YOUTH
1年目8月中旬 ヨタカド高校
主人公side
「おいそこのお前!無視してんじゃねぇぞ!?」
唐突に肩を掴まれた。
ぎょっとして振り向くと、僕を挟むように立っている二人組。
ヨタカド高校の制服。見覚えはない。
でもさっきから聞こえていた声が、自分に向けられていたのだと気づいた瞬間、背筋がざわっと粟立つ。
「なんですか」
ヨタカド高校の制服を着た二人組は、ニヤニヤしながら僕を見下ろしている。
「お前さっきからこの辺ウロウロしてんな」
「誰に許可取ってんなことしてんだ?コラ」
酷い言いがかりだ。困惑が眉に出たのか、二人の目が細まった。
「…男のくせにヒョロヒョロしてんなぁ」
「女みてぇな顔じゃねぇか」
顎を掴まれ、顔を覗き込まれる。
心外だった。抱えてきたコンプレックスを、何故こんなところでこんな奴らに言われなければならない。
「顔のことはいいじゃないですか」
つい語気を荒げて言ってしまう。
僕の反応が予想外だったのか、二人は一瞬目を丸くして、それから大声で笑い始めた。
「他に言うことあんだろ」とか「そーかそーか。可愛い顔がコンプレックスか」って大爆笑している。
恥ずかしい。せめて声のボリュームを下げてほしい。
「ま、とりあえず金出せ」
唐突にかけられた言葉に、脈絡どこ言ったって思わず目を見開いた。
「お金はありません」
答えた瞬間、ゴッと鈍い音がして視界が揺れた。殴られた。
口の中が切れて、鉄の味が広がる。
「とぼけんな。あんだろ、金」
「お前雑誌に載ってたよな。知ってんだよこっちは」
覗き込んでくる二人の目。笑っているのに、光はない。
頭の奥のどこか、冷たい場所がすっと覚めていく。
背筋が、ぞくりと凍るのではなく、すっと静まった。
「お金はないです。」
ぎゃははって笑い声を上げて、二人は空を仰いだ。
首を鳴らしながら、「あー可愛い顔がコンプレックスなんだっけか?」「俺らが男前にしてやっから」って拳を振り上げる。
「………」
あーあ、
二人の体が左右から飛んできた足に蹴られて、ヨタカドの二人はお互いに衝突した。
「何やってんだ。コラ」
「汚ねぇ手離せ」
琥一君と琉夏君が倒れた二人の背後に立っていた。
僕を見て、二人とも眉間を顰める。
すっと目が据わって、その視線が真っ直ぐ地面に転がるヨタカドの二人に向いた。
「人様に迷惑かけてんじゃねぇぞ」
「謝れてめぇら。土下座しろ」
あろうことか二人は、馬乗りになってヨタカドの二人を殴り始めた。
「ちょ!?二人ともダメだって!!!」
慌てて止めに入ると、見ていた通行人が「お前ら!警察呼んだぞ!」って大きな声を張り上げた。
僕は咄嗟に二人の腕をつかんで走る。意外にも二人は何の抵抗もせず、僕のあとについてきた。
駅近くのモールに飛び込み、ようやく足を止める。エアコンの風が吹き抜けて、熱に浮いた体から汗が引いていく。
「カッちゃん」
名前を呼ばれて、振り向いた。
琥一君の大きな手が、僕の頬に触れる。殴られたところをじっと見つめながら、低い声で言う。
「遅くなって悪かった」
それには僕のほうがぎょっとしてしまう。
「いやいやなんで謝るの。助けてくれてありがとうだよ僕は」
変な日本語になりながら「琉夏君もありがとう」って琥一君の横から覗き込む。
瞬間。
僕は目を見開いた。
普段は人好きのする無邪気な琉夏君が、無表情だ。追い打ちのように、「…目が開けれなくなるくらい、殴ればよかった」って低い声でぼそっと言う。
「え”」
琥一君もたしなめない。
二人のあまりに深刻な顔に、僕のほうが焦ってしまう。
「いやいや待って。大丈夫だよ僕は。ちょっと
琉夏君のまつ毛が、ぴくって動く。長い指がこっちに伸びてきて、そっと僕の殴られた頬を撫でた。
「なんで君たちが、僕より痛そうな顔するのさ…」
優しい兄弟は僕の頬をじっと見つめたまま、悔しそうな顔をしている。
空気が重くなる。僕のせいで、二人が傷ついている。
思わず二人の手をぎゅっと握った。
「ひ、ヒーローは!遅れてくるもんだから!!」
夏祭りで僕が勝手にそう言った。お面を渡して。
なら、責任を感じるのは僕だ。ヒーローを名乗らせたのは、僕なんだから。
「ピンチから救ってくれて、ほんとにありがとう、ヒーロー!!」
思ったより大きい声が出た。
周りの視線が集まってるのが分かる。クスクス笑われて、指をさされている。
あぁどうしよう。元気づけようとしたら、二人にまで恥をかかせてしまった。
顔が赤くなるのが分かった。二人はニヤニヤしながら僕を見下ろしている。
よかった、笑ってくれるだけまだいい。
「は…早くここを離れませんか…」
いたたまれなくなって敬語になる。
「ぶっ」
「ククク」
吹き出した二人は、なんとこらえようと口を押さえて肩を震わせている。
恥ずかしくて、顔から火が出そうだった。
「暴力はだめだよ」と帰り道で、僕は二人に言う。
二人はそっぽを向きながら面倒そうにため息を吐いた。
