YOUTH
2年目10月下旬 じゃれあい
主人公side
午後の図書準備室は、しんと静かだった。
たまに聞こえてくる部活動にいそしむ生徒の声と、野球部のバッドの音が、どこか遠くの世界のように思えた。
「最近勉強ばっかだね。もう少し構ってほしいなぁ?」
そう言いながら琉夏が椅子を引いて、僕の隣に座る。
椅子の背に背中を預けたかと思うと、すぐにそのまま頭を傾けて、僕の腿の上に、ぽすんとおさまった。
「…猫みたいだね」
苦笑混じりに言うと、目を閉じた琉夏が「うん、カエデの膝枕、ちょうどいい」って、鼻先を押しつけてきた。
この琉夏の距離の近さも、慣れてしまった。
これは彼なりの、人との距離の測り方なのかもしれない。
ふいに肩を寄せてきたり、からかうような低い声で、僕の反応をうかがうように冗談を言ったり。
そのたびに僕の胸はきゅうっとなって、どうしようもなく、くすぐったい。
だから僕も、甘やかすように頭を撫でる。
左手の指先で、彼の髪をかき分けるようにして、耳の後ろをなぞった。
つけっぱなしの、細いバーのピアスが指に触れた。
冷たい金属の感触にひどく現実味があって、そっと撫でるように辿っていく。
耳の輪郭、繊細に縁取られた形、触れるたびにぴくぴくと震える琉夏の反応が、なんだか可愛い。
「ん…っ」
不意に漏れた吐息。
驚いて視線を落とすと、琉夏が顔を僕のお腹にぎゅっと押しつけていた。
耳まで、ほんのり赤い。
「……どうしたの」
囁くように言いながら、もう一度その耳に触れた。
今度は顎のラインをなぞるように、そっと撫でる。
「……ふっ」
音のない吐息が、彼の唇から洩れる。
いつも冗談ばかり言うくせに、こうして素直な反応を見せると、何かが暴れ出しそうになる。
ふと気づくと、琉夏の手が僕のシャツをぎゅっと握っていた。
その指先が、強く震えている。
「…琉夏?」
そう呼ぶと、彼の肩がぴくっと跳ねた。
横目で僕を見るその瞳は、熱に浮かされたみたいにとろけていて。
「は……気持ちい……お前の手……」
ゆっくり瞬きをするその声に、擦れた甘さが滲んでいた。
思わず手を引いて、口元を隠す。
どっと顔に熱が集まって、背中のあたりがぞわぞわと痒くなるような感覚。
自分の耳まで赤くなっているんじゃないかって思うと、なんだかもう、まともに彼の顔を見られなかった。
それでも琉夏はまゆ尻を下げて、少し名残惜しそうな目で僕を見上げた。
指を伸ばして、また僕の手を自分の髪の上に戻してくる。
「……もっとして?」
そんなふうに甘えるなんて、反則だと思った。
喉を鳴らす猫みたいに、目元を緩めて、静かにじゃれるような声。
ぐっと喉が詰まる。
「……仕方ないなぁ」
そう言うと、琉夏は嬉しそうに小さく笑って、また僕のお腹に鼻先を押しつけた。
こめかみのあたりに触れた彼の髪は、今日も陽射しの匂いがした。
静かだった。
世界に音がないみたいだった。
僕は右手でペンを動かしながら、左手で彼の髪をそっと撫でつづける。
たったそれだけの動作なのに、胸の奥がぽかぽかして、全身にまで広がっていく。
視界の端で、横向きになって重なってる琉夏の足先が、すり、と何度もゆっくり擦り合わせていた。
眠たいのか、それとも安心しているのか──
ページをめくる手元に、ふっと笑みがこぼれる。
無防備な君を、こんなふうに独り占めできるこの時間が、たまらなく心地よかった。
静かに、静かに、幸せが滲んでいく午後だった。
