YOUTH
2年目4月中旬 見つかったあざ
主人公side
体育授業の前。
制服のシャツを脱いで、体操着に着替えようとしたとき、背後の空気が不意に変わった。
「……おい」
琥一君の声だ。
僕はゆっくりと振り返った。
「カッちゃんよぉ。このアザどうした」
僕は何も言わずに、体操着をかぶろうとした。
でも彼は素早く僕の手首を掴んで、まるで冷たい水の中から誰かを引き上げるみたいに、強く引いた。
「………」
「だんまりか。偉くなったな」
「顔怖いよ…琥一君…」
みんなはすっかりグラウンドにでてしまって、僕らは静かな更衣室で緊迫した雰囲気をまとっている。
「てめぇ、よく見たらふくらはぎも青くなってんじゃねぇか。言え。何があった。」
「も…黙秘します」
「あ"ぁ"?なめてんのかコラ」
「ひぇ」
外を通りかかった琉夏君が、「何カツアゲ?」って扉をあける。
当たり前にサボってるのなんなの、って僕は喉をひくつかせた。
僕の身体を見て、琉夏君の目がすわった。早足で近寄ってきて、辛うじて履いていた体操着のズボンを一気にずり下げた。
かくして不可抗力にてパンツ一丁になった僕は、恥ずかしさとやるせなさで変な声をあげる。
「ひぇっちょっ琉夏君!?」
「おいコウ。見ろこれ。」
「あ"?他にもあんのか?」
腰のあたりに、大きな青痣が浮いている。それは黄ばんだり紫がかっていたりして、いかにも古いものと新しいものが混ざっているのがわかる種類の痕だ。
琉夏君がそっと僕の腰に腕を回した。音もなく横に並ばれ、ぴったりと身体をつけられる。
「何隠してるのカッちゃん。言えよ」
「やましいことがないなら早く吐いて楽になれ」
「うぅ…ひどいよ僕のプライバシーは」
「「俺らん仲だろ?」」
普段はすぐ喧嘩するくせに、こういうときは息ぴったりだ。こうなった二人は、テコでも動かない。
降参した僕は、羞恥心を飲み込んで口を開いた。
「ぉょぎの…練習を…してたんです…」
「あ"?」
「泳ぎ?」
二人の力が緩んだ。
咄嗟に距離を取って、ズボンを上げる。琥一君から体操着の上もひったくって、とりあえず着衣する。
「どういうこった」
訝しげな琥一君が、小首を傾げている。いよいよ逃げられなくなって、僕はため息を吐いた。
「今年の夏こそは、二人と素潜りしたくて…今から泳ぎの練習を…プールでしてたら…いろんな人とぶつかって……青痣だらけに…あと普通にプールサイドで転んじゃって…」
挙句の果てに溺れて、プールの監視員の人に助けられてしまった。でもそこまで言うと、過保護な二人はいよいよ手が付けられなくなる。
恥ずかしさに俯いた。
「内緒だったのに…」
基本的に何でもできてしまう二人には、僕の気持ちなんてわかるわけない。
二人は深い長いため息を吐いて、安堵したように肩の力を抜いた。
「もったいぶりやがって」
「驚かせんなよカッちゃん…俺はてっきりまたオマエが」
やっぱりまた絡まれたんだと心配されていたらしい。
醜態を晒すことにはなったが、二人を心配させるのは不本意だ。仕方がない。
琥一君は「なんで俺らに言わねぇ」って眉をしかめた。
「二人の時間をこんなことにもらうなんて、できないよ…」
琉夏君が「"こんなこと"」って口の中で繰り返した。
「カッちゃんは俺らと潜るために練習してくれてんだろ?」
「?うん。」
「俺らと潜ることって、"こんなこと"なの?」
「う"」
痛いところを突かれて言葉に詰まる。
大きなため息を吐いた琥一君が「ま、そういうこった」ってため息を吐いた。
「おい」
「なに?」
「よく聞け。俺とルカは、よくゲーセンとボーリングにいく」
「?うん?そうだね」
「そこで遣う時間と金を、お前と過ごす夏の海のために使ってやる」
「え」
琥一君の言葉に、琉夏君もふって笑う。
「日曜日体空けとけ。プール行くべ。」
「何度でも、カッちゃんが泳げるようになるまで付き合ってやるよ」
二人は鋭い瞳で僕を見る。この無限の優しさは、本当にどこから湧いて出るんだろう。
枯渇することはないんだろうか。
「うう〜…ありがとう二人とも…」
「いーんだよ。俺らがしたくてしてんだから」
「そういうこった」
沼だった。一度足を踏み入れたら抜けられない、底なしの沼みたいな優しさ。
どろどろにからめとられて最後、その中で気づかないうちに溺れるんだろう。
