松川一静の色気の始まりはえっちなお姉さんだといい
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注意:近親相姦
松川一静には、二人の姉がいた。
一人は死んでいる。
けれど、そのことを知ったのは、理解したのは、小学生の頃だ。
何故なら。
「あーあ」
松川一静には、死んだはずの姉の声が聞こえるからだ。
「女の子、泣いちゃったよ」
かわいそうに。
耳元で嘲るような笑い声が弾ける。
ゆらり、と肩を撫でる姉の手のひらを、しっかりと感じるからだ。
「ほら」背後から伸びる、白い上肢。その先に指先。そのまた先には、すでにいなくなった女の子がいた場所を指し示す。
生白い腕、指先。それが、見えるからだ。
ずっと前から、松川一静には死んだはずの姉が見える。触れる。聞こえる。
それが、どれだけ異常なことかを理解していた。
皆んなには見えない、自分だけの姉の声。
「……」
「うるさいな、って思ったでしょ。最近、一静ぜーんぜん話してくれないし、寂しい」
「……」
「まあ、そりゃそうか」
寂しいフリも、悲しむフリも、泣いたフリも、二人目のいないはずの姉は、おそらく生きている頃から上手だった。
耳元。声がする。
「おかしい子になっちゃうもんね」
ふふ。と笑う。
それを無視して、松川一静は荷物をとるために教室へ向かった。
甘い匂い。もう、ずっと前から知っている匂い。ここにはないはずの匂い。
苦い苦い思い出の原因は、いつだって名前だ。死んだはずの姉。死んだはずなのに、そこにいる。歳の離れた一番上の姉より二つ年齢が若い姉は、高校一年生の時に亡くなった。一静が小学一年生の時だった。
可愛い可愛いと猫を可愛がるように、名前は一静の近くにいた。いつも。いつもだ。
朝起きて、一静。家を出る前に一静。帰ってきて一番に一静。お風呂もご飯も一緒に、横で。寝る時も、同じ布団で寝た。「一静、内緒だよ」名前は寝る時、決まってそう言った。
柔らかな唇。女の体がどこもかしこも柔らかいのは、名前が一静に教えた。
「彼女ができたら、教えてね」囁くような声は、もう何年も前のことなのに未だに鮮明に思い出せる。
「名前ちゃん」
周りが突然の逝去に声も出せず啜り泣く中、幼い一静は自分の隣にいる名前を呼んだ。
にこりと微笑み、一静のまろい額に唇を落とす。いつもより冷たくて、けれど柔らかな唇。
「なんで、あそこにも体があるの?」
見慣れない真っ白の箱の中、名前の体が横たわっていた。制服を着せてもらっている。目は硬く閉じていて、触った頬、唇は記憶の中よりもずっと硬い。
不思議だった。だから、聞いただけ。
可愛い子。ふ、と口の端で笑う名前が確かにそう言った。
「一静」
棺を指差す一静の小さくて温かな指先は、目を真っ赤にした父親の手のひらにそっと保護された。
父親の肩越しには、名前と仲の良かった一番上の姉が嗚咽混じりに泣いている。
その隣には、母親が。
幼い一静は、何もわからなかった。
確かに隣にいる名前。けれど、見慣れない真っ白の箱の中にも名前がいる。
そして、ここにいる誰も彼もが泣いていた。名前、と彼女の声を口に出しながら。
「おとうさん、あのね」
「一静、名前はここにはもういない」
「いない?」
「ああ。……死んでしまったんだよ」
「でも」
「一静」
宥めるみたいな声だった。
仲の良いきょうだいだったから。
父親は、涙の一つも浮かべない一静を優しく優しく抱きしめた。まだ、幼いこの子には姉が死んだことすら理解できないのだろうと憐んで。
父親に抱きしめられた一静を見て、名前は笑う。
可愛い子だね、内緒だよ。真っ赤な唇に添えられた人差し指は、一静の目尻を悪戯に撫でた。
「名前ちゃんおはよう」
一静はよく分からないまま、普段通りおはようからおやすみの挨拶を名前にしていた。
だって、いるから。だって、そこにいるから。
けれど。
「一静、名前はいないって何度も言ってるよね」
「うそじゃないよ」
「っ、あんた!」
一番上の姉は、仲の良かった妹の悲報にまだ立ち直れていないのだ。
そんな中で、自分には見えない名前に挨拶をして嘘ではないと言う弟に苛立つのは仕方がないこと。
「ちょっと、落ち着きなさい。悲しいのは分かるけど、弟に当たらないの。一静も、寂しいのは分かるけどお姉ちゃんを困らせるようなこと言ったらだめよ」
「……だって、いるよ」
「一静、私の前で次名前がいるとか言ったらマジで怒るから」
「香!」
「……名前ちゃん」
名前ちゃん。
どうして?だって、ここに居るのに。
私の可愛い一静。そう言って、頭を撫でてくれる。いつもと何も変わらない。
うずくまり、一静は悲しくて悲しくて少しだけ泣いた。ここにいるのに、みんなには見えていないなんて、名前ちゃんが可哀想だよ。
そう思った。
「名前は一静のこと可愛がってたから、心配なんだろうなあ」
一静が名前の死後、彼女の名前を呼び、挨拶をして名前の生前の時と同じ生活をしているのを見て父親はそう言った。
名前に与えられた部屋は、生前のままだった。
なぜなら、一静が名前が生きていた頃と同じようにそこで眠りにつくからだ。
布団に入り込み、左向きになる。
目を開ければ、名前がいる。
一静だけを、見ている。
「一静、内緒だよ」
絡められた指先。
頬に、額に落とされる唇。
一静は、キスの仕方も女の体がどこもかしこも柔らかいことも、知っていた。
全部全部、名前が幼い弟に教え込んだのだ。
ふわりふわり。大好きな、名前ちゃんの匂い。
一番上の姉を、一静はお姉ちゃんと呼ぶ。
二番目の姉を、一静は名前ちゃんと呼ぶ。
それは、名前が一静に名前で呼んで欲しいと言ったからだ。
「一静」
可愛い子。
おかしいと気づいたのは、小学生の頃だった。
小学生四年生の頃。
名前ちゃん、と一静が呼ぶ。
「なあに?」隣にいる名前が首を傾げて、目線を合わせる。甘い匂い。
頬に伸ばされた指先の、冷たくて柔らかなこと。
一静は「あのね」と口元を綻ばせて、その手に擦り寄った。
その時だった。
「一静お前、誰と喋ってんの?」
「え?名前ちゃんだよ」
「名前って、誰だよ」
「俺のお姉ちゃん」
「はあ?」
冷たくて柔らかい、名前ちゃんの指先。手のひら。が。
「熱でもあんの?」
名前ちゃんの指先、手のひらをすり抜けて友達の手が一静の頬を突いた。
「え、?」
「熱はないみたいだけど」
「今、……」
「てか、お前の姉ちゃん一人死んでなかった?」
死んでる。誰が。
そういえば、名前ちゃん、って。
少しずつ、少しずつ、熱が体から消えていく。
一静は震える体を落ち着ける方法など知らない。
名前ちゃん。譫言のように名前を呼んだ。
だって、そこに。いるのに。
「おい、一静?」
可愛い子。名前が笑う。真っ赤な唇が弛む。
弾かれたように一静はその場から走り出した。
夢から覚めたような気分だった。いつもより頭が冴えていて。
…………違う、今までがおかしかったんだ。
「内緒だよ」耳元で名前の声がする。頬を撫でる指先の柔らかさが消えない。
これは全部、夢なのか。
それとも、自分だけがおかしいのか。
一静は、確かめる術を知らない。
その日から、一静は自室で寝るようになった。
名前の部屋はすっかり片付けられ、下の弟に与えられた。
「一静おはよ」名前は相変わらず、一静のそばにいる。変わったことと言えば、一静が名前に反応しなくなったことだけで、あとは何も変わらない。
返事のくれない弟に、名前はただうっすらと笑うだけ。返事をよこさない、それだけのことだ。
名前はまた言う。かわいい子だね、と。
「一静、彼女つくらないの?」
告白されたその日、家に帰り部屋に入ると名前は当然のようについてくる。ベットに腰掛けた一静の隣、ひんやりとした身体が隙間なくひっついた。
名前は一静の顔を覗き込みながら、尋ねる。
こんなにモテるのに。
名前は喉の奥で笑うだけ。
「もう中学生なのに、キスしたいとか女の子と手を繋ぎたいとか思わない?体触ってみたいな、とか」
キスは、した。名前と。
手を繋いだ。名前と。
体なんて、沢山触った。名前の体を。
一静はひたすら、無視をした。
あの日から、名前の存在ごと無視しようと決めたのだ。
怖かった。恐ろしかった。自分にしか見えない存在も、死んだはずの姉が近くにいることも、小学生の頃の自分には受け止めれなかったのだ。
「一静」
けれど。
きっと、怖いも恐ろしいも、後付けでしかないのだと思う。
名前ちゃん。
声にならない呼び名。
歳の離れた姉が、美しいままそこにいる。
来年になれば、同い年になる。
一静は、一生満たすことのできない飢えこそ根幹にある恐怖ではないかと、膝にのしかかる名前の柔らかな太ももに背筋を震わせながらそんなことを思った。
「女の子とキスをする時はね、こうやって、頬を包むの」
返事をしなくなった一静に、名前はただいつも笑うだけ。
可愛い可愛い、私の弟。
硬くなった頬を包み、抵抗のない一静の顔を覗き込みうっそりと笑う。
「一静は背が高いから、かがんであげてね」
親指で、目尻をなぞる。
「じっと目を合わせてね、安心させるみたいに頬を撫でてあげて」
背中を丸め、名前は顔を傾けた。
「この先は、一静もよく知ってるでしょう?」
冷たい唇。冷たい指先。冷たい体。
一静は、あたたかな名前の熱など、もう覚えていない。
けれど。柔らかい体。キスの方法。人の服の脱がせ方。それらを一静は知っている。
何故って、名前が全部一静に教えたから。
「可愛い私の弟。ぜんぶ、全部教えてあげるよ」
くらくらとする頭の中、一静はおかしいと理解していながらもこのおかしな状況を拒めない自分が一番おかしいと、名前の唇を犯す熱を味わいながらそんなことを思った。
「一静、内緒だよ」
名前の真っ赤な唇が、弛んだ。
