YOUTH

1年目4月上旬 春が来た
主人公side


 四月、はばたき学園の校門前。朝の空気がまだ少し冷たいが、桜の花びらが風に舞っていた。春の陽射しが眩しくて、僕は少しだけ目を細めた。

 周りは見慣れた顔同士で固まっている地元の生徒たちが多くて、自然と足取りが重くなる。知らない土地、知らない学校。
 友達できるかな、なんて緊張していた僕の足が、ふと止まる。

 校門脇の植え込みの影。
 誰かが寝ている──いや、倒れている?

「え、ちょっと……!? 大丈夫ですか!?」

 慌てて駆け寄った。
 制服はちゃんと着てるけど、シャツの裾が出てて、ネクタイもしていない。開いたシャツの胸元から、うっすら筋肉の線が見える。長い金色の前髪が顔にかかってて、明らかに顔色が悪い。

「うぅ……お腹すいた……」

 声が聞こえた。倒れていた男子が、ごろりとこちらに向き直る。その動きもなんだか、ぐったりしてる。

「…お腹?え、あ、えっと…これ、食べますか?」

 思わずバッグから取り出したのは、朝つめたお弁当と、予備に持ってきていた菓子パン。

「僕が作ったから、味は保証できま」

「マジ!? いいの!?」

 彼は目を輝かせて、がばっと上体を起こした。次の瞬間、弁当が僕の手からふっと消える。
 まさに、ひったくられた。

「うまっ…っ!」

 信じられないものを食べたような顔で、どんどんおかずが口の中へ消えていく。遠慮ない食べっぷりに、なんだか力が抜ける。

「そんな大げさな」

「いやほんと。命の恩人だよマジで。ありがと!」

「よかったです」

 ホッとして、バッグからペットボトルのお茶を取り出す。「はい」と渡すと、迷いなく彼は「さんきゅ」と飲み干した。
 なんだろう、妙に世話をやかれ慣れているように見える。

「はー旨かった」

 空の弁当箱を閉じて、少し落ち着いたように喉を鳴らしたあと、彼はふとこっちを見て笑った。

「お前、名前は? 何年?」

霧島きりしまかえで、新入生です。」

 金髪の彼は髪をかき上げ「カエデ、ね。カッちゃんだ。よろしく」と人懐っこい笑顔を浮かべた。片耳に揺れるピアスが、太陽光を反射して光る。

「俺は琉夏、桜井琉夏。俺も一年」

「え、同級生!?」

 驚いて、彼をまじまじと見た。
 顔立ちも整ってるし、なんというか、色気がある。正直もっと年上かと思っていた。
 琉夏君はいたずらっぽく笑って、小首をかしげた。

「カッちゃん、もしかして引っ越してきた人?」

「? うん。高校から、こっちに来たんだ」

 「そっか。どーりで」って立ち上がった琉夏君は、まるで猫みたいにのんびりと背伸びをした。

「まじでありがと。なんか困ったことあったら、いつでも言って?」

「困ったこと…ありがとう。今はないけど、あったらまた声かけるね」

「うん。ごちそーさま。うまかった。」

 まるで満開みたいに明るく笑うその顔に、暖かいものが広がった。

「なんかすごい人だったな…」

 水を得た魚みたいに去っていく彼を見送って、僕は軽くなった弁当箱をカバンにしまう。この学校に、あんな人がいたなんて。

 風が吹くたび、花びらがふわりと舞い上がって、舗道に静かに降り積もる。僕は桜の下に立って、しばらく何も考えずにそれを見上げていた。

 桜はただ咲いていた。ただそれだけのことだった。

 春が来た。
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