YOUTH
2年目1月下旬 君が怒ってくれるから
琉夏side
松葉杖をついて、肩から吊った腕の痛みに耐えながら歩く。病院からのシャトルバスに乗る瞬間も、痛みで声が漏れた。
「キリキリ歩け、不死身のヒーロー」ってコウが笑った。
制服に着替えて登校した俺らを見たほかの奴らは、なにかを察した顔で遠巻きに噂した。
教室でぼうっと外を眺める。さぼり癖があった俺とコウが、こんな怪我してまで出席するなんて、我ながらかなり丸くなったなぁ、なんて思いながら。
そしてそれは唐突に。
だん、と教室の扉を乱暴に開け放った音に、俺はゆっくり視線を向ける。
「なんで!!退院してんだよ!!!」
コウと俺を混ぜて二で割ったみたいな口調のカエデが、顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。唖然とする同級生たち。
そうだよな。学校のカエデはいつも人好きのする笑みを浮かべて乱暴な言葉は使わない。
かくいう俺も、こんな様子のカエデは初めて見た。
「カエデ。おはよう」
「おはよう……じゃなくて!!数日は病院にいるって話だったじゃんか!!」
ひょこひょこと足を引きずって顔をだしたコウが、「おい、すんげぇ怒ってんぞ」って笑った。俺もつられて笑う。
「だって。学校来たくって」
「だってじゃない!!琥一も!!兄弟だろう!?止めろよ!!」
「俺の言うことなんか聞かねぇ、こいつは」
「ばか!!!」
コウに近づいたカエデは、ぐっと握ったこぶしをぴた、とコウの頬に当てた。
ふっと笑ったコウが「なんだおい。もっと力こめろ」って笑う。
「琉夏も!!言うこと聞け!!!」
今度は俺に近づいて、開いた手のひらで俺の頬に触れて、すぐに離れた。
それがカエデなりの平手打ちだったんだとわかって、俺は吹き出した。
「俺、怪我人だよ、カエデ。いたわって」
「ばか…ばかるか」
「ついにカエデにも言われちゃった」
自分で言って、なんだかこそばゆくなる。
けど真剣な怒り方が妙にうれしくて、笑いが止まらなかった。
笑い続ける俺たちを見て、楓はむぅっと頬を膨らませた。
「あの病室で寝てるとさ…」
そう口にしかけて、でもやめる。
言葉にすればきっと、カエデはもっと泣くだろうから。
「…カエデに会いたかったんだよ、俺は」
ふと、静かになった教室のなかでそう言うと、さっきまで怒鳴ってた楓が、目をまるくして黙った。
「寝てるより、オマエに会いたいと思ったよ」
「……うん」
「オマエがいると、“帰る場所”って感じがすんだ」
不意に、カエデが目を伏せた。
目のフチが赤い。泣くのを必死でこらえてるのがわかって、俺はそっと笑って口を閉じる。
カエデは深いため息を吐いてから、また大きく息を吸い込んだ。
「じゃあ僕の帰る場所に、治るまで君らも帰るんだ」
「「…あ?」」
コウと被った。
カエデは目元だけで笑って、据わった目で俺とコウを見る。
ぞっと何か嫌な予感がした。
「ふたりとも怪我してんだから、しばらくはうちに来て。」
「なんで俺らがお前んちに行」
「なんか言ったか?琥一」
口調の変わったカエデに、俺達は閉口した。
「………」
「来るよな?琉夏。君は特にだ」
「……はい」
「よし」
カエデの声が、やっと少しだけ本当に笑った。
「でもなんだか思ったより元気そうでホッとしたよ」
「まあね。不死身のヒーローだから」
白い手が、優しく俺の頭を撫でる。それが嬉しくて俺はやっぱり、学校に来てよかったなと思う。
たとえこの足がうまく動かなくても、カエデがそこにいてくれるなら、どこへだって行ける気がした。
でも怒っているカエデは怖くて、やっぱり俺たちは、カエデを怒らせちゃいけないって二人で話し合った。
