらいいのか相談受けたの、俺だから。
 何がうれしくて自分の好きな人の好きなもの、他人に教えなきゃいけないのか。いくら美奈子でも、ちょっと躊躇したのを覚えている。

 「プレゼント自体は嬉しかったんだけど、でも、なんだかなぁ」

 言葉を濁すその様子に、どこかホッとする。カエデはまだ、アイツのことがそういう意味で好きじゃない。

 「なんだかなぁ、何?」

 「…その、プレゼントをただ受け取るのは、少し心苦しくて」

 「はは、カエデらしいや」

 好意を伝えるには、勇気がいる。そして多くの場合、その勇気はちょっと足りない。

 かく言う俺も、勇気はずっと足りてない。
 誕生日の夜にそれとなく距離を感じてから。最終的な一歩はずっと踏めていない。
 だから俺は、美奈子のその「ちょっと足りない勇気」に、密かに感謝している。我ながら最低だけど、女の子の本気のアタックには、なんだか勝てる気がしない。
 だって俺は男で、カエデもたぶん。男同士で付き合うってことがよくわかってないから。

 「焼けたかな」とカエデが言った。

 俺たちは無言でそれをひっくり返した。
 焼けた面は黄金色で、ところどころ焦げ目がついている。

 「うーん、秋の匂いだな」

 「美味しそうだね…早く食べたい」

 俺達はうんうんと頷きあった。

 「おう、いい色ついてんじゃねぇか」と背後から、コウが顔をのぞかせた。
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