高校二年生、出会う
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何やら最近、妹は忙しいらしい。
聞いてもはぐらかされるだけのため、帰りが遅くなる時は注意するようにしっかり懇々と説明した。
凛もまた、何かを考えているようだった。
あの日、夜に出会ってからはメールもない。連絡しても返事はないだろうことは今までの経験でよくわかっている。
ぼんやりと、散っていく桜の花弁を目の端で見つめながら今年の夏をおもった。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい」
「夕飯作るの?手伝う」
「ありがとう、でもちょっと早いからまだゆっくりしてて」
「わかった。着替えてくる」
「ええ」
たおやかに、柔らかく微笑む自分の母。
似てないなあ、と思う。
私も凛も、きっと父さんに似たのだ。
「……」
ぼふん、とベッドに体を投げた。
凛の匂いがするベッドは、気持ちを穏やかにもしてくれるし、傷ついたような戸惑ったような凛の表情を脳裏に強く思い起こす原因にもなる。
あの日、帰る時まで目を合わせてくれなかった。
突き放すようにして肩を押され、「気をつけて帰れよ」とだけ言い残した凛の表情は窺えないまま。
春と夏。
鮮やかな桃色、桜。鮮やかな空。柔らかな風。
緑が萌える山、葉。目が覚めるような空。熱く湿った風。
春と夏は、凛の季節だ。
春に出会い、春に別れる。
夏は大切な時間を育む。
秋も冬も、きっと凛には大切な時間に違いないけど、春と夏こそが凛と凛の大切にする仲間たちの思い出が濃く刻み込まれる時期だった。
す、と目を閉じる。
江にああ言った手前、私が凛の行先を案じるのは軽率な気がして。
まとまらない思考にもうんざりして。
きつくきつく、瞼を閉じた。
仕方ないじゃないか、凛に嫌われたくなくて拒絶されたくなくてただ見守ることを選択していたなんて、ついこの間まで気づかなかったのだから。
ちらちらと、凛の顔が、背中が瞼に浮かぶ。
きつく瞼を閉めるほど、より濃く鮮明に。
「……最悪」
名前は諦めて、仰向けになった。
目を開けて、ぼんやりと天井を見つめた。
下から、母さんが呼んでいる声がする。
結局着たままの制服を、凛の部屋に放り投げて凛の服を着た。
母さんには変な顔をされるだろうけど、すっきりしない胸の内が気持ち悪くて、そんなことにまで気を遣えない。
「はーい、今降りる」
さっぱりした部屋を、リビングに降りる前に見渡した。
「ただいまー!」
今日も遅い帰りだが、ちょうど夕飯ができた頃合いでタイミング良し。
リビングに入ってきた江は、テーブルに並んだ夕飯を見て「おいしそう」と満面の笑顔をつくる。
「おかえり、江。ご飯食べるでしょ、早く着替えてきな」
「はーい!」
「名前、ご飯ついでくれる?」
「わかった」
三人分の茶碗、三人分の箸。三人分のコップ。
あともう一つは、なかなか使う機会がない。
可哀想に。
出番のない食器たちを見つめ、棚を閉める。
与えられた仕事をこなすために、名前は三つの茶碗を持って炊飯器まで歩いた。
「いただきます」
三人の声が重なり、食事が始まる。
温かくて美味しいご飯は、江がちょうどいいタイミングで帰ってきてくれたからありつけるのだ。
「美味しい、これ。お母さんが作ったの?お姉ちゃん?」
「母さんに教えてもらいながら私が作った」
「そうなの?すごい、美味しいよ!」
「良かった。いっぱい食べて」
ニコニコと笑顔なのは割と普段からだが、今日はやけに機嫌がいい。
持ち上がった口角は、きっと寝る時まで落ちることはないだろうな、と思うほどには。
「江、何かあった?機嫌がいいね」
途端に、待っていましたと言わんばかりの目が私に向けられる。
らんらんと輝き、その輝きはいつかの凛みたいで。眩しくて仕方がない。
「ふふ、遙先輩たちが水泳部をつくるらしいの!また、遙先輩達とお兄ちゃんが泳げるかもしれないのが嬉しくて」
「あら、そうなの。江も入るのかしら」
「うん!」
「頑張ってね」
「ありがとう、頑張る!」
そっか。
前に進んでいるのは、夏に向けて動いているのは江も、……七瀬遙もなんだ。
すとんと、心のうちに落ちてくる。
正体は分からずじまいだが、きっとそれは悪いものではないんだろうなと思う。
「……お姉ちゃんは、どう思う?」
「私?」
「うん」
少しだけ不安そうに聞いてきたのは、きっと私が凛のことに対してあまり触れてあげないでと暗に言ったからだろう。
江が動いたのはきっと、凛に進んで欲しいからもあるんだろう。でも、この春に出会った人たちの影響もきっとある。
水泳が好きなのは、江も同じ。
「良いじゃん、頑張って。ああは言ったけど、……江はね、江のしたいようにすればいいんだよ」
片割れに拒否されるのが怖くて留まっている私よりも、何かしたいと動ける妹が羨ましかった。
心の内に落ちてきた、正体不明なものはじわじわと温度を持つ。
今年もきっと、良い夏が来るんじゃないかと私に思わせる予感があった。
眩しくて、輝かしい凛の季節が来る。
聞いてもはぐらかされるだけのため、帰りが遅くなる時は注意するようにしっかり懇々と説明した。
凛もまた、何かを考えているようだった。
あの日、夜に出会ってからはメールもない。連絡しても返事はないだろうことは今までの経験でよくわかっている。
ぼんやりと、散っていく桜の花弁を目の端で見つめながら今年の夏をおもった。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい」
「夕飯作るの?手伝う」
「ありがとう、でもちょっと早いからまだゆっくりしてて」
「わかった。着替えてくる」
「ええ」
たおやかに、柔らかく微笑む自分の母。
似てないなあ、と思う。
私も凛も、きっと父さんに似たのだ。
「……」
ぼふん、とベッドに体を投げた。
凛の匂いがするベッドは、気持ちを穏やかにもしてくれるし、傷ついたような戸惑ったような凛の表情を脳裏に強く思い起こす原因にもなる。
あの日、帰る時まで目を合わせてくれなかった。
突き放すようにして肩を押され、「気をつけて帰れよ」とだけ言い残した凛の表情は窺えないまま。
春と夏。
鮮やかな桃色、桜。鮮やかな空。柔らかな風。
緑が萌える山、葉。目が覚めるような空。熱く湿った風。
春と夏は、凛の季節だ。
春に出会い、春に別れる。
夏は大切な時間を育む。
秋も冬も、きっと凛には大切な時間に違いないけど、春と夏こそが凛と凛の大切にする仲間たちの思い出が濃く刻み込まれる時期だった。
す、と目を閉じる。
江にああ言った手前、私が凛の行先を案じるのは軽率な気がして。
まとまらない思考にもうんざりして。
きつくきつく、瞼を閉じた。
仕方ないじゃないか、凛に嫌われたくなくて拒絶されたくなくてただ見守ることを選択していたなんて、ついこの間まで気づかなかったのだから。
ちらちらと、凛の顔が、背中が瞼に浮かぶ。
きつく瞼を閉めるほど、より濃く鮮明に。
「……最悪」
名前は諦めて、仰向けになった。
目を開けて、ぼんやりと天井を見つめた。
下から、母さんが呼んでいる声がする。
結局着たままの制服を、凛の部屋に放り投げて凛の服を着た。
母さんには変な顔をされるだろうけど、すっきりしない胸の内が気持ち悪くて、そんなことにまで気を遣えない。
「はーい、今降りる」
さっぱりした部屋を、リビングに降りる前に見渡した。
「ただいまー!」
今日も遅い帰りだが、ちょうど夕飯ができた頃合いでタイミング良し。
リビングに入ってきた江は、テーブルに並んだ夕飯を見て「おいしそう」と満面の笑顔をつくる。
「おかえり、江。ご飯食べるでしょ、早く着替えてきな」
「はーい!」
「名前、ご飯ついでくれる?」
「わかった」
三人分の茶碗、三人分の箸。三人分のコップ。
あともう一つは、なかなか使う機会がない。
可哀想に。
出番のない食器たちを見つめ、棚を閉める。
与えられた仕事をこなすために、名前は三つの茶碗を持って炊飯器まで歩いた。
「いただきます」
三人の声が重なり、食事が始まる。
温かくて美味しいご飯は、江がちょうどいいタイミングで帰ってきてくれたからありつけるのだ。
「美味しい、これ。お母さんが作ったの?お姉ちゃん?」
「母さんに教えてもらいながら私が作った」
「そうなの?すごい、美味しいよ!」
「良かった。いっぱい食べて」
ニコニコと笑顔なのは割と普段からだが、今日はやけに機嫌がいい。
持ち上がった口角は、きっと寝る時まで落ちることはないだろうな、と思うほどには。
「江、何かあった?機嫌がいいね」
途端に、待っていましたと言わんばかりの目が私に向けられる。
らんらんと輝き、その輝きはいつかの凛みたいで。眩しくて仕方がない。
「ふふ、遙先輩たちが水泳部をつくるらしいの!また、遙先輩達とお兄ちゃんが泳げるかもしれないのが嬉しくて」
「あら、そうなの。江も入るのかしら」
「うん!」
「頑張ってね」
「ありがとう、頑張る!」
そっか。
前に進んでいるのは、夏に向けて動いているのは江も、……七瀬遙もなんだ。
すとんと、心のうちに落ちてくる。
正体は分からずじまいだが、きっとそれは悪いものではないんだろうなと思う。
「……お姉ちゃんは、どう思う?」
「私?」
「うん」
少しだけ不安そうに聞いてきたのは、きっと私が凛のことに対してあまり触れてあげないでと暗に言ったからだろう。
江が動いたのはきっと、凛に進んで欲しいからもあるんだろう。でも、この春に出会った人たちの影響もきっとある。
水泳が好きなのは、江も同じ。
「良いじゃん、頑張って。ああは言ったけど、……江はね、江のしたいようにすればいいんだよ」
片割れに拒否されるのが怖くて留まっている私よりも、何かしたいと動ける妹が羨ましかった。
心の内に落ちてきた、正体不明なものはじわじわと温度を持つ。
今年もきっと、良い夏が来るんじゃないかと私に思わせる予感があった。
眩しくて、輝かしい凛の季節が来る。
