YOUTH

3年目7月下旬 期末テスト
主人公side


 7月の終わり。夏休みが本格的に始まる直前の夕方だった。
 蝉の声はまだ賑やかで、けれどどこか疲れたようにも聞こえた。
 まるで一日じゅう鳴き続けて、少しだけ自分に飽きてきたみたいに。

 期末試験の結果が掲示されて、僕の名前は一番上に載っていた。
 白い紙に黒い文字で、淡々と。何の感情も持たずに、ただそう書かれていた。

 僕自身はそれを見て、全身の力が抜けた。
 やっとスタートラインに立った、なんていう安堵と、頑張ってよかった、なんていう単純な達成感に満ちていた。

 それは僕をそばで見てきた二人も同じだったみたいで。

 下駄箱の前で僕を待っていた琉夏と琥一は、袋に入れたアイスティーを3本持っていて、僕を見るなり「カエデ!おめでとう!」と叫んだ。琥一は僕の肩に腕をまわして、「やっぱおめぇはすげぇんだ!」ってセットしていない頭を撫で繰り回した。
 まるで僕が、世界選手権にでも出たかのようなテンションだ。

 アイスティーのボトルは結露で濡れていて、それを一本渡された僕は、「ありがとう、」と笑った。

 僕たちはそのまま、学校の裏の坂道にある公園へ行った。
 いつも誰もいない小さなベンチがひとつだけある場所だ。蝉がしきりに鳴いて、風は湿っている。
 空には入道雲がゆっくりと浮かんでいた。

 琉夏はアイスティーをほんの少し飲んでから、僕を見る。

 「嬉しいんだけどさ、なんか…こう、お前、遠くに行っちゃったみたいだ」

 そう言った琉夏の声は、心の奥にあるものをつまんで差し出すみたいで。嬉しそうなのに、どこか寂しそうだった。
 だから僕は咄嗟に、彼の手を握った。

 彼の手は夏なのに冷えていて、でも少ししっとりしている。

 「だったら、こっちに来てよ」

 僕はそう言った。彼の手を軽く引きながら。

 「一緒に大学へ行こう。遠くなんて、行かないから」

 彼は少し目を見開いて、それから笑った。
 空気が変わったのがわかった。

 琉夏は少し間をおいて、「どうしようかな」なんて言う。
 でもなんだかその声はもう答えが出てる声だった。
 琥一の方を振り返る。

 「琥一もどう?」

 どこか挑戦的になってしまったのは、彼の心を試したかったからかもしれなかった。
 今の彼なら、きっと。

 「行かねぇよ」

 ぶっきらぼうに、琥一が答えた。
 思わず上がってしまう口角と、それをみて眉をひくつかせる琥一。その目が、「わかってんのに聞くな」って言っているみたいで。

 「そっか」

 にやにやしながら頷いた僕に、琥一は僕のほっぺたをつまんだ。
 ぐにぐにと揉んでから「俺は卒業したらやることがあんだよ」って言う。

 「いたいよ…こーいち」

 「バカ。コウ。離せ」

 琉夏が僕の背後から琥一の手を払った。

 その瞬間、僕たちの間の距離が少しだけ縮んだ気がした。

 風が木の枝を揺らし、葉の影が彼の頬に映っていた。蝉が鳴き続けていた。
 夏はまだ、僕たちの上に留まっていた。
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