YOUTH
1年目9月上旬 喧嘩っ早い二人
主人公side
ゲームセンターに窓はなく、空気は乾いていて、ずっと昔から続いているような電子音と、定期的に弾けるメダルの音、それから誰かの小さな叫び声が混ざり合っていた。
琥一君と琉夏君は、ピンボールに夢中だ。
ふたりとも並んで別々の台に座り、黙々とバンパーを弾いては、記録更新の電子音に無言でガッツポーズを交わしている。
彼らにとってはたぶん、人生の一部くらいの重要さがあるのだと思う。
僕も並んで挑戦したが、ピンボールどころかゲームセンターにも初めて来た僕には、土台無理な話だったらしい。
二人を眺め始めて、30分が経とうとしていた。
僕は少し手持ち無沙汰に、センターの奥をぶらぶらと歩いた。
UFOキャッチャーのアームがぬいぐるみをわずかに持ち上げては落とすのを眺め、レトロなシューティングゲームの画面がチカチカ光るのをぼんやりと見ていた。
そのときだった。
肩をトンと叩かれて、振り向くと知らない男が立っていた。
歳は僕とそう変わらない。けれど、目の奥に少しだけ余計な光があった。
「お金、貸してくんない?」
声は小さくて、どこか馴れ馴れしい。
「嫌です」
僕ははっきりと、なるべく静かに、けれど誤解の余地がないように答えた。
男は少しだけ笑って、もう一歩近づいた。
「いや、そんなに大金じゃないって。1000円でいいから。貸してくれてもよくない?」
「貸しません」
僕はそれ以上何も説明しない。
理由を言い始めると、相手はたいていその隙間に入り込もうとする。だから言葉は最小限にしたほうがいい。
「チッ。こっちが下手に出てりゃ」
彼が何かを言いかけたときだった。
ドン、という鈍い音がして、男の体が前に揺れた。
琥一君が、後ろから蹴りを入れていた。
遅れて琉夏君も現れ、同じように男の腰を蹴り上げる。
「てめえ、何してんだ」
「物乞いすんなら他所でやれよ」
二人の声は低い。なんというか有無を言わせない迫力がある。
男は何か文句を言おうとしたけれど、彼らの目を見て黙った。
しばらく睨み合ったあと、彼は舌打ちしてゲームセンターの出口のほうへと消えていった。
「…助けてくれてありがとう…でも、知らない人を蹴ったらだめだよ」
僕は、できるだけ冷静な声で言った。
琥一君は少し目を丸くしてから、肩をすくめた。
「知ってる奴だったらいいってことか?」
「揚げ足取らないでよ…」
僕はため息まじりに答えた。
琉夏君は僕を覗き込んで「でもさ、ヒーローは悪い奴をやっつけるんだ。そうだろ?」って無邪気な笑顔で言う。
「そうだけど、暴力はやめてほしいな?ほら、当たったら痛いし、殴ったほうも手怪我するじゃん」
「んなんが怖くて喧嘩なんかできるか」
「なんかカッちゃん、人と喧嘩したことなさそう」
「な…なんだとう…僕だって、やろうと思えば…」
明らかな嘘だった。
二人はそれを察したのか、吹き出して横を向いて笑っている。
いたたまれなくなって、僕は二人の手を引いてゲームセンターを出た。
「そんなに言うなら、ボーリングで勝負だ!!!」
僕の言葉に二人は鋭い目で、ぎらりと笑った。
その瞬間、僕はその選択が間違いだったことを知る。
「言うじゃねぇか。泣いても知らねぇぞ」
「カッちゃん、負けた人がジュースおごりね」
「なんで僕に言うのさ…」
二人は口をそろえて「そりゃあ、負けるのはカッちゃんだからだ」と言った。
