『★栗ご飯★(桃海)』
暑い夏も終わりを告げ、風が肌寒くなってきた。
緑が茂って居た木々が少しずつ赤や黄色に色付き始め、秋の訪れを知らせている。
秋ーーーー
読書の秋、芸術の秋、スポーツの秋……
そして……
食欲の秋………
この季節になると、決まって他の家ですでに恒例行事になりつつある景色が、また今日も俺の前で展開されていた。
「………なんで…。」
玄関から入り、リビングに繋がるドアを開けての俺の第一声。
それに、気付いた人物が振り返る。その口は、リスの様に食べ物が溢れんばかりに入り膨らんでおり、その手には茶碗と箸がしっかりと持たれていた。
さも自分の物かの様に……。
「よっ、海堂! おっかえり~♪」
ニコッとこちらが脱力してしまいたくなる程の幸せそうな笑みを向けられるが、こっちはそれに返答出来る様な気分ではない。
「…なんで、テメェがここに居る……。」
地を這う様な怒声を絞り出す様な低音で響かせる。
が、そんなものに堪える様な神経をしていない桃城と言う男は、ヘラッと笑うとモグモグとまたも美味しそうにオカズを食べると、満面の笑みでこう答えた。
「お前に会いに♪」
「………。」
絶対嘘だ…。
聞いた瞬間に脳がはっきりと否定した。
まして、今この光景を目にした後では、とても信じられない。
こんなに笑顔で俺の『母さんの手料理を美味そうに食っている』桃城の言葉なんて……。
しかも、部活後、自主練をしている俺を置いてまで先にここに居るコイツの言葉なんて……。
そう、これが我が家で最近の恒例となっている光景であった。
何故か桃城は、毎日の様に俺より先に俺の家に居ては、こうして美味そうにご飯を食っているのだ。
しかも、俺の家族とそれはそれは楽しそうに談笑しながら……。
そして、その目的はというとーー
秋になり、食卓には秋ならではの栗やキノコ、竹の子と言った秋野菜や、秋刀魚などの旬の魚、そして梨や柿などの水々しい果実たち……
桃城=食べ物
こんな図式が自然と浮かんでしまいのが、とても嫌だ…。
しかし、そんな美味しそうに食べる桃城を俺の家族は大歓迎してるってのも……泣けてくる。
ハァ………
知らず知らずの内に溜め息が出てくる。
もう何も反論する気力も起きず、そのまま桃城を一瞥すると、俺は荷物を置きに部屋に行く為、リビングを後にした。
その間にもリビングからは笑い声が絶えない。
また口を大きくして幸せそうに食べて居るのかと思うと、もう呆れるを通り越して諦めの気持ちになってしまった。
私服に着替えリビングに戻ると、やはり予想通り、桃城の茶碗にはまたしても大盛りの栗ご飯が乗っかっていた。
あまりの予想通りの光景にガクッと頭が垂れる。
もう一度溜め息を吐くと、桃城の隣の席を引き座った。
「……………。」
チラッと横を向けば、もう何杯目かになったか分からないお代わりをしている。
「食い過ぎ……。」
「ん?」
ボソッと呟けば、頬張ったままのその姿で見詰めてくる。
モグモグと口だけは動いていて、思わず笑ってしまった。
「クククッ。」
「?」
首を傾げるその姿も笑える。
一通り笑ったら、もうコイツがこうして俺の家で、こうしてご飯を食べているのもどうでもいい事に感じてくる。
そんな俺を不思議そうに桃城が見ていた。
その頬には口に入りきらなかったご飯粒が付いている。
「桃城、ご飯粒……。」
そういいながら自然の事のようにそのご飯粒を手で取り口に入れていた。
「ククッ、サンキュー♪」
そう言いながら、桃城がクスクス笑いながらニヤニヤしている。
その言葉を聞いて、初めて自分のした事が恥ずかしくなり、照れ隠しに桃城の頭を叩く。
「たくっ、世話のかかる奴。」
「へへ♪」
それでも、桃城はニヤニヤを止めず、嬉しそうにしていた。
ここがどこだかも忘れてイチャ付く2人であった。
慣れとは怖いモノである。
毎日こんな日常を送っていたら、それが自然の事に、普通の事に感じるのだから。
その後は、隣のコイツの事は構わず、食事に取り掛かった。
まあ、その量は桃城の三分の一にも満たなかったが……。
コイツがこんなに美味そうに食べているのを見るのは嫌いではない自分が居た。
食事も終わり、リビングで皆で話をしていると、そろそろ桃城の帰る時間になった。
「んじゃ、今日はごちそーさんでした!! ホントに穂摘さんの作る料理サイコーです☆ 美味かったです。」
ニッコリと本心のままにそう告げる桃城に、穂摘もニコニコと笑顔だ。
「まあまあ、ありがとう、桃城君♪ また、明日もいらしてね☆ 明日は竹の子ご飯だから♪」
「わ~マジッスか♪ じゃあ、部活後そっこーで来るッス!」
「…………。」
そんな2人のやり取りを見て、なんだか複雑になる。
桃城はやっぱりご飯の為だけに俺の家に来ているのだろうか……?
あんなに美味そうに食ってるんだ…
きっと、ご飯が第一なんだろうな……
もんな事を考えていると、挨拶の終わった桃城が、玄関から出る。
俺は、桃城を見送る為に玄関を出て、門まで行く。
「…………。」
「どした海堂?」
無言で居ると、桃城が顔を覗き込む様に聞いてくる。
「別に……。」
なんとなく憮然として顔を背けて返す。
「そうか?」
「………。」
シーンと辺りの暗さを引き立たせる様に静寂が包む。
「あ!」
そんな中、何かを思い出した様に桃城が声を上げた。
不審に思い顔を上げると、頬に手を添えられる。
桃城の行動をジッと見ていると、ゆっくり顔が近づいて来て、唇に暖かな感触が……
それは一瞬のことで。
気付いたら、目の前に桃城のにっこりと笑った顔があった。
「あ………。」
「へへ♪ 忘れ物☆ ごちそーさん♪ んじゃ、また明日な!」
桃城はそう言うと、呆けている俺を残し、自転車に跨ると夜道を走り出していた。
我に返った時には、遠くなったその背中しか見えず……。
最後の最後でやられた……
さっきまでの苛々やモヤモヤが無くなっている。
たくっ、アイツには適わないな。と思う。
キス一つでなんでも良くなるって俺自身も、相当なモやられてるけど…。
例えご飯がメインだろうが、少しは自分に会いに来たと言うアイツの言葉を信じてもいいかな…と思う。
明日もきっと桃城が、美味しそうにご飯を食べる姿を見ることになるだろう―――
何だかんだ言いながら、それを楽しみにしている俺が、ここに居た―――
― END ―
―おまけ―
「穂摘さんの美味しいご飯もが食べれて、可愛い恋人にも会えて、俺って幸せ者だな~♪ 早く明日になんねぇかな~♪」
暗い夜道を、ルンルンとご機嫌で自転車を漕ぐ桃城の姿があった。
―おしまい―
緑が茂って居た木々が少しずつ赤や黄色に色付き始め、秋の訪れを知らせている。
秋ーーーー
読書の秋、芸術の秋、スポーツの秋……
そして……
食欲の秋………
この季節になると、決まって他の家ですでに恒例行事になりつつある景色が、また今日も俺の前で展開されていた。
「………なんで…。」
玄関から入り、リビングに繋がるドアを開けての俺の第一声。
それに、気付いた人物が振り返る。その口は、リスの様に食べ物が溢れんばかりに入り膨らんでおり、その手には茶碗と箸がしっかりと持たれていた。
さも自分の物かの様に……。
「よっ、海堂! おっかえり~♪」
ニコッとこちらが脱力してしまいたくなる程の幸せそうな笑みを向けられるが、こっちはそれに返答出来る様な気分ではない。
「…なんで、テメェがここに居る……。」
地を這う様な怒声を絞り出す様な低音で響かせる。
が、そんなものに堪える様な神経をしていない桃城と言う男は、ヘラッと笑うとモグモグとまたも美味しそうにオカズを食べると、満面の笑みでこう答えた。
「お前に会いに♪」
「………。」
絶対嘘だ…。
聞いた瞬間に脳がはっきりと否定した。
まして、今この光景を目にした後では、とても信じられない。
こんなに笑顔で俺の『母さんの手料理を美味そうに食っている』桃城の言葉なんて……。
しかも、部活後、自主練をしている俺を置いてまで先にここに居るコイツの言葉なんて……。
そう、これが我が家で最近の恒例となっている光景であった。
何故か桃城は、毎日の様に俺より先に俺の家に居ては、こうして美味そうにご飯を食っているのだ。
しかも、俺の家族とそれはそれは楽しそうに談笑しながら……。
そして、その目的はというとーー
秋になり、食卓には秋ならではの栗やキノコ、竹の子と言った秋野菜や、秋刀魚などの旬の魚、そして梨や柿などの水々しい果実たち……
桃城=食べ物
こんな図式が自然と浮かんでしまいのが、とても嫌だ…。
しかし、そんな美味しそうに食べる桃城を俺の家族は大歓迎してるってのも……泣けてくる。
ハァ………
知らず知らずの内に溜め息が出てくる。
もう何も反論する気力も起きず、そのまま桃城を一瞥すると、俺は荷物を置きに部屋に行く為、リビングを後にした。
その間にもリビングからは笑い声が絶えない。
また口を大きくして幸せそうに食べて居るのかと思うと、もう呆れるを通り越して諦めの気持ちになってしまった。
私服に着替えリビングに戻ると、やはり予想通り、桃城の茶碗にはまたしても大盛りの栗ご飯が乗っかっていた。
あまりの予想通りの光景にガクッと頭が垂れる。
もう一度溜め息を吐くと、桃城の隣の席を引き座った。
「……………。」
チラッと横を向けば、もう何杯目かになったか分からないお代わりをしている。
「食い過ぎ……。」
「ん?」
ボソッと呟けば、頬張ったままのその姿で見詰めてくる。
モグモグと口だけは動いていて、思わず笑ってしまった。
「クククッ。」
「?」
首を傾げるその姿も笑える。
一通り笑ったら、もうコイツがこうして俺の家で、こうしてご飯を食べているのもどうでもいい事に感じてくる。
そんな俺を不思議そうに桃城が見ていた。
その頬には口に入りきらなかったご飯粒が付いている。
「桃城、ご飯粒……。」
そういいながら自然の事のようにそのご飯粒を手で取り口に入れていた。
「ククッ、サンキュー♪」
そう言いながら、桃城がクスクス笑いながらニヤニヤしている。
その言葉を聞いて、初めて自分のした事が恥ずかしくなり、照れ隠しに桃城の頭を叩く。
「たくっ、世話のかかる奴。」
「へへ♪」
それでも、桃城はニヤニヤを止めず、嬉しそうにしていた。
ここがどこだかも忘れてイチャ付く2人であった。
慣れとは怖いモノである。
毎日こんな日常を送っていたら、それが自然の事に、普通の事に感じるのだから。
その後は、隣のコイツの事は構わず、食事に取り掛かった。
まあ、その量は桃城の三分の一にも満たなかったが……。
コイツがこんなに美味そうに食べているのを見るのは嫌いではない自分が居た。
食事も終わり、リビングで皆で話をしていると、そろそろ桃城の帰る時間になった。
「んじゃ、今日はごちそーさんでした!! ホントに穂摘さんの作る料理サイコーです☆ 美味かったです。」
ニッコリと本心のままにそう告げる桃城に、穂摘もニコニコと笑顔だ。
「まあまあ、ありがとう、桃城君♪ また、明日もいらしてね☆ 明日は竹の子ご飯だから♪」
「わ~マジッスか♪ じゃあ、部活後そっこーで来るッス!」
「…………。」
そんな2人のやり取りを見て、なんだか複雑になる。
桃城はやっぱりご飯の為だけに俺の家に来ているのだろうか……?
あんなに美味そうに食ってるんだ…
きっと、ご飯が第一なんだろうな……
もんな事を考えていると、挨拶の終わった桃城が、玄関から出る。
俺は、桃城を見送る為に玄関を出て、門まで行く。
「…………。」
「どした海堂?」
無言で居ると、桃城が顔を覗き込む様に聞いてくる。
「別に……。」
なんとなく憮然として顔を背けて返す。
「そうか?」
「………。」
シーンと辺りの暗さを引き立たせる様に静寂が包む。
「あ!」
そんな中、何かを思い出した様に桃城が声を上げた。
不審に思い顔を上げると、頬に手を添えられる。
桃城の行動をジッと見ていると、ゆっくり顔が近づいて来て、唇に暖かな感触が……
それは一瞬のことで。
気付いたら、目の前に桃城のにっこりと笑った顔があった。
「あ………。」
「へへ♪ 忘れ物☆ ごちそーさん♪ んじゃ、また明日な!」
桃城はそう言うと、呆けている俺を残し、自転車に跨ると夜道を走り出していた。
我に返った時には、遠くなったその背中しか見えず……。
最後の最後でやられた……
さっきまでの苛々やモヤモヤが無くなっている。
たくっ、アイツには適わないな。と思う。
キス一つでなんでも良くなるって俺自身も、相当なモやられてるけど…。
例えご飯がメインだろうが、少しは自分に会いに来たと言うアイツの言葉を信じてもいいかな…と思う。
明日もきっと桃城が、美味しそうにご飯を食べる姿を見ることになるだろう―――
何だかんだ言いながら、それを楽しみにしている俺が、ここに居た―――
― END ―
―おまけ―
「穂摘さんの美味しいご飯もが食べれて、可愛い恋人にも会えて、俺って幸せ者だな~♪ 早く明日になんねぇかな~♪」
暗い夜道を、ルンルンとご機嫌で自転車を漕ぐ桃城の姿があった。
―おしまい―
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