YOUTH
1年目6月下旬 超ド級のお人よし
琉夏side
「今日は油淋鶏だよ」
そう言ってカッちゃんがトートバッグから弁当箱を覗かせた。
昼休みになってバタバタ生徒が行き交う屋上前の昇降口で、彼は俺を待っていた。カッちゃんと同じクラスのコウは、すでにその横で腕を組んで手すりにもたれてて。
「おせーよルカ」
「悪ぃ。大迫ちゃんに捕まってた」
カッちゃんは超ド級のお人よしだ。
入学早々、行き倒れていたところを助けられた。屋上チャレンジ未遂以来、たいして知りもしない俺とコウに頻繁にお弁当を作り始めた。
コウは誕生日に、お弁当とケーキを差し入れされ、「物好きだな」って若干引いていた。
俺も頼んだ手前心苦しいが、本当にあんな風に用意されるとは思ってなくて、正直若干反応に困った。
引っ越してきたカッちゃんは知らないと思うけど。
ピアスの桜井兄弟はこの辺じゃ顔だ。全然知らないやつでも、ある程度俺らのことは聞いたことあるやつばっかりで。
俺ら兄弟と並ぶのは、男だろうとかなり勇気がいるらしい。噂もされるから気にするやつが多い。
なのにカッちゃんがいつも気にするのは、「ちゃんと食べてる?」とか、「味付けが濃いかも」とか、そんなことばっかりだ。
なんて言うか、彼にはそういうところがある。
遠くに海が見える。
日当たりのいい公園みたいなこの屋上は、晴れた昼休みには弁当や購買のパンを持った生徒が集まって、ちょっとしたピクニックみたいになる。
俺たちは頻繁に、ここで彼が作ってくれる弁当を一緒に食べた。
食費が危うくなると、カッちゃんはどこから聞きつけたのかおかずを多めに持ってきたり、焼いたパンを差し入れしてくれたりする。
泣けてくるほどありがたい。
ありがたいけど、さすがの俺も時々後ろめたくなる。
なんだかお人よしの彼につけ込んでいるような気がしないでもない。
俺だけじゃない。
カッちゃんのお弁当は屋上の常連の間では結構評判で。たまたま俺が屋上に着くのが遅れたりすると、彼はピラニアのように群がる生徒たちにお弁当をお裾分けして、自分は一口も食べれずじまいなんてことも以前あった。
こんなことで、超ド級のお人よしはこのタフな世の中を渡っていけるんだろうか。
そんなお節介とちょっとした好奇心から、彼に少し意地悪をしてみることにした。
まず、お弁当箱の最後に1本だけ残ったエビフライだ。
「エビフライ、もう1本食べていい?」
「もちろん」
これくらいは問題なし。次。
カッちゃんが今まさにかじろうとしたおにぎりをねだってみる。
「そのおにぎり、ちょうだい?」
「これ?」
彼は少し不思議そうに、食べかけのおにぎりと俺の顔を交互に見比べてから、にっこり笑っていった。
「もちろん。食べかけでよければ」
全く問題なし。怒り出す気配もない。
「じゃあさ、このお弁当全部もらっていい?」
だからついムキになってそんな風に言ってみた。
「これ全部?」
驚いたように俺を見つめると、「もちろん」って頷いてからカッちゃんは急に眉を寄せていった。
「ごめん。もっと作ってくればよかったかな」
彼は俺の腹の減り具合の心配をしていた。
俺はなんだか泣きたいような笑いたいような気持ちで、それ以上、何も言えなくなった。
彼にはそういうところもある。
そんなだから、俺は出会ってまだ2か月のカッちゃんのことが、結構好きだ。
なんというか、特別扱いしてしまう。
やりとりを見ていたコウが、やれやれって感じでバカでかいため息を吐いた。俺のいたずらが空振りに終わって、呆れているんだろう。
「バカエデ。全部渡すやつがあるか」
「?別にいいよ。このくらい。たくさん作ったから、家にまだ残りあるし」
「そういう問題じゃねぇよ」
そんなコウだって、カッちゃんのことは特別めにかけている。
こないだなんて、寝坊して貧血になっていたカッちゃんを、無理やりバイクに乗せて登校した。
あの美奈子でさえ「2人乗りだ」って通り過ぎたくせに、具合の悪そうなカッちゃんをいち早く見つけ、なんの躊躇もなく助けた。
「バカルカ。コイツにくだらねぇことすんな」
最後のおにぎりを食べながら、コウが言った。
俺は「はぁい」ってやる気のない返事をしてから、カッちゃんを見る。彼は俺の視線を勘違いして、はいはいわかってますよ、みたいなしたり顔で頷いた。
「明日は何がいい?鶏もも肉安かったから、買ってあるんだけど」
じわ、と古い暖かさが胸を満たす。
咄嗟に笑って「カッちゃんが好きなものがいい」って答えると、カッちゃんは「えぇ。じゃあ唐揚げだ」って笑った。
