YOUTH

2年目8月中旬 スイカ割り
主人公side


 スイカの表面が、照り返す陽射しを受けて鈍く光っていた。
 波の音が絶え間なく寄せては返す、真夏の砂浜。
 今年は絶対やろうと決めていたスイカ割りを、とうとう始める時が来た。
 クーラーボックスで冷やしてきたはずのスイカは、僕たちがはしゃいでる間に、すっかりぬるくなっていたけれど。

 「……やばい、はやく割らなきゃ」

 そう呟くと、琥一君がすっと立ち上がった。
 その手には、スイカ割り用に持ってきたプラスチックのバット。

 「やるか、スイカ割り」

 夏の陽を受けて逆光になった彼は、まるで真夏の戦士だった。
 その姿がやけにかっこよくて、思わず笑いそうになる。

 「じゃあ、僕がいく!」

 そのまま琉夏君に目を覆ってもらい、琥一君が声をかけてくる。

 「よし、いくぞー。いっち、にー、さーん……」

 回転が始まる。

 「ろく、しち、はち……」

 「え、まだ!?」

 「きゅう、じゅー!」

 ぐるぐると世界がまわる。
 足元の砂が不安定で、体がうまく立っていられない。
 頭がくらくらして、バットを構えたままふらつく。

 「こ、これ……無理かも……」

 その瞬間、がくんとバランスを崩して、ざばっと砂に倒れ込んだ。

 「だっせぇなカッちゃん!」

 「ははっ!カエデ、砂まみれだ」

 二人の大笑いする声が、太陽に溶けていく。
 目隠しを取られると、真っ青な空と、茶色い瞳がのぞきこんでいた。
 二人が両側から手を差し出してくれる。

 「次、俺!」

 琉夏君が立ち上がり、タオルを受け取る。
 きゅっと目隠しを締めて、今度は琥一君が回し始める。

 「いち、にー……」

 十回まわっても口元に笑みを浮かべたまま、琉夏君は迷いなく進む。でもどう考えてもその足がこちらへと進んでいく。

 「待って、なんで!?琉夏君!?」

 「やべ、ルカ、そっちは!」

 にこにこ笑ったまま、琉夏君は棒をふり上げた。

 「いやぁぁああああっ!!」

 「あぶねぇぇぇ!!」

 しゃがんで伏せながら、命の危険を感じる。
 彼はふざけてるが、こっちは真剣そのものだ。
 スイカを完全に忘れてる。

 「こらバカルカッ、いい加減にしろ!!」

 琥一君の怒鳴り声に、琉夏君はタオルを取ってひーひー言いながら笑ってる。

 「危ないよ琉夏君…」

 「あーもう、いい。俺がやる」

 琥一君が棒を放り出して、すっくと立ち上がる。
 なにをするんだと思ったそのとき──
 彼はスイカに指を沿わせ、そのまま一気に力を入れた。ごすっ、と低く重たい音がして、スイカは真っ二つに割れた。

 「……は?」

 「え?」

 ぽかんとする僕と琉夏君を前に、琥一君は指をぱきぱきと鳴らしながら言った。

 「ぬるくなってんだから、棒なんか使ってらんねぇ」

 その姿が妙に堂に入っていて、笑いが込み上げてくる。

 「コウ、情緒ってもんがわかってない」

 「おいしそう。塩あるっけ?」

 ぱかっと割れたスイカから、甘くて濃い香りがふわっと立ちのぼった。すいかの赤が、太陽に照らされてきらきらしている。

 結局三人でしゃがみこんで、割ったばかりのスイカにかぶりついた。
 ちょっとぬるいけど、びっくりするほど甘い。

 「……うまっ」

 「笑いすぎて顔が痛い…」

 「夏の味だなこりゃ」

 海の音が遠くでさざめいている。
 どこかで鳴るラジオの音。通りすがる家族連れの笑い声。

 僕たちだけの、真夏の午後。
 水着のまま、砂まみれで、スイカをかじる。
 バカみたいで、楽しくて、ほんの少しだけ胸が熱くなる。

 きっと夏の思い出を聞かれたら、真っ先に今日を思い出すんだろう。
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