YOUTH

3年目7月中旬 梅雨の相合傘
琥一side


 ここ数日は妙に湿っぽくて、頭の中までカビが生えそうになる。

 ああ、また雨か。

 そう思った瞬間に、いつもよりも気分がどんよりする。
 傘を忘れたことに気づいたのは、校門を出たあたりだった。
 忘れたっていうか、持ってくる気がなかった。

 「チッ。結構ふってやがんな」

 舌打ちして顔を上げる。目線の先に歩く影を見つけて、無意識に口角が上がった。
 前を歩いてたのは楓だった。
 すらっとしてて、ビニール傘をさしてる。あいつの後ろ姿は、なんていうかいつもピントが合う。

 「おい、入れろ」と言って、俺は強引に楓の傘に入った。
 勝手に、なんて言葉がぴったりだ。

 「……また傘忘れたの?」と楓が言った。

 「うっせ。でかい傘なんだから、ひとりじゃ持て余すだろ」

 楓は少し笑って、傘を傾ける。
 肩がちょっとぶつかる。濡れて冷たかったのが、ほんの少しだけマシになった気がした。

 しばらく黙って歩いてたけど、俺は途中で口を開いた。

 「なあ、楓お前。好きなヤツとか、いんのか?」

 誕生日に楓んちに泊ったルカは、次の日緩み切った顔で帰ってきた。
 隙あらばずっと手を眺めているから、「なんだ気持ち悪ぃ」と声をかけると。
 「カエデに指輪もらったんだ」って見たことないくらい嬉しそうに見せてきた。ガキんころから見てきたルカの、初めて見る顔だった。

 それが何を意味するかわからないはずもなく、俺はどこかそわそわした気持ちで楓に尋ねていた。

 楓は一歩だけ歩を遅らせて、横目で俺を見た。

 「……誰かに聞いてこいって言われたの?」

 その声は、いつもより少し低かった。
 落ち着いてて、でも妙に胸の奥に刺さる感じがした。

 「別にそういんじゃねぇ」

 咄嗟に答えた俺の顔をじっと見て、楓は「琥一は、ほんとに嘘がつけないね」って笑う。

 「なんか意外だなぁ琥一って、そういうのあんまり興味なさそうなのに」

 「俺だってな、他人の恋愛なんざどうでもいいんだよ」

 それがほかでもないお前らだから、気にしてんだろうがって言いかけて、閉口した。
 ルカに余計な事言ったって言われる未来が見えて、視線を逸らす。

 「?言ってることとやってることがあべこべだ」

 楓がそう言って肩を揺らして笑った。

 楓は、男女問わずモテる。
 中性的な顔立ちで、声も滑らかで、背が高くて、何も聞かないくせに、何もかもわかってるような顔をする。
 そんなこいつに惚れる奴はわんさかいて。なのに全然浮いた話が出てこないどころか、女の影もないもんだから。

 もしかしたら琉夏にも、勝算はあるんじゃねぇかと思っちまう。

 「一人くらい、いねぇのかよ」と俺は言った。
 俺の声はいつもこうだ。少し喧嘩腰で、まっすぐすぎる。だから誤解される。でも、言い方なんて選べねえ。

 楓はふわっと笑った。まるで、何かを吹き飛ばすみたいに。

 「僕はいいや。琉夏や琥一がいるし。それで充分」

 「……そうか」

 なんかだか、心臓の裏側を軽く叩かれたような気がした。

 俺はなにも返せなかった。
 それ以上なにを言えばいいのかわからなかった。

 ため息が出る。
 男だ女だっていう問題よりずっと厄介なモノが、ある気がした。

 雨はずっと降り続いてた。駅までの道は、思ったより短かった。
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