高校二年生、出会う
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多分、会ったことはないと思う。
多分、というのも、私は自分が人の顔を覚えることが苦手だということを自覚しているからだ。
だから、多分あったことは無い、と思う。
凛が言う、私と似ている七瀬遙とは。
だから、これが初対面だ。
七瀬と彫られている表札を横目に押したインターホンに、どんな奴が出てくるのか、あれだけ似ていると言われれば興味も出てくる。しかし、予想もしなかったことは案外簡単に起こる。
そう、例えば。
──がらりと、開いた扉から出てきた濃い青に息を呑んだ。
「……」
この前、見た、青色がその七瀬遙のものだったこととか。誰が予想できた?
雪に染み込んだ、青。覗き込めば、深くて暗い、夜の水中のような青。
どれだけ探しても無かった色が、この前よりも近くで自分を見つめていることに感じたことのない高揚感が心臓を食い破る。
何も喋らない名前に、怪訝な目で遙は彼女を見つめた。
まだ冷たい空気を飲み込んで、名前は口を重たく開いた。
「……松岡江、ここにいるって聞いたんですが」
「……誰だ」
遅い時間になっても江が帰って来ないから、私が迎えに来たのだ。知らない家のチャイムを鳴らして出てきた、知らない顔。当たり前は当たり前だが、涼しげな顔をした、濡れた濃い青色を見てこれが七瀬遙なのかと酷く納得した。こんな偶然、誰が予想できたことか。
なによりも、この前のあの色の持ち主がまさか七瀬遙だとは思って見なかったが、心のどこかで酷く納得した。あの綺麗な青色は、目の前にいるこの男の以外には似合わないとまで、思った。
「松岡江の姉です」
再び訪れたしばらくの沈黙。
僅かに目を大きくした後、七瀬遙はそうかとだけ言って家の中へと消えていった。恐らく江を呼びに行ったのだと思うけれど、なんだかとてつもなく家の中から騒がしい声が聞こえて来る。
見えなくなった姿に、ゆっくりゆっくりと息を吐いた。できることなら蹲み込んで頭の整理をしたいのだが、そもそもその頭を占めるあの青色が邪魔をしてできそうにない。
開けて少し経ったピアスを弄っていると、再びがらりと戸が開いた。先程よりも、勢いよく。
「お姉ちゃん!」
「江」
「ごめんね、迎えにきてもらって……」
「一人でこんな遅い時間帯に帰らせる方が怖いから、そんな顔しないでいい」
ばたばたと鞄を肩に下げ、短いスカートを揺らしながら我が妹が来た。
スカート短い。そんなことを思っていると、江の後ろから七瀬遙もやってきて、ぱちりと目が合った。
透き通る深い色に、思わず肩を揺らして反応してしまう。
「すまない、こんな時間まで江を付き合わせてしまって」
「いいえ、気にしないでください。妹がお邪魔しました」
「遙先輩、お邪魔しました。また、明日学校で」
「ああ」
七瀬遙の家の中からわいわいと聞こえてきた声に、元気だなあと何気ない感想を抱く。
……似ているか? 私と、七瀬遙は。
あの頃とは変わっている筈だから、もう似ていないのかもしれないが。
隣を歩く江が、嬉しそうな声で私を呼ぶ。
「なに?」
「遙先輩の目、綺麗だよね」
「……いきなり何」
「お姉ちゃん、遙先輩の目をすっごい見てたから。あ、そういえば、お姉ちゃんは遙先輩達に会ったことないんだよね?」
水色を濡らした、濃い色を思い出す。
綺麗な色だった。
私とは違う、夕暮れ時の空の色。
目蓋の裏に焼き付いて、多分今日はずっと思い出すのだろうなと、なんとなくそれは確信した。
でも、そんなことは絶対に言わない。
母さんに共有されでもしたら、大変なことになるから。
興味津々の様子の江の額を弾き、呻く妹を横目で見ながら、ふと凛に会いたくなった。
「生意気」
「……お兄ちゃんは私の連絡無視するくせに、お姉ちゃんとは会って、連絡もとってるのが寂しい」
「……」
ぴたり、と止まった私に合わせて江も歩みを止める。
白い肌が、うっすらと夕焼け色に染まる。
寂しいと言った妹は、発言通り、いつも快活な瞳を伏せてしまった。
……凛に、会いたい。
双子だから、いつも一緒にいた。
凛が転校しても、留学しても、私と凛は出来得る限りの時間を過ごしていた。
それはきっと、江に。妹に、寂しさを与えていたのだろう。
「……ごめん、代わりに怒っとく」
「ううん、……お姉ちゃんを独り占めできるからいいんだ」
「そんな顔して、強がらなくていい。……あいつ、江にはかっこいいお兄ちゃんでいる自分だけを見ていて欲しいんだと思う。カッコつけたがりだから」
「そっかあ。……ふふ、お兄ちゃん、カッコつけたがりだもんね」
「そうそう。自分の気持ちが整理できて、またかっこいいお兄ちゃんができるようになったらふらっと顔見せに来てくれるよ。江は、私と凛の大切な妹だから」
「……お姉ちゃんは?」
「私?」
「お姉ちゃんも、私に弱い部分を見られたくないって思う?」
本当に、よく似た色彩だ。
夕焼けに当てられた瞳は、日中よりも爛々と輝いている。
きっと私のそれも、同じように江には見えているのだろうか。
「もちろん。私もね、江にとって自慢できる姉であり続けたいよ」
「じゃあいいや!でも、私にもちょっとは弱い部分見せてくれたっていいんだからね」
やっぱり、凛はちゃんと怒ろうと決意した。
「分かった、努力する」
早くあの意気地なしが、意地張らずにいれるようになればいいのに。
空を見上げて、すっかり陽の落ちた色を見つめてあの青色を思い出す。
きっと、凛もこの青色に囚われているんだろうな。
多分、というのも、私は自分が人の顔を覚えることが苦手だということを自覚しているからだ。
だから、多分あったことは無い、と思う。
凛が言う、私と似ている七瀬遙とは。
だから、これが初対面だ。
七瀬と彫られている表札を横目に押したインターホンに、どんな奴が出てくるのか、あれだけ似ていると言われれば興味も出てくる。しかし、予想もしなかったことは案外簡単に起こる。
そう、例えば。
──がらりと、開いた扉から出てきた濃い青に息を呑んだ。
「……」
この前、見た、青色がその七瀬遙のものだったこととか。誰が予想できた?
雪に染み込んだ、青。覗き込めば、深くて暗い、夜の水中のような青。
どれだけ探しても無かった色が、この前よりも近くで自分を見つめていることに感じたことのない高揚感が心臓を食い破る。
何も喋らない名前に、怪訝な目で遙は彼女を見つめた。
まだ冷たい空気を飲み込んで、名前は口を重たく開いた。
「……松岡江、ここにいるって聞いたんですが」
「……誰だ」
遅い時間になっても江が帰って来ないから、私が迎えに来たのだ。知らない家のチャイムを鳴らして出てきた、知らない顔。当たり前は当たり前だが、涼しげな顔をした、濡れた濃い青色を見てこれが七瀬遙なのかと酷く納得した。こんな偶然、誰が予想できたことか。
なによりも、この前のあの色の持ち主がまさか七瀬遙だとは思って見なかったが、心のどこかで酷く納得した。あの綺麗な青色は、目の前にいるこの男の以外には似合わないとまで、思った。
「松岡江の姉です」
再び訪れたしばらくの沈黙。
僅かに目を大きくした後、七瀬遙はそうかとだけ言って家の中へと消えていった。恐らく江を呼びに行ったのだと思うけれど、なんだかとてつもなく家の中から騒がしい声が聞こえて来る。
見えなくなった姿に、ゆっくりゆっくりと息を吐いた。できることなら蹲み込んで頭の整理をしたいのだが、そもそもその頭を占めるあの青色が邪魔をしてできそうにない。
開けて少し経ったピアスを弄っていると、再びがらりと戸が開いた。先程よりも、勢いよく。
「お姉ちゃん!」
「江」
「ごめんね、迎えにきてもらって……」
「一人でこんな遅い時間帯に帰らせる方が怖いから、そんな顔しないでいい」
ばたばたと鞄を肩に下げ、短いスカートを揺らしながら我が妹が来た。
スカート短い。そんなことを思っていると、江の後ろから七瀬遙もやってきて、ぱちりと目が合った。
透き通る深い色に、思わず肩を揺らして反応してしまう。
「すまない、こんな時間まで江を付き合わせてしまって」
「いいえ、気にしないでください。妹がお邪魔しました」
「遙先輩、お邪魔しました。また、明日学校で」
「ああ」
七瀬遙の家の中からわいわいと聞こえてきた声に、元気だなあと何気ない感想を抱く。
……似ているか? 私と、七瀬遙は。
あの頃とは変わっている筈だから、もう似ていないのかもしれないが。
隣を歩く江が、嬉しそうな声で私を呼ぶ。
「なに?」
「遙先輩の目、綺麗だよね」
「……いきなり何」
「お姉ちゃん、遙先輩の目をすっごい見てたから。あ、そういえば、お姉ちゃんは遙先輩達に会ったことないんだよね?」
水色を濡らした、濃い色を思い出す。
綺麗な色だった。
私とは違う、夕暮れ時の空の色。
目蓋の裏に焼き付いて、多分今日はずっと思い出すのだろうなと、なんとなくそれは確信した。
でも、そんなことは絶対に言わない。
母さんに共有されでもしたら、大変なことになるから。
興味津々の様子の江の額を弾き、呻く妹を横目で見ながら、ふと凛に会いたくなった。
「生意気」
「……お兄ちゃんは私の連絡無視するくせに、お姉ちゃんとは会って、連絡もとってるのが寂しい」
「……」
ぴたり、と止まった私に合わせて江も歩みを止める。
白い肌が、うっすらと夕焼け色に染まる。
寂しいと言った妹は、発言通り、いつも快活な瞳を伏せてしまった。
……凛に、会いたい。
双子だから、いつも一緒にいた。
凛が転校しても、留学しても、私と凛は出来得る限りの時間を過ごしていた。
それはきっと、江に。妹に、寂しさを与えていたのだろう。
「……ごめん、代わりに怒っとく」
「ううん、……お姉ちゃんを独り占めできるからいいんだ」
「そんな顔して、強がらなくていい。……あいつ、江にはかっこいいお兄ちゃんでいる自分だけを見ていて欲しいんだと思う。カッコつけたがりだから」
「そっかあ。……ふふ、お兄ちゃん、カッコつけたがりだもんね」
「そうそう。自分の気持ちが整理できて、またかっこいいお兄ちゃんができるようになったらふらっと顔見せに来てくれるよ。江は、私と凛の大切な妹だから」
「……お姉ちゃんは?」
「私?」
「お姉ちゃんも、私に弱い部分を見られたくないって思う?」
本当に、よく似た色彩だ。
夕焼けに当てられた瞳は、日中よりも爛々と輝いている。
きっと私のそれも、同じように江には見えているのだろうか。
「もちろん。私もね、江にとって自慢できる姉であり続けたいよ」
「じゃあいいや!でも、私にもちょっとは弱い部分見せてくれたっていいんだからね」
やっぱり、凛はちゃんと怒ろうと決意した。
「分かった、努力する」
早くあの意気地なしが、意地張らずにいれるようになればいいのに。
空を見上げて、すっかり陽の落ちた色を見つめてあの青色を思い出す。
きっと、凛もこの青色に囚われているんだろうな。
