YOUTH

2年目10月中旬 同じ景色
琉夏side


 あれ、と思ったのは、教室の出入口でふいにすれ違ったときだった。
 見下ろしていたはずなのに、気づけば目線が同じ高さになっていて。

 「カエデ……なんか背、伸びた?」

 思わず声が出た。
 カエデがはにかんで笑う。「気づいた?」って、嬉しそうに。
 気のせいじゃないと確かめるために、保健室に一緒に行った。
 身長は──179センチ。

 「すごい。1年のとき、170だったのに」

 嬉しそうなカエデに、つられて「すごいね」って笑う。

 「琉夏君と同じ景色だ」

 制服のシャツから覗く喉仏が、前よりもくっきりしていて。俺とコウで選んだピアスが、歩くたびに耳元で揺れる。
 袖の下から見えた前腕が、思ったより太くなっていて、春から始めた筋トレの成果が、そこにあることに気づいた。

 この一年半、どれだけの時間を彼と過ごしてきたんだろう。

 そしていつからだろう。
 隣を歩くカエデを「綺麗だ」と思うようになったのは。
 手が触れそうになるたび、呼吸の仕方を忘れるようになったのは。

 嬉しそうに笑う横顔も、ちょっと伏し目がちな表情も、少し低くなった声も──どれからも目が離せない。

 その変化をまじかで見れるくらい、彼の人生に自分たちがいるんだなって。その事実が、たまらなく愛おしかった。

 いつからか友達の垣根を飛び越えて、"触れてほしい存在"になってた。
 カエデが『おかえり』って言ってくれる存在になりたいとも思っている。

 目の前で笑うカエデの、額にかかる前髪をそっと指で分けた。

 長いまつ毛、うっすらとした眉の曲線、形の整った唇。
 『女みたいだ』と言われ続けて、カエデにとってはコンプレックスのこの顔が。俺にとってはどれだけ特別なものかなんて、お前は一生知らなくていい。

 「琉夏君?」

 名前を呼ばれて、はっとする。
 やわらかなその声に、心臓が一拍、遅れて跳ねた。

 「ねぇ、カエデ」

 「どうしたの?」

 その優しい、柔らかい声色を、ずっと聴いていたい。

 「琉夏って呼んで」

 「? 呼んでるよ?」

 「うーん、呼び捨てにしてみて」

 一瞬戸惑ったあと、カエデが少し首をかしげて──ゆっくりと名前を呼ぶ。

 「……琉夏?」

 「……もう一回」

 「……琉夏」

 「うん、カエデ」

 それだけで、なんだろう。胸が、ぎゅっとなる。
 急に自分の名前が息を吹き返して。誰かの祈りみたいに、きらきらしてしまう。

 「恥ずかしいな…」

 「なんで?」

 「…友達を呼び捨てにしたことなくて…」

 指先に触れると、カエデは視線を逸らした。少し気まずそうにするその様子が、たまらなく可愛くて。

 「…じゃあ、俺がカエデの初めてだ」

 にやけたまま言った言葉に、カエデは恥ずかしそうにため息を吐いた。
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