YOUTH
3年目6月上旬 体育祭
琉夏side
午後の空は、やけに青かった。
太陽は高く、風もなく、トラックの白線だけが頼りない線を引いていた。
借り物競走の順番が来て、丸まった手から一枚の紙を引き抜く。
その文字を目にしたとたん、頭より先に、体が動いていた。
「っ……!」
叫び声が喉に引っかかる。
風を切る音と、自分の心臓の音しか聞こえない。
ゴール地点なんか見てなかった。
俺が向かっていたのは、クラスメイトの輪の中──
「カエデ!!」
名前を叫んだ。
カエデが驚いた顔で、こっちを向いた。
大きな目がぱちくりして、それでも俺が止まらずに突っ込んでくるもんだから、「えっ、ちょ……」とか言う間もなく。
俺は腕を伸ばして、その手をがしっと掴んだ。
「え、えぇっ!?」
混乱してるカエデの声を背後に、俺はそのまま引っ張った。
けど──こいつ、足、めちゃくちゃ速い。
引っ張ったはずが、気づいたら横に並んでいた。
二人並んで、グラウンドを駆け抜ける。
耳元を風が切る音。歓声と太鼓の音が、遠くから押し寄せてくる。
足がもつれそうになるほど全速力だったのに、カエデの足音は、俺とぴたりと重なっていた。
そして、ふたり同時に、テープを切った。
拍手と歓声。
先生のホイッスルが鳴って、周りがわっと沸いた。
「はー……っ、はっ……な、なんだったの……」
息を切らして肩で呼吸しながら、カエデがこっちを見る。
額にかかった髪の隙間から、汗の粒がひとつ流れた。顔がほんのり赤くなってて、今にも怒られそうな気配。
俺はにやっと笑って、握りしめていたお題の紙をぴらっと見せた。
"好きな人"
カエデの目が、くるんとまあるく見開かれる。
数秒の間があって──
「……ははっ!」
吹き出した。
笑った。
目尻がくしゃっとして、声をあげて笑ってくれた。
その笑顔を見た瞬間、俺の中でぐちゃぐちゃに混ざってた感情が、まるごと許されたような気がした。
誰がどう思おうと、いま一番、カエデを連れてゴールしたかった。
ただそれだけだった。
「……なんだそりゃ」
背後から、やれやれって顔の声が落ちた。
振り返ると、真後ろにコウが立っている。
「見てた?俺らのラブパワー」
「何がラブパワーだ。また女どもがギャーギャーうるせぇぞ。まとめて俺までネタにされんだからな」
口調のわりに、全然嫌そうじゃないのが面白い。コウって本当、わかりやすい。
カエデはまだ笑っていて「琉夏の女子避けに使われちゃった」とか言っている。全然違うけど、まぁ楽しそうだからよしとしよう。
コウはカエデの肩を組んで、「てめぇは俺と二人三脚にでも出やがれ」って連れて行く。
俺は二人の背中を眺めながら、手の中の紙をポケットに入れた。
