YOUTH
1年目7月上旬 琉夏君の誕生日
主人公side
「カッちゃーん!」
勢いよく開いた教室のドアから、琉夏君の声が響いた。
その瞬間、クラス中の視線が一斉に僕に集まる。
「お弁当ちょーだい!」
「あ……うん。お誕生日おめでとう」
「ありがと」
いつもより大きいのがいい、というリクエストに応えて、体育祭で使った重箱を詰めて持ってきた。
それを見た琥一君も、僕の後ろから身を乗り出してくる。
「俺の分はねぇのか?」
「琥一君の分もあるよ」
彼は「おぉ、あんがとよ」と言って、僕の頭をわしゃっと撫でた。
琉夏君はというと、僕の肩に腕を置いて「じゃ、屋上行こっか」って歩き出す。
二人とも、随分と距離が近くなったものだ。
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昼休みの屋上は、照りつける陽射しを和らげるような風が吹いていた。
グラウンドから聞こえる掛け声と、遠くで鳴く蝉の声。
「そーいやさ、クラスの女子が言ってたんだけど」
もぐもぐと口いっぱいに頬張りながら、琉夏君が口を開く。
「カッちゃん、料理できてすごいねって」
「うん?嬉しいけど…なんで知られてるんだろ」
二人以外に、友達にご飯を作ったことなんてない。
思わず琥一君のほうをちらりと見る。
彼はおにぎりを噛みながら、無関心そうに「知らねぇ」と短く返した。
「それはホラ。こないだ屋上でおかず全部くばってすっからかんになってたでしょ。アレ」
口の端にご飯粒をつけたまま、琉夏君が無邪気に笑った。
「あぁ…あのときか…」
「でもさ、なんでそんな料理うまいの? 好きなの?」
水筒を傾けながら、目を細めて聞いてくる。
「父さんが、料理うまかったんだ。そのお母さん…おばあちゃんが、有名な料理人で、ちょくちょく教えてもらってた」
「へぇ…料理パパか。じゃあ家ではいつもカッちゃんがごはん作るの?」
「前まではそうだったけど、今はおばあちゃんと交互かな」
「へえ〜」
頷いたかと思えば、すぐ唐揚げを頬張っている。
話半分で聞いてるのがわかって、僕は少しだけ苦笑した。
「そっかそっか、」と軽く言いながらも、琉夏君の箸の動きは止まらない。あっという間にお弁当の半分が消えている。
僕は一度、箸を置いた。
「……あのさ」
二人が顔を上げる。
僕の声が、ちょっとだけ真面目だったからだと思う。
「二人は……誰がご飯作ってるの?」
ずっと気になっていたこと。聞いてもいいのか迷ってた。
琥一君は目を逸らして、お茶を一気にあおった。
「俺。」
「ご両親は?」
「親は街のほうにいるよ」
琉夏君が続ける。ごく当たり前のことみたいにそう言って、お茶をぐいっと飲み干す。
琉夏君はきっと食べる専門なんだろう。
いつの間にか重箱は空っぽになっていて。持ってきていたおにぎりも、一つ残らず食べきっていた。
僕は空っぽのそれをひっくり返して、ほんの少し、誇らしい気持ちになる。本当にいつも、とてもきれいに食べてくれる。
「美味しかった。ありがとね」
琉夏君が、柔らかく笑う。
その笑顔に僕は、今日も綺麗な顔ですねって心の中で勝手に合掌した。
「ごちそーさん。今度、ウチ遊びに来い。なんか作るべ」
琥一君もかっこよく笑った。片手を伸ばして、また僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
なんだかいいように使われている気もしなくもないが。
「おいしい」と言われるのは、普通に嬉しい。
ギブアンドテイクだ。僕は「楽しみ」ってうなずいた。
