YOUTH

3年目5月上旬 洗剤と、太陽の匂い
小波美奈子(バンビ)side


 二人からは、いつも太陽の匂いがした。
 たとえば、よく乾いたシャツを畳むときにふわりと立ち上がる、あの感じ。
 それは柔らかな洗剤の香りと、午後の光を吸い込んだ布のあいだにある、目には見えないけれど確かに存在する匂い。

 二人のそばを通り過ぎると、一瞬だけ空気が変わる。
 風が通り抜けたあとの草原のような、あの奇妙な透明感。
 それは香水のように主張するものじゃない。むしろ逆で、静かに後を引く。気づけば、少しだけ深呼吸をしたくなる。

 あるとき無性に気になって、聞いてみた。

 「二人とも制汗剤とかつけてる?」

 そしたら二人とも、声をそろえて「つけねぇ、そんなの」って。
 いつもの調子だった。ふざけているようで、でもちゃんと本音を言ってる。そういう声。

 いつもの調子で笑い飛ばしながら「え、俺らなんかにおいする?」って、今度は逆に聞かれて。

 「ううん。すごくいい匂い。洗剤みたいな、おひさまみたいな匂いがする」

 二人は顔を見合わせて、なぜかすごく嬉しそうに笑った。
 それこそ、子供の頃に秘密基地を作って、誰にも言えないことを共有してた、あの感じにちょっと似てた。

 「なんで笑うの?」

 「いやね、俺ら今、カエデの家で、週2で飯食わせてもらっててさ」

 琉夏くんの言葉に、琥一くんもうなずいた。

 「楓のばあちゃんに言われて、洗濯もさせてもらってんだ」

 「だからこれは、カエデんちの匂いだな」

 なんでそれが、そんなに嬉しいんだろう。
 こっちまであったかくなるような笑顔に、なんにも言えなかった。

 二人の言う楓くんは二人の親友で、琥一くんとは三年間同じクラスの男の子。
 私から見れば”あの二人に振り回される不憫な人”って思ってたけど、最近はなんだか、彼自身の輪郭がはっきりしてきたような感じがする。

 背もぐっと伸びて、目にかかっていた髪もセットされている。
 料理の才能もすごくて、雑誌で彼の実祖母と取り上げられているのを見かけたときにはちょっと驚いた。「ばあちゃん」って言ってたの、きっとあの実祖母のことなんだろうな。

 三人で並んで歩く姿は、遠くから見たらちょっとしたドラマのワンシーンみたいで。

 「カエデ、今日のお弁当、なに?」

 「琉夏の好きな唐揚げだよ。牛丼のおかずも持ってきてるから、好きな方食べて。」

 「牛肉は俺だろ」

 「はいはい」

 なんだか琥一くんも、彼の前だとあんまりお兄ちゃんムーブがない気がする。三人はやいやい言いながら、屋上に向かう階段を上がっていった。

 ──そういえば。
 昔はよく、教会のそばで一緒に遊んだっけ。
 泥んこになって、かくれんぼして、三人でしかられて。
 あの頃は二人ともやんちゃで、揃えば喧嘩ばかりしてたのに。

 今もやんちゃなのは変わらないけど、洗剤の匂いのする男の子たちになって。
 私の知らない日々の中で、ちょっとずつ、ちゃんと大人になっていってる。

 なんだろう。
 ちょっとだけ、さみしくて。
 でも嬉しい気持ちで。

 「ねぇ、私も一緒に霧島くんと遊びたい」

 追いかけてそう声をかけると、驚いた顔をした彼は次の瞬間にふわりと笑って。

 「もちろん。じゃあまずはお昼一緒に食べない?」

 彼からは、二人と同じ、太陽の匂いがした。
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