YOUTH

1年目1月上旬 元旦
主人公side


 携帯のバイブ音に、目を開ける。

 「は…い、出張シェフ霧島、です」

 また名前を確認せずに出てしまったことを後悔しながら、寝起きの声のまま答える。

 「俺だ」

 「………琥一君?」

 「おう。初詣行くべ」

 「…ん行く…」

 すごい笑ってるのが聞こえる。
 なんだか悔しいが、元旦早朝からそんな元気そうな君がおかしいんだって言ってやりたい。

 「30分で着く。用意しとけ」

 「はぁい」

 ぷっと切られた途端、ぱちっと目がさえる。

 「え…今30分って言った?」

 少しの間をおいて、僕は飛び起きた。
















 
 「あれ、琉夏君は?」

 てっきり二人で来ると思っていた僕は、SR400に一人乗りする琥一君に尋ねる。

 「アイツは起きねぇからいい」

 僕にヘルメットをかぶせて、琥一君はアクセルをひねった。
 















 神社の参道は人であふれていた。まるで全員同じタイミングで、同じ種類の希望を背負って、ここに集まってきたみたいだった。
 前にも後ろにも人、人、人。
 ここには静寂も孤独もない。ただ混沌とした年明けの騒めきが、濃密な空気を満たしている。

 「チッ。俺の後ろ歩け」

 「え、ありがとう」

 僕は琥一君の背後に隠れて歩き続ける。
 さりげなく僕がついてきているか確認してくれる琥一君は、「シワにならねぇ程度に服の裾でもつかんでろ」ってぶっきらぼうに言った。

 列は牛歩のように進み、やっとのことで賽銭箱の前に立った時、僕は特に何も願わなかった。ただ目を閉じて、静かに手を合わせた。

 「やけに真剣に祈ってたな」

 人ごみを避けた場所にきた時点で、琥一君が振り返った。

 「うん?そうだった?」

 「そう見えた」

 「ふふ。琥一君は何お願いしたの?」

 「そりゃあおめぇ…」

 少し気恥ずかしそうにするのは、なんでだ。
 結局言う気が失せたのか、彼は肩をすくめて「内緒だ」って柔らかく吐き捨てた。

 「さっさと帰るぞ」って僕をまた後ろに乗せて、琥一君は元旦の道を飛ばした。

 「送ってくれてありがとう。琥一君は今日どうするの?」

 「バイトだ。正月は稼ぎ時だからよ。浮かれた客がチップくれる」

 「はは、そっか」

 ヘルメットを椅子の下にしまって、琥一君はバイクにまたがった。

 「お前は?」

 「僕もこれから準備して仕事だよ」

 「そっか。がんばろーぜ」

 「うん。誘ってくれてありがとう。いいスタート切れた。」

 琥一君はまた僕の頭をぐしゃぐしゃにした。

 「おうよ。今年もよろしく頼むわ」

 「こちらこそ」

 去っていく大きな背中を見送って、僕は深く息を吐いた。

 一年がまっさらなページみたいに目の前に置かれていて、僕はその白さを前に、ちょっとだけどきどきしている。
 書くべき言葉はまだ見つかっていないけれど、それでも何かを始める準備は整っている、そんな気分だ。

 こんなに穏やかな正月は、初めてだった。
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