YOUTH

1年目11月下旬 コンビニの不良たち
主人公side


 11月の空は、何かを隠しているように静かだった。
 雲は低く垂れこめて、光はどこかくすんでいたけれど、風はそれなりに澄んでいた。
 冷たい風だった。息を吐くと白くなって、それがすぐに空に消えていった。

 僕たちはコンビニの前にいた。
 コンビニで買った肉まんをそれぞれ片手に持ち、ひと口ずつかじっては黙って空を見たり、コンビニを出入りするお客さんを眺めたりしていた。

 琉夏君が「寒いときに熱いものって染みるね」と言って口元を押さえ、琥一君が「おでんも食うか」と笑った。
 僕はその様子を見ながら、白い肉まんから立ち上る湯気をぼんやりと見ていた。

 そのときだった。

 「おい桜井兄弟じゃねぇか?」

 振り向くと、見覚えのある二人組が立っていた。
 学ランの袖が少しほつれていて、髪は校則からは明らかに逸脱している。
 余多門高校の生徒だ。このあたりではあまり評判のよろしくない学校だった。
 街中でのトラブルの話には、だいたい彼らの名前が出てくる。

 僕は夏休みの間に、彼らに一度たかられて殴られている。
 あれは結構痛かったな、と思い出せもしない痛みに眉を顰めた。

 「見てわかんねぇ?今オフなんだよ」

 琉夏君が低い声で言った。

 余多門の彼らは、僕たちのことをしばらく無言で見ていた。
 そして、黒髪の方が僕の顔をじっと覗き込んできた。

 「……お前、会ったことあるか?」

 僕は特に間を置かずに、「ありません」と答えた。
 それはほとんど反射みたいなもので。たいしてその後のことを考えずに出た言葉だった。

 「おい、アイツだ。雑誌に載ってた高校生料理人だろ」

 「あぁ、顔見知りじゃねぇか!俺等!」

 片方の手が、僕の肩のあたりに伸びかけた瞬間だった。

 琉夏君と琥一君が、その手を払いのけた。
 動きは早くて、呼吸する隙もなかった。まるで最初からそうするように決めていたみたいだった。

 じり、と二人対二人みたいな緊迫感が場を満たした。
 僕は二人の手を掴む。
 だめだ。喧嘩になれば、キリがない。
 二人は負けない。負けないからこそ、終わりはない。

 「……ず」

 僕の掠れた声に、二人が振り返った。
 鋭い瞳に若干気圧されながら、それでも僕は振り絞る。

 「ずらかるぞ、こら」

 「……ぷっ」
 「…くくっ」

 また笑われてしまった。
 瞬きの後、ふわっと体が浮いた。琥一君に抱え上げられたのだと知った瞬間、恐怖でしがみつく。
 二人はこらえきれないという風に、大きな声で笑いだした。

 後ろで余多門の二人が、何か言っているのが聞こえた。
 でも二人の足は止まらない。

 しばらく走ったところで、ようやく僕は地面に降ろされた。
 見上げた二人の顔が、ほんの少しだけ曇っている。
 たぶん、迷っている。また二人は『こっち側、、、に巻き込めない』とでも思っているんだろう。

 「妙なことを考えたらやだよ」

 子供みたいな声になったのが、自分でもわかった。

 「あんなのに乗っかっちゃだめだよ。僕ら、ここに戻ってくるまで、時間かかったんだから。あんなのに、僕らの楽しい高校生活を邪魔させちゃいけない」

 三人の間に風が吹き抜けていった。
 二人は少し面食らった顔で、僕をまじまじと覗き込んでいる。

 「……カッちゃんさ、言っててすげー恥ずかしくならない?ドラマのセリフみたいだよ」

 「ククッ。かっこいいなぁ、オイ」

 「悪かったね」

 僕は言った。
 「でも、まあ……」と琉夏君が苦笑する。

 「妙なこと考えるのはやめとくよ。あいつら、風邪ひけばいいのにな」

 「そうだよ。インフルエンザにでもかかればいいんだ」

 しょうもないことを言い合いながら、僕らは歩き出した。
 三人とも、どこか少しだけホッとしたような顔をしていた。
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