YOUTH
2年目5月下旬 わんにゃんランド
主人公side
大きな毛並みのゴールデンレトリバーが、僕の足元にごろんと転がった。
「わ、すごいなついてくれてる……」
思わず声が漏れる。撫でると、にぱっと口を開けて嬉しそうに尻尾をぱたぱた振る。
隣には、ラブラドールとシェパードが順番を待ってるみたいに座っていた。顔を見合わせるたびに、そっちにも手を伸ばす。
両手じゃ足りない。けどどうにかして触りたくて、僕は膝をついて、もふもふの背中や首のあたりを優しく撫でていく。
「……カッちゃん」
ふと、背後から呼ばれた。振り返ると、琉夏くんが立っている。
「なに?」
「俺も、撫でて?」
「え、撫でるって……?」
「ほら、さっきみたいにさ」
冗談なのか本気なのか分からない笑顔で、彼は僕の前にしゃがんだ。人差し指で自分のこめかみをとんとん叩く。
「う、うん……」
戸惑いながらも、彼の髪にそっと手を置いた。つむじをくしゃっ と撫でると、彼はわざとらしく目を閉じて、「ん~……きもちぃ~……」と、犬さながらに甘い声を漏らした。
「……」
「……」
目が合って、僕は耐えきれずに笑ってしまった。
「なにやってるのさ琉夏君……」
「んふふ。なんか気持ちよさそうだったから、ちょっとやってみたくなっちゃった」
いたずらっぽくくすくす笑う彼は、犬たちよりもタチが悪い気がした。
その時、少し離れたところで琥一君の声が上がった。
「おいカッちゃん!なんとかしろコイツ!」
見れば、グレートピレニーズが琥一くんの足に頭をぐいぐい押しつけて、尻尾をぶんぶん振っていた。ぴったりと腰に体を預けて、まるで離れたくないとでも言うように。
「……あの、可愛いけど、重そう」
「重ぇし暑いんだよ! なんで俺ばっかに懐くんだよ」
珍しく困り顔の琥一くんに、僕は少し笑ってしまって、目の前の犬たちを見回した。
「仕方ないな……今日は、琥一君を譲ってあげよう」
「冷てぇな譲んな!」
大袈裟な声に、また笑ってしまう。そうこうしている間にも、犬たちは僕の手に甘えて、琥一君の脚にくっついて、琉夏君はちょいちょい僕の髪に指を通してきたりして。
「…カッちゃん、犬、好きなんだね」
琉夏くんがぽつりと呟く。
「うん、大好き。昔から飼いたかったけど、父さんが、犬苦手な人だったから」
「……へえ」
琥一君も琉夏君も、なぜか言葉が少しだけ止まる。僕は、いつもより少しだけ長く犬の頭を撫でた。
その柔らかな毛並みに、子どもの頃の寂しさが少しだけ紛れる気がして。
ベンチに座って水を飲んでいると、琉夏君が隣に座ってきた。喉を鳴らすように一口飲んでから、僕の肩にふわりともたれかかる。
「ほら、俺……犬に似てるじゃん?」
「ん?琉夏君が?」
言うなり、彼は僕の膝に顔を埋めてきた。さらさらの髪が広がる。柔らかくて、体温があって、でも人間だから重い。
「ちょ、ちょっと……!」
「もふもふ撫でられたら気持ちよくなるとこもそっくりじゃん? ほら、撫でて?オマエが家で飼えない分、俺のこと撫でてくれていいよ」
甘えるような声で、両腕まで僕に巻きつけてくる。くすぐったいのと照れくさいので、身体が熱くなってくる。
「調子のんな、バカルカ」
横から琥一君の無慈悲なツッコミが飛んできた。少し離れた位置で腕を組んでいた彼が、ため息まじりに眉をひそめている。
「どちらかというと、大型犬はコウのほうかな?」
琉夏君は、にやっと笑いながら僕から顔を上げて言った。
「不器用だけど構ってほしがりなとことか、さー」
「誰がだ」
琥一君の返しは即答だったけど、耳が少し赤くなっている気がする。
僕は笑って首を横に振る。
「ううん、犬じゃなくてよかった」
「ん?」
二人の視線がこっちを向いた。
「だって犬だったら、僕のお弁当食べられないもん」
さらっと言ったつもりだった。でも、琉夏君は一瞬目を丸くして、それから吹き出すように笑った。
「なにそれ、かわいすぎでしょ。食べるよ、いっぱい食べる」
琥一君も困ったように口元をゆるめて、「言い方の癖がすげぇ」と苦笑していた。
なんだろう、ふたりとも少しだけ、力が抜けたみたいな笑い方だった。
「…今日の夜ご飯はすっごく辛いのにしちゃおうかな」
「カッちゃんが作るなら、何でも食うよ」
「さすがに人間が食える範囲にはしてくれ」
わいわいと言いながら、僕たちは立ち上がる。昼下がりの陽射しの下、風に吹かれて、犬たちの匂いがまだ袖に残っていた。
