YOUTH

1年目5月中旬 琥一君の誕生日
主人公side


 「やりすぎかな……まだ話したこともないクラスメイトに、こんなの……」

 僕は大きなお弁当箱と手作りケーキをもって、琉夏君に言われた裏庭に向かう。

「…ま、でも断る理由もなかったし」

 同じクラスにいた”桜井君”が、琉夏君と兄弟だったなんて。全然授業にも出ないし、出ていてもほとんど寝ているしで、まともに話したこともなかった。

「すごいでっかい人だった気がするけど…」

 なんだかここにきて、急に緊張してきた。
 ちゃんと喜んでくれるかな。引かれたり、変に思われたりしないかな。いやいや頼まれたし、きっと話は通してくれているはず。

 裏庭の一角に、ふたりの姿が見えた。

「あ…いた」

 金髪の琉夏君が、座ってこっちに背中を向けている。その隣に座るもう一人。大きな肩幅に、黒いオールバック。琉夏君と同じピアスが、左耳に揺れている。
 僕は一度深呼吸してから、思い切って声をかけた。

「あ、あの!霧島楓です!」

 琉夏君がぱっと振り返る。
 顔をほころばせて、ひらひらと手を振ってくれた。その気軽さに、思わず胸のあたりの力が抜ける。だけど。

 隣に座っていた“桜井君”──琥一君は、あからさまに大きなため息をついて、鋭い目つきのまま肩越しに僕を睨んできた。
 音もなく立ち上がって、ベンチに足をかける。

「桜井琥一。1年B組ぃ!!!!!」

「ひっ」

 大きな声に、思わず声が裏返りそうになる。

「あーもうコウ、喧嘩じゃないってば」

 琉夏君が、琥一君の袖を引っ張って止める。
 「話したでしょ、アレ、カッちゃん」と言って、僕の方を指差した。

「ほら、行き倒れてた俺を助けてくれたカッちゃん!」

「──あぁ。アレが」

 琥一君は、こっちに向かって歩き出す。
 ひと足ひと足が、やたらと大きい。「そんな歩幅ありますか……」なんて思っている間に、彼の影が僕の目の前に落ちていた。

 見上げた視線の先、琥一君は僕をじっと見下ろしている。威圧感がすごい。視線だけで鼓動がバクバクする。
 喉が鳴る音が、自分でも聞こえた。

「あ、あの…」

 だけど、目をそらすことはできなかった。

「ルカが世話んなったな」

 低くてよく通る声だった。
 僕の差し出した弁当箱を見下ろしながら、琥一君はわずかに視線を下げた。

「あ、いえそんな」

 会話が途切れる。
 なんて切り出せばいいのかわからずにおどおどしていると、視線を下げた琥一君が「ん?」と眉を顰めた。

「お前その手に持ってるの…もしかして」

 ずいっと踏み出された一歩に、また心臓が跳ねる。
 睨まれてるわけじゃないのに、なんだか怖い。

「あ、その…今日、誕生日って、琉夏君に聞いて……」

 ぎこちなく、持ってきたお弁当を両手で差し出す。

「お誕生日、おめでとう」

「アイツに言われたからって、マジで作ってくる奴がいるか…」

 琥一君の瞳が、まんまるに見開かれた。弁当箱と僕の顔を、交互にじっと見比べている。

「お前……物好きだな」

 ほんのわずかに眉をひそめながら、ぽつりと呟いた。

「コウ、食べないの? なら俺がもらう。カッちゃんの弁当、めっちゃうめぇよ」

 琉夏君が横からするりと手を伸ばしてきた。

「馬鹿、これぁ俺んだろ!」

 琥一君が弁当箱をさっと僕の手から奪い取った。ぎゃーぎゃー言い合い始めた二人は、手早く包みを開いて中を覗き込んでいる。

「琉夏君。君のはこっちだよ」

「ありがと、カッちゃん。ケーキまで作って来てくれるなんて、ちょっと驚きだね」

「やりすぎだったかな」

 「まさか」って琉夏君は笑った。どんな顔をしていいのかわからないのか琥一君は「あんがとよ」ってぶっきらぼうに言った。

「カッちゃんまじでさ、イイヤツだね」

 満面の笑みを浮かべて、琉夏君はもうおかずを頬張っている。
 もきゅもきゅって奥歯の音が聞こえる。目を細める彼をみて、なんだかうずうずしてしまう。

 なんだか──少しだけ、餌付けしてる気分だ。

「いや、僕は別に」

「謙遜すんなって。よく知らなくても、ろくに話したこともねぇ俺に弁当とケーキ作ってくる野郎が、悪い奴なわけねぇだろ」

「あ…はい」

 反論の余地のない正論に、なんだか少し気恥ずかしい。

 二人はあっという間に間食して、しっかりケーキまで食べきってから、もう一度僕にお礼を言った。
3/77ページ
スキ