二十一の夏
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玄関の扉を見つめた。
出久が言っていた勝己の話は、かなりショックだった。私は、勝己をずっと苦しめていたんだと、ようやく知ったのだから。それも、自分では気づかなかった。
思い返せば、この頃飲みに行く日が多いなと思っていた。
気付かなかった。
それが、一番悔しい。
勝己は私のことを気づいてくれるのに私は。
「……ごめん」
気付けなかった。
出久にも心配をかけてしまって、勝己にも。
情けない。
どうしようもない自分の甘い部分が憎い。
切り捨てている筈だのに、切り捨てきれていない。
両手のひらを大きく広げ、思い切り頬へぶつけた。
ばちんと、良い音が周りに響き、目が冴える。
よし、と大量の息と共に吐き出した声。
「ただいま!!」
私は今日も帰ってきたよ。
「うるせえな」
「勝己、明日家帰ろ! そんで、二人でご飯作ろう! 美味しいお酒買って」
「……明日何時に終わんだよ」
「何も起こらなかったら夕方かなあ。勝己は?」
「俺も」
靴なんかほっぽり散らかして、どたばたとリビングに向かった。
のんびりとソファに座っている勝己を見てほっとする。
ごめんね。
ありがとう。
私はまだ、生きてるよ。
「車で迎えに行くから待っとけよ」
「ありがとう。よし、お酒呑むぞ!勝己も呑むよね」
買ってきたおつまみをテーブルに置き、せかせかと冷蔵庫からビールやら何やらを取り出した。呆れた顔でこちらを見ている勝己はこの際無視だ無視。
勝己とお酒が呑める。
幸せだあ。
座れる場所はどこにでもあるのに、勝己の横へと距離を開けずにぎゅうぎゅう詰めた。
「ちょ、おい。せめえ、あっち座れよ」
「やだ。……む、やっぱり勝己が作った方が美味しい」
「たりめえだろ。比べんな」
「このビール美味しいーー!」
離れようとしない私に諦めたのか、溜息をついているが、少し上がった口角を私は見逃しませんよ。
まだ崩していない団子を勝己が触ると、静かな空気が包む。
じとりと汗を流すビール缶を視界の端に追いやり、ぽつりと呟いた。
「プレゼント、渡せたよ。ありがとう」
「……お前、気付いてるだろ。デクがお前のこと」
「勝己」
大きな声が出た。
ぐい、と煽るビール缶の中身を飲み干す。
口元を拭った後、兄の目を見上げた。
伸ばした背筋のまま、力強く掌の中に指先を四本丸め込んだ。
「私は、この家に帰ってくるよ。……生きてるから」
「……ちっ」
話したくない。
聞きたくない。
出久のちりつく熱を埋めた目が、忘れられない。
私が遮った話を、勝己は追わない。掘り返さない。
ごめん。
こんな妹で。
苦々しい表情を浮かべ、合わせていた目を逸らした。
「わかってんだよ、んなこと。くそ、いらんこと言いやがって」
「いらん心配かけさせてた。ごめん」
「お前、危なっかしいんだよ。ふざけんな。呑め、潰れろ」
「お、勝負する?」
「受けて立つわ」
拭いきれない罪悪感に、それでもその優しさに甘えてしまう。
兄は偉大だ。
次々とあけるビール缶。
おつまみに伸ばす手。
十七回目のやりとりは、包まれた優しさに甘えた。
出久が言っていた勝己の話は、かなりショックだった。私は、勝己をずっと苦しめていたんだと、ようやく知ったのだから。それも、自分では気づかなかった。
思い返せば、この頃飲みに行く日が多いなと思っていた。
気付かなかった。
それが、一番悔しい。
勝己は私のことを気づいてくれるのに私は。
「……ごめん」
気付けなかった。
出久にも心配をかけてしまって、勝己にも。
情けない。
どうしようもない自分の甘い部分が憎い。
切り捨てている筈だのに、切り捨てきれていない。
両手のひらを大きく広げ、思い切り頬へぶつけた。
ばちんと、良い音が周りに響き、目が冴える。
よし、と大量の息と共に吐き出した声。
「ただいま!!」
私は今日も帰ってきたよ。
「うるせえな」
「勝己、明日家帰ろ! そんで、二人でご飯作ろう! 美味しいお酒買って」
「……明日何時に終わんだよ」
「何も起こらなかったら夕方かなあ。勝己は?」
「俺も」
靴なんかほっぽり散らかして、どたばたとリビングに向かった。
のんびりとソファに座っている勝己を見てほっとする。
ごめんね。
ありがとう。
私はまだ、生きてるよ。
「車で迎えに行くから待っとけよ」
「ありがとう。よし、お酒呑むぞ!勝己も呑むよね」
買ってきたおつまみをテーブルに置き、せかせかと冷蔵庫からビールやら何やらを取り出した。呆れた顔でこちらを見ている勝己はこの際無視だ無視。
勝己とお酒が呑める。
幸せだあ。
座れる場所はどこにでもあるのに、勝己の横へと距離を開けずにぎゅうぎゅう詰めた。
「ちょ、おい。せめえ、あっち座れよ」
「やだ。……む、やっぱり勝己が作った方が美味しい」
「たりめえだろ。比べんな」
「このビール美味しいーー!」
離れようとしない私に諦めたのか、溜息をついているが、少し上がった口角を私は見逃しませんよ。
まだ崩していない団子を勝己が触ると、静かな空気が包む。
じとりと汗を流すビール缶を視界の端に追いやり、ぽつりと呟いた。
「プレゼント、渡せたよ。ありがとう」
「……お前、気付いてるだろ。デクがお前のこと」
「勝己」
大きな声が出た。
ぐい、と煽るビール缶の中身を飲み干す。
口元を拭った後、兄の目を見上げた。
伸ばした背筋のまま、力強く掌の中に指先を四本丸め込んだ。
「私は、この家に帰ってくるよ。……生きてるから」
「……ちっ」
話したくない。
聞きたくない。
出久のちりつく熱を埋めた目が、忘れられない。
私が遮った話を、勝己は追わない。掘り返さない。
ごめん。
こんな妹で。
苦々しい表情を浮かべ、合わせていた目を逸らした。
「わかってんだよ、んなこと。くそ、いらんこと言いやがって」
「いらん心配かけさせてた。ごめん」
「お前、危なっかしいんだよ。ふざけんな。呑め、潰れろ」
「お、勝負する?」
「受けて立つわ」
拭いきれない罪悪感に、それでもその優しさに甘えてしまう。
兄は偉大だ。
次々とあけるビール缶。
おつまみに伸ばす手。
十七回目のやりとりは、包まれた優しさに甘えた。
