YOUTH
1年目7月下旬 兄貴
主人公side
夏の日差しはまるで焼けた鉄板みたいに重たくて、じりじりと肌を焦がしていた。
体育の時間。今日は持久走だ。
走るのは嫌いじゃない。けど、圧倒的に体力が足りない。一番にゴールしながらも、喉から肺にかけてキリキリと痛みが走る。
呼吸が浅くて、胸の奥が妙に苦しい。
「キリシマー。他のやつが終わるまで休んでていーぞー、水飲んでこーい!」
先生の声を背に、僕は校庭の隅にある水飲み場へとふらふら歩いた。蛇口をひねって、頭から水を浴びる。
冷たいはずの水が、熱を持った身体に瞬間だけ沁みて、すぐに蒸発していくようだった。
おかしい。
どれだけ呼吸しても、肺が満たされない。
視界の端がちらちらと白んでいく。耳鳴りがして、蝉の声が遠のいていった。
膝がぐらりと揺れて、僕は水飲み場の影にしゃがみ込む。額を抱えて、ひっそりと唇を噛んだ。
情けない。
高校に入っておばあちゃんと住み始めるまで、ろくに食べなかったせいで体が弱い。すぐ貧血になってしまう。
気持ち悪い…
「チッ。やっぱりか」って上から琥一君の声が降ってきた。
じゃりって砂を踏む音がして、今度はすぐそばから「おい」って声がする。
弾かれた様に顔を上げると、心配そうにのぞき込む琥一君と目が合った。
「……大丈夫か?」
その顔に、焦りと、わずかな苛立ちと、思いがけないほどの優しさが滲んでいる。
「あ……琥一君……」
心底緩んだ声が漏れる。
琥一君はぐっと言葉を飲み込んだみたいな顔をした。
「おう、もう大丈夫だ」
彼はふわりと笑った。
「お前、体力ねぇのに飛ばしすぎだろ」
そう言いながら琥一君は僕に背を向けて、すっとしゃがみ直した。
「乗れ」
「え?」
何のことか分からず、思わず眉を顰める。
「早くしろ。保健室行くべ」
いつもの少し不機嫌そうな声色が、今日はなぜだか心地いい。
「自分で歩けるよ……」と口では言ってみたけど、足は思ったよりずっとふらついていた。
視線を上げると、琥一君が肩越しにもう一度振り返った。
「乗れ」
今度は困ったような、あきれたような──でもやっぱり、優しい声だった。
腕を伸ばして、大きな背中にしがみつく。ゆっくり上がる視界に、怖くて腕に力を込めた。
「あんま揺れるとお前吐くだろ」
柔らかな低い声に、感心を通り越してぎょっとしてしまう。
「琥一君て、誰にでもそんな優しいの?」
「あ?」
「兄貴ムーブすごくて、弟分がたくさんいそう…」
冗談めかして口にしたのに、「ルカで手一杯だ」って存外真面目な返答。
「でもまぁ、お前みてぇな弟なら、悪くねぇな」
どこか少し嬉しそうな声でそんなことを言うから。
僕は思わず「それは嫌だ」って笑ってしまう。
「だって君と僕は、友達だからね」
琥一君は肩をすくめて、ため息を吐いた。
「どっちかってっと俺は、お前に面倒見てもらってると思ってるけどな」
「あんなのはただの日ごろのお礼だよ。気にしなくていい」
口を尖らせて、広い肩にそっと顎を乗せた。揺れるピアスが頬に触れて、くすぐったい。
「僕には、あれくらいしか……返せるものがないからね」
「何いってんだバカエデ」
低い掠れた声が、吐息を滲ませて落ちる。それは誰にも聞かせたくないみたいな、ほんの少し寂しそうな響きだった。
