YOUTH
2年目2月中旬 バレンタインデー
主人公side
昼休みのチャイムが鳴ってすぐ、僕はリュックからお弁当と小さなチョコレートの箱を取り出して、日なたに出ようと廊下へ足を運ぶ。
「よう」
「カエデみーつけた」
振り返ると、琥一と、松葉杖をついて肩を吊ったまま笑っている琉夏が揃って立っていた。ふたりとも、なぜかそわそわしている。琉夏の足元のつま先は落ち着かなくて、琥一は鼻の頭をやたら掻いていた。
「今日はどこで食べる?」
「裏庭。ちょっとあったかくなってきたし、今日は天気もいいよ」
そう言って先に歩き出すと、ふたりの足音がぎこちなく続いてくる。
裏庭には小さなベンチと、柔らかい芝生。光に透けた枝の間からこぼれる日差しが、まだ冷たい風の中に春の気配を混ぜていた。
弁当の包みを広げて、三人並んで食べる。
食べ終わっても、ふたりはずっとそわそわ。僕の隣に置いてあるチョコレートのケースにちらちら視線を送っている。まるで、おやつを待っている大型犬がしっぽを振ってるようで、思わず口元が緩んだ。
「……チョコレートです」
そう言って箱をふたりに差し出すと、琉夏がにっこりして、「ありがとう」と言いながら──何のためらいもなく僕のおでこに口づけた。
「っ……」
分かっていたはずなのに、心臓が一瞬跳ね上がる。
琉夏のこれに、いちいち反応するのもなんだか負けた気がして、僕は無表情で肩を押し返した。
「はいはい」
その瞬間、琉夏の表情がふてくされたように曇る。
「なにその反応……」
ぽそりと呟いたかと思うと、ふいに、かぷっと僕のほっぺに噛みついた。
「いっ!」
思わず頬を押さえて琉夏を見ると、ほんの少し唇を尖らせて拗ねたような顔の彼が、じっと僕を見つめていた。困ってる、というより、かまってほしい子供の顔。
「琥一! 琉夏が……」
訴えるように助けを求めると、琥一は笑いを噛み殺したように口角を上げて、肩をすくめた。
「いいじゃねぇか。減るモンじゃねぇし」
前までは琉夏に、「男同士でやめろ」って言っていたはずなのに。最近はそれどころか、たまに琉夏に乗じて彼も悪ふざけをするようになってきている。
「減ります。尊厳が」
「減らねぇ。そんなもんで減るような尊厳じゃねぇだろ」
「えぇ…」
あたたかい陽だまりの中で、三人の時間がやわらかく流れていく。
手のひらから伝わる体温と、差し出した小さなチョコの甘さが、じわじわと胸に沁みてくるバレンタインのお昼だった。
