YOUTH

1年目1月中旬 兄か弟か
主人公side


 「カッちゃんよぉ」

 「ひぇ」

 首元に当たった熱に、背中が跳ねる。
 肩で笑った琥一君が、「ほらよ」って缶スープをくれた。

 「えなにこれ、いいの?」

 「全然足らねぇが、普段の弁当の礼」

 「そんな…いいのに。でもありがとう。いただきます」

 「おう」

 かしゅ、ってタブを開けて飲む。
 あれ、振ったほうがよかったかなって缶のラベルを見ると「お前なら絶対そうなると思って、振ってあんぞ」って琥一君が笑った。
 恥ずかしい。一歩先が読まれている。

 またククッて悪役みたいに笑って、琥一君は「そういえばよ」って切り出した。

 「お前最近”みんなのお兄ちゃん”って言われてんぞ」

 「僕が?誰に?」

 「さぁな。噂だ。」

 「うーん?なんでだろ。変わった人が多いんだね」

 あったかいコーンスープが、喉を落ちていく。
 正直手作りよりずっとおいしい気がしてしまって、企業努力を噛みしめる。

 急に静かになった琥一君の指が、僕の前髪をそっとわけた。

 「ん?なんかついてた?」

 「…いや…」

 良好になった視界で、色素の薄い茶色い眼がじっと僕を見ている。
 パーツを確かめるみたいな視線が、口、鼻、目、耳って移動して。そして目に戻ってくる。

 「な…なに?琥一君…」

 「わかんなくもねぇと思って」

 「え”?何が?」

 琥一君が手を離した。前髪が垂れて、また視界に髪の毛がかかる。
 髪の隙間から見える琥一君は、一気に自分の缶をあおって空にした。僕もならって空にする。

 「女どもの考えることなんぞ俺にはわかんねぇが」

 琥一君が空になった缶を僕の手からひったくる。ばきばきって音がして、手の中で缶がひしゃげた。
 ぞっとして思わず顔を見る。まだその目は僕を見ていて。

 「…こ」

 「お前はダチも多いし、料理もうめえだろ。体力はねぇけど運動神経も悪くねぇし、肝も据わってる。ひょろひょろだった去年よりは顔色もよくなってるし、背もちょっと伸びたか?」

 「そ…そうかな」

 どうしたんだろう今日は。いつもこんなこと言わないのに。
 心臓がどくどく早くなって、顔が熱くなる。男同士で気味が悪いと言われないように、咄嗟に口元を手で覆った。
 そんな僕の反応を無視して、琥一君は「それに」と続ける。

 「う、うん」

 「男にしては、女みてぇな顔してんだろ」

 ぴしっと、早鐘を打っていた心臓が鎮まる。
 緩んでいた口元が感情を失って、一気に体温が冷えた。
 ずっと言われ続けてきたその言葉を、久しぶりに言われてしまって。笑って流さないといけないのに、どうしても見過ごせない。

 「………琥一君、」

 「あん?」

 「それは……僕のコンプレックスだよ」

 「あ”?」

 立ち上がって、カバンを持つ。
 上げて落とされた気分で、ため息が出た。

 「気にしてんだよ僕は!!女みたいって言わないで!!」

 「バ、おま、ちげぇだろ!!」

 がしっと顎を掴まれて、琥一君のほうに引っ張られる。
 頬に指が食い込んで痛い。

 眉間にしわを寄せて、琥一君は僕を睨む。
 思わず睨み返すと、舌打ちして彼は「…そうじゃねぇよバカエデ」ってそっぽを向いた。

 「ほうひひふ、ひはひ(琥一君、痛い)」

 無言のまま手が離れた。
 そっぽをむいたままの琥一君の、耳が赤い。

 「バカエデが、”みんなの兄貴”なわけねぇだろ…」

 「なんなのもう…」

 「お前は俺らの弟で十分だ」

 「えぇ…それは嫌だって言ってるでしょ…僕らは友達だってば…」

 まだジンジンするほっぺたをさすりながら、僕は座りなおした。
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