二十二の夏
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あの日、産声を上げた時から。
目をあけた時から。
歩いた時から。
全ては、このために。
君を生かすために。
傲慢な押し付けだと、分かってる。
今日は二十二回目の出久の誕生日だ。
昨日、父さんにも母さんにも会ってきた。
沢山話をした。
母さんには、私が出久を好きなことがバレていて思わず笑ってしまった。
流石、母さんだ。笑いながら、涙が出た。楽しい、悲しい。相反する二つの感情が私を見つめていた。
昨日のことなのに、遠い昔のようだ。
あの夢は本当だったのだと、思い知らされた。
それと同時に、ただの夢だと笑い飛ばさなかったことに酷く安心した。
今朝、と言ってもまだ日が昇り始めた早すぎる朝に、ヒーロー達に一斉送信されたメールにいよいよかと拳を握りしめた。前日に作っておいたおにぎりを口の中にお茶と一緒に流し込んで、勝己と二人で家を出た。
神妙な顔の勝己は、何も言わなかった。
ただ、頭をしつこく撫でられた時、上を向かなかった。顔をあげたら、駄目だと思った。いつもより強い力が、その理由を教えてくれる。
「お前の近くにいることはできねえ。だから、自分の身ぐらい自分で守れ」
「心配されなくても、私だってもうプロヒーローだよ」
その言葉に嘘はない。
息を一つ吸い込んだ。
この先会えるか分からないから、後悔しないようにしないといけない。
「勝己、ありがとう。毎年のプレゼント選びに付き合ってくれて。毎年、出久の誕生日の日に髪アレンジしてくれて。……勝己、死なないでね」
「俺のこと誰だと思ってんだよ。自分の心配だけしてろ」
一ヶ月前に現れた敵と同時に隠された太陽。
その敵は人脈が広く、洗脳系の個性を持つ手下を抱えていることにより対策が出来ず、こんなにも時間がかかった。しかし、黒幕が分かった今、今日が絶好のチャンスだからなにがなんでも捕まえると、ヒーロー側も躍起になっている。
何せ、被害が大き過ぎる。
緊迫する空気は、ヒーローになって一番重たいものだった。
先輩の顔が見たこと無いほどに強張っている。
敵の凶悪さが、見なくても伝わる。
大丈夫。私は、強くなった。
「今動ける奴ははやく行け!!!」
「はい!!!」
「いいか、お前ら。死ぬな!!」
喉を締め付ける命令に、私だけが返事をしなかった。出来ない。私は、死ぬから。可能性の問題ではない。私が死ななければ、出久が死んでしまう。それだけは、嫌だ。
デクは、もう現場にいるらしい。
この世から、平和の象徴を奪わせない。
未来から、緑谷出久の存在を消してたまるか。
見慣れた先輩の背中。
拳をぶつけ合った同僚。
今までお世話になりました、ありがとう。
感謝が胸のうちから溢れていく。
十六の夏は、幸せだった。
十七の夏は、現実を知った。
十八の夏は、苦しかった。
「……出久、まだ死なないでよ」
敵の個性なのか、太陽が隠されて一ヶ月。
やっと正体を現した敵をここで倒さなければいけない。
見上げた空は、目を細める輝きを失っていた。
「出久!!! デク!! どこ!?!」
私の声は爆音で消される。
埃が砂を纏って風に乗っかり、ごうごうと音を立てて走り回る。目に入るそれが痛くてたまらない。
インカムから流される情報が更新されるたびに増えていく、死者の数。敵の数。
吹雪く季節外れの雪。
敵のものなのかヒーローによるものなのか。
分からないし、今知る必要はない。
一番大きな被害場所、攻防が一番激しいところ。
どこだ、見つけろ。はやく。
そこに、出久がいる。
走り抜ける血生臭い戦場と化した、道路の上。
息も絶え絶えで、見つからない恐怖と焦りで立ち止まった瞬間。……何処かで、一際でかい音が、激しい爆風と振動を辺りにまき散らした。
「っいた!!!」
十九の夏は、ヒーローになってまだ慣れていない夏だった。
二十の夏は、ヒーローとしての自信の持ち方を模索していた夏だった。
二十一の夏は、ヒーローとしての自信を手のひらに込めた夏だった。
何度も塗りつぶした。
私は毎年、塗りつぶした。
その度に、安堵した。
それも、今年で終わりだ。
「いず、っ、デク!!!!!」
何年も見続けたヒーローコスチュームが、赤に染まっている。
私を認識した瞬間、その顔が驚きで溢れた。
「援助する!! 敵の個性は?」
「多分複合型だ。しかも、二つどころじゃない」
「ちっ、厄介だな」
「こいつが多分、親玉だ。こいつを叩けば、」
「分かった、任せて」
二十二の夏。
私は、彼を助けるために力をつけた。
肺に溜め込んだ汚い空気も、握り込んだ拳の中にも、彼を助ける力がある。
命を貸してください。
身体を明け渡してください。
二十二の夏、私は隠された太陽のために戦うのだ。
「っ、が、」
「デク!! くそ、ショート!!」
「わかってる!!!」
吹っ飛ばされたデクを追う敵を、ショートの熱と氷が阻む。
だっ、と走り出した足で命を感じた。
荊棘ではない鉄の棘が皮膚を引き裂く。
守る。守ってみせる。
私より先にずっとこいつと闘っていたであろうデクは、もうぼろぼろ。お願いだから、もう動かないで良い。動かないで。君の、これからのヒーロー人生の為に。私の為に。
「名前!」
「ああああああ!!!!!」
爆発音が耳を掠める。
この程度の爆発で倒せると思っていない。
思ってはいないが、舌打ちと苛つきが止まらない。
身体を貸してください。
命を明け渡してください。
私の傲慢な願いのために。
「っ!、? づあ、」
「名前!!」
「大したことない!ちっ、やっぱりこれじゃあ駄目か」
「だが、いくつかの個性を持っていても、いつまでも使えるわけじゃねえらしい。……ほら、見ろ」
いまさっきから何回も発動している火の個性。
今も出そうとしているみたいだが、どうもうまくいってないみたいだ。
吹っ飛んだ私を受け止めてくれたショートから離れて、心臓を落ち着けた。まだ、元気そうだ。出久は、……よし、気絶している。
「轟、お願いがあるんだけど」
「内容によっちゃあきかねえからな」
「これを終わらすために、必要なことだから。周りにいる人を出来るだけ遠くに行かせて。ヒーローも、民間人も。デクも、もう闘えない」
「お前、一人で倒せると思ってんのか? 他のヒーロー達を待った方がいい」
「倒せる。私だよ? 出来ないことなんて、ない」
ショートはこいつとの相性が悪すぎる。
他のヒーローがいつ来れるかも分からない。
なら、私がやるしかない。でないと、出久が起きる。
今日は、二十二の夏だ。
やらなければ、いけない。
製法を頭の中で思い浮かべる。
じわりと熱くなる手のひら。
……いける、大丈夫。
これが、最後だから。
ショートの声を無視して、声を張り上げた。
喉が痛い。
でも、それもあと少し。
この痛みでさえ、愛しい。
「平和に犠牲はつきもの! かかってこいよ、あんたのお気に入りの火の個性、使えなくなったんでしょう」
「おい!」
「轟。あともう一つ。私とこいつを広い範囲で氷で覆って。……頼んだ」
「っくそ!」
いまだ使われたことのないオクタニトロキュバン。さて、どのくらいの威力があるのか。わくわくしてしまう。不謹慎だね。でも、口角が上がるんだ。
出来れば、録画してその威力を見たかった。
指示を出し、離れていく轟を見て長く長く息を吐いた。
心配することなど一つもない。ものの数分で、周囲にいる人々を避難させることができると信じている。なんたって、高校生の時から優秀なのだから。
「何でお前らはいつも!! 邪魔ばっかりするんだぁぁぁあ!!!」
「っらぁぁあ!!!!」
まだ避難はできてない筈だ。あと少しだ。
ピクリン酸の製法をなぞるように頭の中で思い浮かべると、手のひらを敵に向け、勝手なタイミングでがちりと音がする。
途端に爆発したが、やはりうまく巻き込まれてはくれない。結構な威力の筈なのに。一筋縄ではいかないか。
「っくそ、くたばれ!!!!」
「死ね!!!!」
敵に向けていた自分の掌から、何か飛び出していた、気がする。
首が、頭が後ろに身体を引っ張って飛んでいく。
気付けば背中に強打。
心臓が皮膚を破って飛んでいくかと思った。
酸素をまともに吸い込めないのに、咳ばかりだけをして苦しい。呼吸がままならない。
ざざざと耳で鳴る音。口元から垂れた血を拭って勝手に上がる口角。
左の掌を貫いている太い針を、思い切り引き抜いた。
まだ、咳は止まらない。
生きている証だ。まだ、生きている!!
「ちっ、しぶてえな、お前」
「げほ、っは、……伊達に、ヒーローやってないんで。……これで、終わらす。地面に這いつくばれよ、くそ雑魚」
「やってみろや」
大切な、あの人たちのために。出久のために。
私はここで倒れるわけにも、負けるわけにもいかない。
製法が複雑であればあるほど身体にかかる負担はでかい。だから、オクタニトロキュバンは今まで作れなかったけれど、今なら。
戸惑わない。
教科書で見るような文字が踊る。
なぞらえたその瞬間から、製法が始まる。
「最大威力、」
血を心臓が吸っている感覚がして、ぐらりと眩暈。踏ん張る足で見上げた先に、迫る敵の個性。
笑った。
水と氷とか、相性悪すぎ。
っく、と喉がなった瞬間、耳をつんざく爆音と、真っ白な爆風が襲う。ぐつりと、熱風が爆風と共に弾かれた。あたりの建物や瓦礫を巻き込み、吹き飛んだ。あまりの威力に自分自身でさえ、立っているのがやっとだった。
目をあけた時から。
歩いた時から。
全ては、このために。
君を生かすために。
傲慢な押し付けだと、分かってる。
今日は二十二回目の出久の誕生日だ。
昨日、父さんにも母さんにも会ってきた。
沢山話をした。
母さんには、私が出久を好きなことがバレていて思わず笑ってしまった。
流石、母さんだ。笑いながら、涙が出た。楽しい、悲しい。相反する二つの感情が私を見つめていた。
昨日のことなのに、遠い昔のようだ。
あの夢は本当だったのだと、思い知らされた。
それと同時に、ただの夢だと笑い飛ばさなかったことに酷く安心した。
今朝、と言ってもまだ日が昇り始めた早すぎる朝に、ヒーロー達に一斉送信されたメールにいよいよかと拳を握りしめた。前日に作っておいたおにぎりを口の中にお茶と一緒に流し込んで、勝己と二人で家を出た。
神妙な顔の勝己は、何も言わなかった。
ただ、頭をしつこく撫でられた時、上を向かなかった。顔をあげたら、駄目だと思った。いつもより強い力が、その理由を教えてくれる。
「お前の近くにいることはできねえ。だから、自分の身ぐらい自分で守れ」
「心配されなくても、私だってもうプロヒーローだよ」
その言葉に嘘はない。
息を一つ吸い込んだ。
この先会えるか分からないから、後悔しないようにしないといけない。
「勝己、ありがとう。毎年のプレゼント選びに付き合ってくれて。毎年、出久の誕生日の日に髪アレンジしてくれて。……勝己、死なないでね」
「俺のこと誰だと思ってんだよ。自分の心配だけしてろ」
一ヶ月前に現れた敵と同時に隠された太陽。
その敵は人脈が広く、洗脳系の個性を持つ手下を抱えていることにより対策が出来ず、こんなにも時間がかかった。しかし、黒幕が分かった今、今日が絶好のチャンスだからなにがなんでも捕まえると、ヒーロー側も躍起になっている。
何せ、被害が大き過ぎる。
緊迫する空気は、ヒーローになって一番重たいものだった。
先輩の顔が見たこと無いほどに強張っている。
敵の凶悪さが、見なくても伝わる。
大丈夫。私は、強くなった。
「今動ける奴ははやく行け!!!」
「はい!!!」
「いいか、お前ら。死ぬな!!」
喉を締め付ける命令に、私だけが返事をしなかった。出来ない。私は、死ぬから。可能性の問題ではない。私が死ななければ、出久が死んでしまう。それだけは、嫌だ。
デクは、もう現場にいるらしい。
この世から、平和の象徴を奪わせない。
未来から、緑谷出久の存在を消してたまるか。
見慣れた先輩の背中。
拳をぶつけ合った同僚。
今までお世話になりました、ありがとう。
感謝が胸のうちから溢れていく。
十六の夏は、幸せだった。
十七の夏は、現実を知った。
十八の夏は、苦しかった。
「……出久、まだ死なないでよ」
敵の個性なのか、太陽が隠されて一ヶ月。
やっと正体を現した敵をここで倒さなければいけない。
見上げた空は、目を細める輝きを失っていた。
「出久!!! デク!! どこ!?!」
私の声は爆音で消される。
埃が砂を纏って風に乗っかり、ごうごうと音を立てて走り回る。目に入るそれが痛くてたまらない。
インカムから流される情報が更新されるたびに増えていく、死者の数。敵の数。
吹雪く季節外れの雪。
敵のものなのかヒーローによるものなのか。
分からないし、今知る必要はない。
一番大きな被害場所、攻防が一番激しいところ。
どこだ、見つけろ。はやく。
そこに、出久がいる。
走り抜ける血生臭い戦場と化した、道路の上。
息も絶え絶えで、見つからない恐怖と焦りで立ち止まった瞬間。……何処かで、一際でかい音が、激しい爆風と振動を辺りにまき散らした。
「っいた!!!」
十九の夏は、ヒーローになってまだ慣れていない夏だった。
二十の夏は、ヒーローとしての自信の持ち方を模索していた夏だった。
二十一の夏は、ヒーローとしての自信を手のひらに込めた夏だった。
何度も塗りつぶした。
私は毎年、塗りつぶした。
その度に、安堵した。
それも、今年で終わりだ。
「いず、っ、デク!!!!!」
何年も見続けたヒーローコスチュームが、赤に染まっている。
私を認識した瞬間、その顔が驚きで溢れた。
「援助する!! 敵の個性は?」
「多分複合型だ。しかも、二つどころじゃない」
「ちっ、厄介だな」
「こいつが多分、親玉だ。こいつを叩けば、」
「分かった、任せて」
二十二の夏。
私は、彼を助けるために力をつけた。
肺に溜め込んだ汚い空気も、握り込んだ拳の中にも、彼を助ける力がある。
命を貸してください。
身体を明け渡してください。
二十二の夏、私は隠された太陽のために戦うのだ。
「っ、が、」
「デク!! くそ、ショート!!」
「わかってる!!!」
吹っ飛ばされたデクを追う敵を、ショートの熱と氷が阻む。
だっ、と走り出した足で命を感じた。
荊棘ではない鉄の棘が皮膚を引き裂く。
守る。守ってみせる。
私より先にずっとこいつと闘っていたであろうデクは、もうぼろぼろ。お願いだから、もう動かないで良い。動かないで。君の、これからのヒーロー人生の為に。私の為に。
「名前!」
「ああああああ!!!!!」
爆発音が耳を掠める。
この程度の爆発で倒せると思っていない。
思ってはいないが、舌打ちと苛つきが止まらない。
身体を貸してください。
命を明け渡してください。
私の傲慢な願いのために。
「っ!、? づあ、」
「名前!!」
「大したことない!ちっ、やっぱりこれじゃあ駄目か」
「だが、いくつかの個性を持っていても、いつまでも使えるわけじゃねえらしい。……ほら、見ろ」
いまさっきから何回も発動している火の個性。
今も出そうとしているみたいだが、どうもうまくいってないみたいだ。
吹っ飛んだ私を受け止めてくれたショートから離れて、心臓を落ち着けた。まだ、元気そうだ。出久は、……よし、気絶している。
「轟、お願いがあるんだけど」
「内容によっちゃあきかねえからな」
「これを終わらすために、必要なことだから。周りにいる人を出来るだけ遠くに行かせて。ヒーローも、民間人も。デクも、もう闘えない」
「お前、一人で倒せると思ってんのか? 他のヒーロー達を待った方がいい」
「倒せる。私だよ? 出来ないことなんて、ない」
ショートはこいつとの相性が悪すぎる。
他のヒーローがいつ来れるかも分からない。
なら、私がやるしかない。でないと、出久が起きる。
今日は、二十二の夏だ。
やらなければ、いけない。
製法を頭の中で思い浮かべる。
じわりと熱くなる手のひら。
……いける、大丈夫。
これが、最後だから。
ショートの声を無視して、声を張り上げた。
喉が痛い。
でも、それもあと少し。
この痛みでさえ、愛しい。
「平和に犠牲はつきもの! かかってこいよ、あんたのお気に入りの火の個性、使えなくなったんでしょう」
「おい!」
「轟。あともう一つ。私とこいつを広い範囲で氷で覆って。……頼んだ」
「っくそ!」
いまだ使われたことのないオクタニトロキュバン。さて、どのくらいの威力があるのか。わくわくしてしまう。不謹慎だね。でも、口角が上がるんだ。
出来れば、録画してその威力を見たかった。
指示を出し、離れていく轟を見て長く長く息を吐いた。
心配することなど一つもない。ものの数分で、周囲にいる人々を避難させることができると信じている。なんたって、高校生の時から優秀なのだから。
「何でお前らはいつも!! 邪魔ばっかりするんだぁぁぁあ!!!」
「っらぁぁあ!!!!」
まだ避難はできてない筈だ。あと少しだ。
ピクリン酸の製法をなぞるように頭の中で思い浮かべると、手のひらを敵に向け、勝手なタイミングでがちりと音がする。
途端に爆発したが、やはりうまく巻き込まれてはくれない。結構な威力の筈なのに。一筋縄ではいかないか。
「っくそ、くたばれ!!!!」
「死ね!!!!」
敵に向けていた自分の掌から、何か飛び出していた、気がする。
首が、頭が後ろに身体を引っ張って飛んでいく。
気付けば背中に強打。
心臓が皮膚を破って飛んでいくかと思った。
酸素をまともに吸い込めないのに、咳ばかりだけをして苦しい。呼吸がままならない。
ざざざと耳で鳴る音。口元から垂れた血を拭って勝手に上がる口角。
左の掌を貫いている太い針を、思い切り引き抜いた。
まだ、咳は止まらない。
生きている証だ。まだ、生きている!!
「ちっ、しぶてえな、お前」
「げほ、っは、……伊達に、ヒーローやってないんで。……これで、終わらす。地面に這いつくばれよ、くそ雑魚」
「やってみろや」
大切な、あの人たちのために。出久のために。
私はここで倒れるわけにも、負けるわけにもいかない。
製法が複雑であればあるほど身体にかかる負担はでかい。だから、オクタニトロキュバンは今まで作れなかったけれど、今なら。
戸惑わない。
教科書で見るような文字が踊る。
なぞらえたその瞬間から、製法が始まる。
「最大威力、」
血を心臓が吸っている感覚がして、ぐらりと眩暈。踏ん張る足で見上げた先に、迫る敵の個性。
笑った。
水と氷とか、相性悪すぎ。
っく、と喉がなった瞬間、耳をつんざく爆音と、真っ白な爆風が襲う。ぐつりと、熱風が爆風と共に弾かれた。あたりの建物や瓦礫を巻き込み、吹き飛んだ。あまりの威力に自分自身でさえ、立っているのがやっとだった。
