YOUTH
1年目3月下旬 君の孤独
主人公side
春が来た。君と出会った春だ。
門の前の桜が、まるで何かを見届けるように咲いていた。
風が吹くたびに花びらがふわりと浮かび、空の淡い青に溶けていく。
その前で、琉夏君が立ち止まった。
少し眩しそうに、けれどまっすぐに枝先を見上げていた。
「桜ってさ……もう会えない人のこと、思い出させる。なんでだろうな」
ぽつりと、独り言のようにこぼした声。
それが胸の奥に、小石のように落ちた。
「……出会いの季節だからじゃない?」
僕はそう答えた。自分でも、なんでそんな言葉が出たのかわからなかった。
琉夏君は首を傾げて、「ん? なんかややこしいけど、そういうことか?」と笑う。
「……オマエと出会ったのも、春だった」
その言葉に、僕は少しだけ肩が緩んだ気がした。
「うん。僕にとっては、春は出会いの季節だよ」
すると彼は目を細めて、再び桜を見上げた。
「……俺は、どうしても”さよなら”だけが出てくる。出会えば最後、絶対に終わりはやってくるから」
その言葉には、悲しみというよりも静かな確信があった。
過去の記憶に焼きついた何かが、そこに宿っている気がした。
「ほかでもない俺も、自分の終わりを待ってる」
風が吹いた。桜の花が舞った。
その淡い花びらが、彼の金髪の間にひとひら落ちて、すぐまた風にさらわれた。
「そんなこと…」
返す言葉が見つからない僕に、彼が振り返った。
「いつ終わってもいいんだ。桜が咲いても、セミが鳴いても。葉が色づいても、雪が降っても。俺はいつでも、いなかったことにできる」
”さよならだけが人生ならば、次に来る春はなんだろう”
孤独を風景のように受け入れた人の声が、琉夏君の輪郭と重なった。
咄嗟に、彼の手を握る。
大きな固い手のひらは、少しも握り返してこない。
「…なんてな、ちょっと詩的になっちゃった?俺」
おどけたみたいに、琉夏君が笑う。苦しくて、何も言えない自分が悔しくて。思わず手に力を込めた。
視線を落として琉夏君は、僕の手を見る。それからふっと笑って、きゅっと握り返した。
「琉夏君」
「うん?」
「君が消えてしまったら、僕はきっと息ができなくなる」
小さく、そう呟いた。
琉夏君は「空気か、俺」って笑う。
彼の目の奥の氷みたいな部分が、ほんの少しだけ、ゆるんだような気がした。
「そう。空気だ」
それがなくては、生きていけない。
風の中で桜が舞う。僕たちはその下に並んで立っていた。
