『★温もり★(リョ海)』

「寒い…。」

小さく呟かれた言葉。
風に乗り運ばれた言葉に隣りを見下ろすと、手を重ね合わせ擦りながら暖を取る後輩の姿があった。
その様子を目に止め、空を見上げると微かに冷気が立ち込めている。ハーー
と、息を吐けば、白い煙が漂う。
それだけで、この空間が更に寒くなった様だ。
もう一度下に目を向ければ、今だ眉間に皺を寄せつつ、手を擦っている。
その手は寒さからか真っ赤になっており、いかにも冷たそうだ。

「……そんな寒ぃのか?」

声を掛ければ、目線だけを寄越す。

「そー言う、先輩は寒くない訳?」

ブスッとちょっと怒った様なぶっきらぼうな様子の越前。
その質問に、今の気温と自分の状態を考慮し、ちょっと考えてから返答する。

「……別に。んな言う程寒くねぇだろ。」

実際、ホントにこれくらいの寒さならこの季節になると当たり前だし、こんな中でもランニングでトレーニングをしている身としては、全然寒い内にさえ入らない程だった。
だが、自分とこいつの感じ方には差があるらしい。俺の言葉に嫌そうに顔をしかめている。
ちょっぴり拗ねた様な年下のコイツを伺い見る。が、一向に機嫌は直らない。
なんか自分が悪い事をしたような気分で、さすがに居心地が悪くなる。
かと言って、ここで何を言ったら良いかも分からないし、口下手な手前、下手に声を掛けられない自分が居た。
思考を巡らせて居ると、フと越前の真っ赤になった手が目に入った。と同時に考えるより先に身体が動いていた。
目に入った手を掴み上げる。

「海堂先輩…?」

不思議そうに自分を見る越前の表情なんて頭の隅に追いやられ、掴んだ手を口許に持って行くと、ハーと先ほどの様に息を吐いた。
さっきと違うのはそれが寒さを確かめるのでは無く、越前の手を暖める為の物だったからだ。
掴んだ手が氷の様に冷たい。
少しでも暖めてやりたくて、更に手の平を重ね、暖めてやった。

「ちょっ…海堂先輩っ///!」

何故か慌てた様な越前の声が返る。
屈んでいた為、見上げる様に越前を見れば、何やら頬を赤く染め照れた様な越前に出会う。
その意味が分からず、ジーと様子を見て居れば、ますます赤くなったアイツが顔を背け、ボソッと何やら呟いた。

「…それ反則…。」

「は?」

聞き取れた言葉の意味がますます分からず、聞き返すも返る言葉がない。

「………。」

「…………?」

無言が二人の間を通り過ぎる。
何分そうしていたか、いつまでもそんな事していられないと手を放し、歩き出せす。

「変なヤツ…。」

続く足音が聞こえない。
振り返れば、未だ立ち止まったままのアイツ。

「何やってんだよ…。置いてくぞ。」

見つめれば、キッと顔を上げ、自分を見る越前が居た。

「………たく、自然にあんな事すんだから…。煽った責任は取って貰うからね。」

なにやら呟いて居た様だが、よく聞こえず、聞き返そうにも、ズンズン歩き出す越前に、ただ追いかけるしか出来ない海堂であった。

ある寒い日の一コマの出来事 ーーーー


ーENDー
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