YOUTH

1年目8月下旬 海
主人公side


 突然鳴った着信音に、意識が浮上する。
 時間も番号も確認せずに、寝ぼけたまま電話に出た。

 「…はい…出張シェフ…霧島キリシマです…」

 「カッちゃんか?なんだお前寝ぼけてんのか」

 「……………琥一君?」

 「俺もいるよ!カッちゃんおはよう!」

 「琉夏君?」

 二人と連絡先は交換してない。
 なんだ夢か、って端末ごとブランケットの中に戻る。
 受話口の向こうから少し笑い声と一緒に、「寝てた?」って琉夏君の明るい声が聞いてくる。

 「ん。今…何時…?」

 「もー昼だ。12時半だぞネボスケ」

 琥一君の呆れた声まで本物みたいだ。

 「い…だろ…昨日は…遅くまで仕事だっ…んだ…」

 受話口から、また二人の堪えた笑い声が聞こえた。

 「カッちゃん今日暇?」

 「ん…暇だよ」

 「じゃあさ、俺らと海行かない?」

 海、と心の中で反芻する。海か。

 「うん…いーよ」

 「じゃ、1時間後にはばたき駅で!」

 「遅れたらしばくぞ?」

 「待ってるね♡」

 二人は好き勝手言って通話を切った。

 「う…ん…」

 目をこすって、ブランケットに包まる。二度寝しようとして、急に覚醒した。

 「…1時間後!?え、夢じゃなくて!?」

 通話履歴を確認して、時計を見て、飛び起きる。慌ててシャワーを浴びて走る。
 遅刻だ。
 ダッシュしてきた僕を見て「走ってきた人はセーフ!!」って琉夏君は笑った。
















 海の家でびっくりする量を平らげて、二人は「よっしゃ潜んべ」「久々だな」って腕を回している。僕は持ってきていた薄いパーカーのジッパーを、上まで引き上げた。

 「二人とも潜るの得意なの?」

 二人は顔を見合わせて「得意なんてもんじゃねぇぞ」って笑う。
 「君ら本当に、運動系何でもできるんだね」って思わず素直な感想が漏れた。得意げになりながら二人はずんずん岩場に向かって歩いていく。

 「今日の晩飯はサザエとトコブシだな」

 琉夏君がしたり顔で言う。捕獲禁止って知っててやってんだろうな、って思わず閉口する。
 ここで言っても、この二人ならとぼけそうだ。

 「僕もいていいの?」

 「あ?当たり前だろ。俺らの許可なんかいらねぇよ」

 琥一君は早くも水の下へ消える。

 「無理すんなよ」

 琉夏君もそう言い残して潜っていく。

 「…普通に足でもつけとくか」

 潜ったことのない僕は二人の邪魔をしないよう、足だけ水につけて座り込む。パーカーのフードをかぶってから岩場に腰を下ろすと、太陽に焼かれた石がじんわりと熱を伝えてきた。
 潮風はぬるく、遠くの沖合では白いヨットが音もなくゆっくりと進んでいた。雲一つない青い空を、鳥が横切っていく。

 「夏の海なんて、初めて来たな…」

 ざば、と水中から顔を出し琥一君が、ビニール袋と一緒にサザエを渡してくる。

 「?潜らねぇのか?」

 「僕、泳げないんだ。ここにいるから、楽しんで」

 ひらひら手を振ると、彼は一瞬「まじか」って驚いた顔をする。

 「……待ってろ。お前の分も取ってきてやる」って琥一君はニカって笑って、また水の下に沈んだ。
 追いかけるように琉夏君も上がってきて「はい、これカッちゃんの分」って袋にいれる。

 「…ありがとう?」

 「うん」

 すぐに潜っていく琉夏君を見送ってから、はぁ、ってため息が出る。

 「優しいなぁ二人とも」

 学校でも人気者の二人と、冴えない僕が海に来ている。
 不思議なこともあるもんだなぁ、としみじみした。

 ふと視線を落とすと、岩の隙間にたまった潮だまりの中で、小さな魚がゆらゆらと浮かんでいた。
 彼らはまるで、この場所の時間だけが少し遅れて流れていることを知っているようだった。

 「ずっとこんな時間が続けばいいのに」

 全然上がってこない二人に、僕があたふたし始めたところで、ざばっと水面から顔を出す。
 「溺れたかと思ったよ!?」と怒鳴った僕に、二人は不思議そうな顔で「溺れるわけねぇだろ」って笑った。

 その後僕らはウェストビーチで一緒にご飯を食べて、琥一君がバイクで家まで送ってくれた。

 それは高校1年生の、夏休みと言う名の青春だった。
13/77ページ
スキ