高校二年生、出会う
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水泳部に入部した江は、毎日を忙しくも楽しく過ごしているようだ。
帰宅部の自分とはまるっきり違うスケジュールにほとんど会うこともなくなったが、夕飯は必ず一緒にするからその時に近況を教えてくれる。
今は、泳げない部員のためにみんなで頭を捻らせているとのこと。
ああだこうだとみんなで考えて、泳げる人が教えて、試して。その繰り返しをしているらしい。
「それでね、水着を買いに行くことになったの」
「……へえ」
泳げない理由が水着とは、なかなか面白いというか新しいというか、なかなかぶっ飛んだ発想ではあるなと思う。
口には出さないが、きっと江も同じことを考えている。
まあでも、楽しそうだし良いかな。
口ばっかり動いて箸があまり進んでいない妹に食事を勧めていれば、「ねえねえ、お姉ちゃん」と江が笑みを深くした。
「何?」
「お兄ちゃんが、よく小学生の時言ってたこと覚えてる?」
「んー、なんだっけ」
「遙先輩とお姉ちゃんは似てるって」
「あー、……言ってたね」
少し前に、直接会って話しまでしたが自分ではわからない。
突然なにを?と思ったが、妹はそれ以上語らず、私の顔を見てはニマニマして「似てるなあ〜」と一人で楽しんでいた。
それが、昨日のこと。
「松岡江を迎えにきました」
二度目の対峙。
二度目も同じセリフ、同じシチュエーション。
青色は、薄暗くなった空の下でも綺麗だった。
部活のことで遅くなる、と江からメッセージが来たのは夕方だった。
何時頃か聞けば、夕飯には少し遅れるであろう時間だったため、母さんに事情を説明した後こうやって迎えに来たというわけだ。
海を見つめながら歩くのは、新鮮だ。
冷たい風に頬を撫でられ、きっと赤く冷たくなっている頬を手の甲で温めた。
二度目の家。
チャイムを鳴らして出てきたその青色に、初めて見るわけでもないくせに、私は息をのんだ。
「あんた、……凛と江の、」
「はい。前回は自己紹介できていませんでしたね、すみません。松岡名前です」
そうして、少し前に戻る。
ざわざわと胸がうるさかった。
凛も、七瀬遙にこれに似た何かを感じたのだろうか。
それはきっと、嫌なものなんかを一つも含まない、透き通って美しい───海に似たなにか。
「……俺は、七瀬遙だ」
「知ってます。二人から話はよく聞くので」
「そうか」
「その、私は凛とあなたの間になにがあったか知りません。ですが、……凛は、昔からあなたのことが大好きですよ」
「は」
「知ってるだろうけど、あいつカッコつけたがりだから」
ぽかん、と薄く唇を開けている七瀬遙。
表情は変わらないが困惑しているであろう様子は、前回感じることのなかった人間味を感じさせる。
青色。
青色ばかりに囚われて、私は七瀬遙を知らない。
当たり前だ、凛と江と違って会ったことも話したこともないのだから。
ちらちらと、ここにはいない片割れの色が視界の端で揺れている。
「……あんたは、」
七瀬遙が困惑したまま口を開いた時、奥から「あ!お姉ちゃん!」と江が顔を出した。
「江、迎えにきたよ」
「ありがとう!ちょっと待って、荷物とってくる」
「わかった」
また引っ込んだ顔を見送り、目の前の男に視界を移した。
薄く開いていた唇は再び固く閉ざされ、うろうろと目線が動いている。
「七瀬」
「、なんだ」
「さっきの続き、また会えた時に聞かせてくださいね」
「……ああ。あと、敬語はいらない。同じ歳だろ」
「わかった。それと、凛にはさっきのこと言わないで。照れ屋だから」
「ふ、約束する」
「ありがとう」
ふ、と肩の力を抜いて目元が柔らかく弛む。
その一連の変化を、不思議な気持ちで眺めていた。
どこにもない、探したってどこにも見あたらない色が、青が。
自分を見つめている。
七瀬遙には、水が似合う。
ただ、それだけを知った。
「松岡」
「なに?」
「……いや、何でもない」
七瀬遙の表情は変わらない。
────お前の代わりに、俺がたくさん笑ってんだよ。
凛がよく言っていたセリフが、音を立てずに記憶の中で構築される。
そうか、と思った。
どこかで納得した。
「お姉ちゃん、お待たせ。遙先輩も、お待たせしてしまってすみません」
「いや、気にしなくていい」
「江、帰るよ。妹がおせわになりました」
「ああ。……またな」
「お邪魔しました。また明日、部活で」
七瀬遙に江と二人で頭を軽く下げ、背を向けた。
私も、幼いときは凛が自分の代わりに感情を表現してくれているものだとばかり思っていた。
今も、その名残がある。
今も、そう思っている時がある。
よく笑い、よく泣く、よく怒る。感情表情豊かな片割れを思い出す。
体ばかり大きくなって、大人に近づいたけれど根っこはなにも変わらない。
……お前の代わりに、か。
七瀬遙の、あの柔らかく弛んだ目尻を見て、凛はきっと私と同じように思ったのだろうか。
「ね、お姉ちゃん」
「ん?」
「遙先輩となに話してたの?」
「この前会った時に名乗ってなかったから、自己紹介してただけだよ」
「ふーん?」
「なに?」
「んーん。ね、遙先輩、お姉ちゃんと似てたでしょ」
今まさにそのことを考えていた。
ちらりと江を見ると、どうやらかなりご機嫌のようで、今にもスキップしそうな、満点の笑顔を浮かべていた。
「あんまり。自分じゃ分からなかった」
江は満面の笑みを崩さないまま頷く。
「私もね、最初はどこが似ているんだろう? って思ってたんだけど、遙先輩と話していくうちにお姉ちゃんと似ているところがたくさん見つかって…。ふふ、なんか嬉しくて」
「私、喋ったけど別に似てると思わなかったけどな」
「まあ、自分じゃ分からないものなのかな」
「さあね」
太陽の端が水平線にかじりついている。
薄暗くなった空に、散りばめられた星がいくつか浮かんでいる。
あの空にも、あの青色はない。
凛も、この空を見ているかな。
帰宅部の自分とはまるっきり違うスケジュールにほとんど会うこともなくなったが、夕飯は必ず一緒にするからその時に近況を教えてくれる。
今は、泳げない部員のためにみんなで頭を捻らせているとのこと。
ああだこうだとみんなで考えて、泳げる人が教えて、試して。その繰り返しをしているらしい。
「それでね、水着を買いに行くことになったの」
「……へえ」
泳げない理由が水着とは、なかなか面白いというか新しいというか、なかなかぶっ飛んだ発想ではあるなと思う。
口には出さないが、きっと江も同じことを考えている。
まあでも、楽しそうだし良いかな。
口ばっかり動いて箸があまり進んでいない妹に食事を勧めていれば、「ねえねえ、お姉ちゃん」と江が笑みを深くした。
「何?」
「お兄ちゃんが、よく小学生の時言ってたこと覚えてる?」
「んー、なんだっけ」
「遙先輩とお姉ちゃんは似てるって」
「あー、……言ってたね」
少し前に、直接会って話しまでしたが自分ではわからない。
突然なにを?と思ったが、妹はそれ以上語らず、私の顔を見てはニマニマして「似てるなあ〜」と一人で楽しんでいた。
それが、昨日のこと。
「松岡江を迎えにきました」
二度目の対峙。
二度目も同じセリフ、同じシチュエーション。
青色は、薄暗くなった空の下でも綺麗だった。
部活のことで遅くなる、と江からメッセージが来たのは夕方だった。
何時頃か聞けば、夕飯には少し遅れるであろう時間だったため、母さんに事情を説明した後こうやって迎えに来たというわけだ。
海を見つめながら歩くのは、新鮮だ。
冷たい風に頬を撫でられ、きっと赤く冷たくなっている頬を手の甲で温めた。
二度目の家。
チャイムを鳴らして出てきたその青色に、初めて見るわけでもないくせに、私は息をのんだ。
「あんた、……凛と江の、」
「はい。前回は自己紹介できていませんでしたね、すみません。松岡名前です」
そうして、少し前に戻る。
ざわざわと胸がうるさかった。
凛も、七瀬遙にこれに似た何かを感じたのだろうか。
それはきっと、嫌なものなんかを一つも含まない、透き通って美しい───海に似たなにか。
「……俺は、七瀬遙だ」
「知ってます。二人から話はよく聞くので」
「そうか」
「その、私は凛とあなたの間になにがあったか知りません。ですが、……凛は、昔からあなたのことが大好きですよ」
「は」
「知ってるだろうけど、あいつカッコつけたがりだから」
ぽかん、と薄く唇を開けている七瀬遙。
表情は変わらないが困惑しているであろう様子は、前回感じることのなかった人間味を感じさせる。
青色。
青色ばかりに囚われて、私は七瀬遙を知らない。
当たり前だ、凛と江と違って会ったことも話したこともないのだから。
ちらちらと、ここにはいない片割れの色が視界の端で揺れている。
「……あんたは、」
七瀬遙が困惑したまま口を開いた時、奥から「あ!お姉ちゃん!」と江が顔を出した。
「江、迎えにきたよ」
「ありがとう!ちょっと待って、荷物とってくる」
「わかった」
また引っ込んだ顔を見送り、目の前の男に視界を移した。
薄く開いていた唇は再び固く閉ざされ、うろうろと目線が動いている。
「七瀬」
「、なんだ」
「さっきの続き、また会えた時に聞かせてくださいね」
「……ああ。あと、敬語はいらない。同じ歳だろ」
「わかった。それと、凛にはさっきのこと言わないで。照れ屋だから」
「ふ、約束する」
「ありがとう」
ふ、と肩の力を抜いて目元が柔らかく弛む。
その一連の変化を、不思議な気持ちで眺めていた。
どこにもない、探したってどこにも見あたらない色が、青が。
自分を見つめている。
七瀬遙には、水が似合う。
ただ、それだけを知った。
「松岡」
「なに?」
「……いや、何でもない」
七瀬遙の表情は変わらない。
────お前の代わりに、俺がたくさん笑ってんだよ。
凛がよく言っていたセリフが、音を立てずに記憶の中で構築される。
そうか、と思った。
どこかで納得した。
「お姉ちゃん、お待たせ。遙先輩も、お待たせしてしまってすみません」
「いや、気にしなくていい」
「江、帰るよ。妹がおせわになりました」
「ああ。……またな」
「お邪魔しました。また明日、部活で」
七瀬遙に江と二人で頭を軽く下げ、背を向けた。
私も、幼いときは凛が自分の代わりに感情を表現してくれているものだとばかり思っていた。
今も、その名残がある。
今も、そう思っている時がある。
よく笑い、よく泣く、よく怒る。感情表情豊かな片割れを思い出す。
体ばかり大きくなって、大人に近づいたけれど根っこはなにも変わらない。
……お前の代わりに、か。
七瀬遙の、あの柔らかく弛んだ目尻を見て、凛はきっと私と同じように思ったのだろうか。
「ね、お姉ちゃん」
「ん?」
「遙先輩となに話してたの?」
「この前会った時に名乗ってなかったから、自己紹介してただけだよ」
「ふーん?」
「なに?」
「んーん。ね、遙先輩、お姉ちゃんと似てたでしょ」
今まさにそのことを考えていた。
ちらりと江を見ると、どうやらかなりご機嫌のようで、今にもスキップしそうな、満点の笑顔を浮かべていた。
「あんまり。自分じゃ分からなかった」
江は満面の笑みを崩さないまま頷く。
「私もね、最初はどこが似ているんだろう? って思ってたんだけど、遙先輩と話していくうちにお姉ちゃんと似ているところがたくさん見つかって…。ふふ、なんか嬉しくて」
「私、喋ったけど別に似てると思わなかったけどな」
「まあ、自分じゃ分からないものなのかな」
「さあね」
太陽の端が水平線にかじりついている。
薄暗くなった空に、散りばめられた星がいくつか浮かんでいる。
あの空にも、あの青色はない。
凛も、この空を見ているかな。
