YOUTH
1年目11月上旬 文化祭
主人公side
「オイコラ。ツラ貸せ」
文化祭。
クラスの受付として看板を持っていた僕は、不意に腕をつかまれた。
「……え、ちょ……琥一く──」
言葉をさえぎるように、そのまま強引に引っぱられる。
連れて行かれたのは、締め切ったはずの校舎屋上。階段を抜けて金属の扉を開けると、そこには夕暮れの空と秋の冷たい風、そして、手すりに寄りかかっている琉夏君の姿があった。
「久しぶり」
ひょうひょうとした笑みとともに、彼は手をひらひらと振る。
琥一君は無言のまま、僕の背を押してベンチの中央に座らせた。両隣を、兄弟に挟まれる形になる。二人とこうして座るのは、なんだか久しぶりだった。
上級生に絡まれた日から、二人は僕とあからさまに距離をとっていた。誰が何を言い出すこともなく、自然とそうなったように。
風が少し強まって、琉夏君の前髪をゆらした。
「オマエを、こっち側に巻き込みたくなかったんだ」
静かに、けれど真っ直ぐに琉夏君が言う。表情は笑っているのに、その目の奥はどこか哀しい。
「だから距離置こうとしてたんだけど……カッちゃんのクラスメイトに怒られちゃった」
ふっと口角を上げて、琉夏君は空を仰ぐ。
「“楓が、ルカ達らに会えなくて抜け殻みたいになってる”って、そう言われた。……俺も寂しかったよ。コウも」
隣の琥一君が舌打ちをこぼした。
けれど否定はなかった。むしろ、僕の視線を避けるみたいに、どこか照れくさそうにそっぽを向いた。
信じてもいいんだろうか。寂しかったのは僕だけじゃないと、本当に思ってもいいんだろうか。
なんだか胸があったかくなって、思わずうつむいた。
「…、僕、何度もお弁当持ってきたんだよ」
「…うん」
二人を見ないまま、言葉を紡ぐ。隣に座っている琉夏君が、僕を覗き込んで相槌を打った。
「でも二人とも全然会えないし…同じクラスの琥一君でさえ、すぐいなくなっちゃうし」
「…おう」
琥一君が、ため息交じりに頷いた。
「……悲し…かったんだ。僕…」
「うん。ごめんね、カッちゃん」
「…悪い」
思わず小さく唇をかみしめる。胸にあった重たいものが、少しずつ音を立ててほぐれていく。
「……せっかく友達になれたのに」
膝の上で組んだ指先をさすりながら、僕はぽつりと言葉を選ぶ。
「どこの誰かも知らないような馬鹿な先輩のせいで……それがなかったことになるなんて、嫌だよ」
声が震えてしまった。
二人は黙ってしまって。しばらく僕らは無言のまま動かずにいた。
でも沈黙を破るように、琉夏君が吹き出した。
「カッちゃん、口悪い。コウみたいなこと言う」
「言うじゃねぇか」と琥一君が苦笑した。
二人は肩を震わせてひとしきり笑った後、脱力したみたいに背もたれにもたれた。
僕はおもむろに立ち上がって、二人に向き直る。
二人は僕を見上げて、目を細めて笑っていた。
「じゃあ……また前みたいに、遊んでくれる?」
琥一君の腕が伸びてくる。
大きな手が、ぐりぐりと僕の頭を撫でた。
「お前そりゃあ……俺らのセリフだろうが」
静かに、柔らかく、そう言った。
「また俺らの友達になってくれる?」
琉夏君も微笑んだまま、僕の手首をつかんだ。
それだけで、胸が詰まった。
気づけば、涙がこぼれていた。
「あーあ、コウ泣かせた」
「俺ら二人だろ」
僕らは笑った。
空の色はすっかり夕暮れで、雲の輪郭がやさしく滲んでいた。
その屋上で、三人だけの時間が静かに、また動き出した。
